第75話 母と、子





私は『牢屋収納スキル』を使い、汚物塗れのリトリーを収容した。


私がエメリと裸に近い格好をしたサキュバスの3人を見ると、サキュバス達が私に近づき、跪いた。



「大魔王様。この度は助けていただき、感謝の言葉もありません」

【大儀であったな。必ず魔族領に連れ帰ると約束しようぞ】

「ありがたき幸せ」



私は『アイテム収納』からセーラー服を出すと、サキュバス達に渡した。



【すまぬな。手持ちはこれしかないのだ】

「大魔王様と同じ服を着れるとは、この上ない幸せ」

「私達は幸せ者です」



サキュバス達がセーラー服を着ている間に『ペアリングスキル』でラーラに連絡し、サキュバス達を家ユキに送るようお願いした。



「ま、マリー?」

【エメリか。ひとつ聞きたいのだが、ここにはゲイリーの他に2人の子供がいるのか?】

「は、はい。存在を知っているのはごく一部の者ですが、第二王子であるアルテタ•アグ•レーリック様、第一王女であるミーシャ•アグ•レーリック様がいらっしゃいます」

【どこにいるか分かるか?】

「はい。地下牢です」



私は『探知スキル』で地下部分を確認すると、床に向けてアタミ(極小)を放った。

床が砕けると共に地下に向けて穴が空く。

エメリの肩を抱き寄せると、そのまま穴に飛び降り、一気に地下牢に向かう。


地下牢に着くと、城の周りに長方形の穴が空いた騒ぎのせいか、見張りは居なかった。


「こ、こちらです」


鉄格子の牢屋を幾つも通り過ぎると、一番奥に厳重な作りをした鉄の扉があった。

牢屋を過ぎる際、閉じ込められている人を『魔眼スキル』で確認したが全員犯罪者だった。


犯罪者達は私とエメリに向かって汚い言葉を発してくる。

それに構うことなく、私は鉄の扉に向かってグラン•クリュ(極小)を唱え、扉を破壊した。


それを見ていた犯罪者達は鎮まり、その後、口を開く者はいなかった。



破壊した扉の奥には、広々した部屋にベッドが二つ置かれていた。

部屋には幾つか扉があるため、お風呂やトイレもあるようだ。

ただ、普通の部屋と違うのは、窓がないこと。


私は部屋を観察しつつ、ベッドの上で寝ている男の子と女の子を見た。


「こちらがアルテタ王子とミーシャ王女です」



『DNAスキル』を発動し、確認する。



【ほう。双子なのか?年齢は14歳。父親はあのクズで、母親が王妃ではない女性になっているな】

「なぜそれを!?聞くだけ無駄ですね•••。そうです。2人の母親はリトリー国王、いえ、リトリーが犯したメイドの子です」

【存在を隠すため、地下牢に閉じ込めたと】

「その通りです。私は護衛の立場があり、2人の存在を知っていました」

【そのメイドはどうした?】

「いつもはここで2人の世話をしているのですが•••」



私は『探知スキル』を使うと、奥の部屋に反応を見つけた。



【奥にいるようだな】

「私が見てきます」


エメリは走って奥の部屋に続く扉の前まで来ると、ノックをした。

何度ノックしても反応がないため、エメリが扉を開けると、そこには1人の女性が倒れているのが私の位置からも見えた。


「ルトア、ルトア!!」


エメリがメイドに向かって呼びかけている。


ここにいるアルテタとミーシャ、それに母親であるルトアの様子に違和感を覚える。

アルテタとミーシャに関しては寝息を立てているが、鉄の扉が破壊される程の騒音があって起きないのはおかしい。

ルトアに関しては、明らかに顔色が悪く、意識がない状態だ。


私は『お医者スキル』を使った。


《アルテタ》洗脳状態

《ミーシャ》洗脳状態

《ルトア》洗脳•毒状態



【やはり、あのクズの仕業か】



私は床に右手を置く。



【魔神ラソ•ラキティスの力を行使し、悪しきスキルを解き放つ】



リリース



私の右手から放射線状に黒い靄が放たれ、3人に体に吸収されて行き、3人の洗脳状態は解除された。


同時に大魔王の威圧も終了した。


「ま、マリー。元に戻ったの?」

「ちょっと待ってて」


私はルトアの元に近づくと詠唱を開始する。



「陰の力ありし処、光の力あり。今ここで重なり、互いの力を解放せよ」



グラン•リムーヴ(状態異常回復)



眩い光がルトアを包み込み、光が消えると同時にルトアの意識が戻った。


「私は一体•••」

「ルトア!!よかった。助かったのだな」

「エメリ様•••。あっ、あの子達は!?」

「2人なら無事だよ。洗脳も解いたし、もう直ぐ目を覚ますと思う」

「あなたは??」


私は自己紹介をして、これまでの経緯を説明し、更に現場の推測を話した。


「リトリーはあなたのお子さんを洗脳状態で動けなくして、ルトアさん自身に世話をさせていた。

けど、サキュバスが手に入ったから、今後の世話はサキュバスにさせるつもりでルトアさんに毒を盛った。こんなところだと思う」

「卑劣なやつめ!!」


ルトアさんは子供達が眠っているベッドまで移動すると、優しく頭を撫でる。

瞳からは自然と涙が流れている。


「マリー様。この子達を助けていただいて、ありがとうございました。この子達が無事でいる。私にはこれだけで十分です」


ルトアさんは自分の命が狙われたことなどまるで気にならないような表情で淡々と言った。

この人の子供なら、この国を任していけるかな。

一応、『魔眼スキル』を使ってみたけど、子供達もルトアさんも問題なかったし。


「ルトアさん、エメリ。アルテタとミーシャには、リトリーに変わってこの国を率いてもらいたいと思ってるの」


私は『念写スキル』で撮影したリトリーの悪行と、これから悪事を働くゲイリーのこと、そしてそれを国民に暴露することを併せて話した。


「この子達が•••」

「ルトア、あなたの子ならきっと大丈夫だ。この国を正しき道に導いてくれる」

「けれど•••」


「お母様。私達のことなら心配いりません」

「私達の力で、どこまでできるか分かりませんが、やってみたいと思います」

アルテタとミーシャがベッドの傍で2人の頭を撫でていたルトアに向けて言った。


「あなた達、目が覚めたのね!?よかった•••。本当によかったわ•••」

ルトアは2人を抱きしめる。


「お母様、もう苦しむ必要はないのです」

「誰も、もう苦しむ必要はないのです」

アルテタとミーシャは、ベッドの上で上半身を起こしながら言った。


「マリー様。話は聞いていました」

「夢の中でも、話は聞いていました」

「これまでのことも、全部、見ていました」

「これまでのことも、夢の中で、全部見ていました

「この国は、私達にお任せ下さい」

「この国は、私達にお任せ下さい」

アルテタとミーシャは、流石双子という息の合ったテンポで話してくる。


「ルトアさんも、それでいいですか?」

「•••分かりました。洗脳状態でありながら、ここまで強い気持ちを保てていた2人ならば、必ずやり遂げられるはず」

「この騎士団長エメリ、この国に忠誠を捧げます。アルテタ王子、ミーシャ王女、よろしくお願いします」

「エメリ、よろしく」

「エメリ、よろしく」


すごく良い雰囲気で、すごく良い話をしているのだが、ここが地下牢で扉の外に犯罪者がいるというだけで気分が盛り上がらないため、私は『転移スキル』を使って4人と一緒に玉座に移動した。


「マリー様、凄い」

「マリー様、凄い」

「本当に凄い•••」

アルテタとミーシャ、ルトアは辺りを見渡し、驚いている。


「見晴らしがいい」

「見晴らしがいい」

「このお城は、屋根がなかったんでしょうか?」


玉座には天井や壁はなく、360度街を見渡せる展望台のようになっている。

これをやったのは私だけど、3人は地下で眠っていたから騒ぎは知らないんだね。


「どうしたんでしょうねー??」

「マリー、天井や床はともかく、城の周りに長方形で深い穴が空いていて外に出れないんだが•••」

エメリは恐る恐る下を覗きながら言う。



•••••



私は黙るのであった




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