第78話 サキュバスの帰還と、刑の執行




アルテタとミーシャの就任式の翌日、私は魔王国ヴィニシウスに向かうことにした。

目的はサキュバスの3人を帰還させることと、リトリーとゲイリーを魔族領に放置することだ。


魔王国ヴィニシウスでは、対私のマニュアルが作成されており、街の門から普通に行くと魔王様一行が見送りに来る。

それは避けたいため、前回の時のように魔王城の部屋の中に直接転移することにした。


私はサキュバスの3人を自分に捉まらせると、『転移スキル』で魔王城へ向かった。


前回来た時に案内された部屋に転移すると、目の前にメイドさんが2人いた。

メイドさんは私を見ると、腰にかけていた小さなホルンのようなものを口に咥えて吹き出した。


トゥトゥトゥーー


あれ、これは正門から来た時と同じ対応では•••


音が鳴り終わると同時に、この部屋に向かって大勢の足音が迫ってくると、勢いよく扉が開かれた。


「ま、マリー大魔王様。よ、ようこそおいで下さいました」

目の前に現れたフシアナは、全力で走ってきたようで肩で息をしている。


「久しぶり。元気だった?」

「は、はい。マリー大魔王様におかれましても•••」

「そんな堅苦しい挨拶やめてよー。お土産あげないよ」

「お土産とは、まさか以前ご馳走になったホットケーキ、もしくはシュークリームでしょうか!?」

「違うけど、もっと美味しいやつだよ」

「ふぁ〜〜」

フシアナは天を見上げてトロンとした顔になる。

フシアナと一緒に来た魔族も同じ表情をしている。


「ま、マリー様。こちらの方は?」

サキュバスの1人が私に聞いてくる。


「あれ?同じ魔族だから知ってるのかと思った。ヴィニシウスの魔王、フシアナだよ」

「ま、魔王•••さま」

サキュバスの3人はみるみる青ざめ、その場に土下座を始める。


「ま、魔王様とは露知らず、ご挨拶が遅くなり申し訳ありません」

「いきなりどうしたの?」

「マリー様。どうしたではありません。私達は魔族の中では平民です。マリー様も国王様の前では平伏しますよね?それと同じです」


平伏す•••?

ラーラ達が怒る

相手の首が切り落とされる?


想像しただけで身震いをしてしまう。


「顔を上げるのじゃ。マリー大魔王様の前でそのようなこと必要ないのじゃ」

サキュバスの3人がゆっくりと立ち上がる。


「して、マリー大魔王様。こちらのサキュバスはどうしたのじゃ?•••ですか?」



私はこれまでの経緯を説明し、彼女達の保護を求めた。



「なるほど。そのようなことが•••。サキュバスは隣の魔王国ブレイスワイト所属の魔族ですが、わらわで話を進めてみるのじゃ」

「ありがとうー。本当に助かるよ」

「マリー大魔王様のお願いとあれば、これ位ホットケーキ前なのじゃ」

フシアナの頭を無意識に撫でる。

魔王と言われていても、フシアナの見た目は私から見ればまだまだ幼く、かわいい妹のようにしか見えないのだ。


「ま、マリー大魔王様•••」

フシアナは頬に両手を当て、恥ずかしそうな表情をする。


そんなフシアナに、私はアイテム収納からクレープを出し、手渡した。


「マリー大魔王様。この甘い香り、こ、これは一体!?」

「お土産のクレープだよ」

「た、食べてもよいですか?」

「もちろん」


フシアナは大きな口でクレープを頬張る。


「う、美味いのじゃーー!!シュークリームにも使われているクリームに色とりどりのフルーツ、それにこの柔らかな黄色の生地が一体となって最高な味になっているのじゃーーー!!」

フシアナは表現豊かに解説しながら、瞬く間にクレープを食べ終える。

シュークリームの時同様、周りの魔族が羨ましそうにこちらを見つめ、気のせいか口元には涎が光っている。


「はい、フシアナにはお代わりと、みんなの分も作ってきたからどうぞ」

私はアイテム収納からクレープを大量に出し、みんなに配る。

もちろん、サキュバス3人にも渡す。


「お、美味しい」

「私達、助かって本当によかったね•••」

「マリー様がいなければ•••」

サキュバス3人の瞳から涙が流れる。


「人間が怖い思いをさせてしまってごめんなさい」

「や、止めて下さい。マリー様は何も悪くありません」

「マリー様には感謝しかしていません」

私が頭を下げると、サキュバスは慌てて止めに入る。


「それでもさ、私もレーリックの新国王と新女王も気にしてて•••。何かあったら絶対に助けになるから、いつでも相談に来てね」

「有難きお言葉」

「この御恩は忘れません」

「私達のことも、忘れないで下さい」


サキュバスは潤んだ瞳でお願いをして来るが、私がこの3人のことを忘れることは決してない。

それは、今回のリトリーの件がなくてもだ。

なぜなら、このサキュバスの3人の名前は、ドレミ•ファソラ•シドなのだ。

この名前、日本人なら忘れるはずがない。



それから、みんなでクレープを食べ終えると、私は別れを告げ、『転移スキル』で禁断の地の近くに転移した。

禁断の地には神の遣いがいて近寄れないため、離れた場所に転移した。


禁断の地は魔族領の中央に位置しているが、余りにも危険な場所であるため、どの魔王国も領地を放置している場所だ。


私は『牢屋収納スキル』からリトリーとゲイリーを出す。

因みに、この模様は『念写スキル』『投影スキル』でLIVE配信されている。


「ど、どこだここは!?」

「父親、早く城に戻りましょう」

「数日、飲まず食わずの割にまだ元気そうだね?」

太った親子は私を怒りの形相で睨んでくる。


「貴様ー!!よくもこんなことを•••」

「父親、こんな女、殺してしまえばいい」

「ぐぅっ」

息子のゲイリーに言われても、父親のリトリーは私の強さを知っているから襲い掛かってこない。


汗や糞尿、酷い匂いがする2人から一刻も早く離れたい私は、2人の会話を無視して軽い風魔法を放つ。


「ぐっ、なんだこれは!?」

「父親ー、目がー!!」


風魔法は2人の衣服を剥ぎ取った。

裸の2人を前に、一層この場を早く立ち去りたくなる。


「じゃ、私はこれで」

「ま、待て。ここはどこだ!?」

「あなたの大好きなサキュバスがいる魔族領だよ」

「ま、魔族領•••」

リトリーが青ざめる。


「この小娘。適当な嘘を。今なら許してやらんこともない。早く許しを請え」

とことんバカなゲイリーは置かれている状況をまったく把握していない。


「嘘だと思うならそれでもいいけど、近くにはワイバーンとか、強い魔物がいっぱいいるから気をつけてね」

「バカな奴が。ただの森にワイバーンなどいる訳ない」


キェェェェー


「な、なんだこの叫び声は?」

私は黙って上を指す。

上空にはワイバーンが旋回していた。


「う、嘘だ。父親、ここは本当に魔族領なのですか!?」

「そう、らしい」

リトリーはそう言うと大きな体を窮屈そうに動かし、その場で土下座した。


「た、頼む。助けてくれ!!」

「ち、父親?」

「お前も早く這いつくばれー!!」

「は、はい!!」

ゲイリーもその場で土下座をする。


「助けてくれ」

「早く助けろ。いや、助けて下さい」


私は大きなため息をつく。


「そうやって、あなた達の前にも助けを求めた人が大勢いたと思うけど。その時、あなた達はどうしたの?」

「ぐっ、、、」

「私もあなた達と同じことをするだけ」

2人は怒りとも焦りとも違う、何かを悟ったような表情をする。



「そう、何もしない。それだけ」



私はそれだけ言うと『転移スキル』でみんなが待つサズナークまで転移した。


その後の2人のことは、誰も知らない。




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