第74話 大魔王の威圧発動と、やっぱりキモい
私は剣を右に躱すと、同時に手刀で剣を折った。
「何!!」
「少し、話を聞いてもらえますか」
「不審者と交わす言葉はない!!」
兵士は折られた剣を捨て、素手で殴りかかってくる。
私は兵士のパンチを躱すと、魔力を解放させる。私の体から黒いオーラが溢れ、城が揺れ出す。
「ば、バカな•••。なんだこの力は•••」
「相手の強さが分かる人でよかった」
私は魔力の解放を止め、『透視スキル』『盗聴スキル』を発動し、壁の向こう側にいるであろうリトリーを捉える。
「な、なんだ地震か!?まったくわしの楽しみを邪魔しよって」
リトリーの馬鹿そうな声が聞こえる。
私の近くにいれば、この声は聞こえるはずだ。
「リトリー国王!?」
「リトリーは今、国民そっちのけで女性とお楽しみ中だよ」
「ぐっ•••」
「知ってたんでしょ?」
兵士は黙ったまま下を向く。
「信じられないかもしれないけど、私はこの国を助けに来たの。これから中で囚われている女性も助けに行くからそこをどいてくれる?」
「助けに、だと•••」
「そう。あなたも女なら思うところはあるでしょ?」
そう。
私が最初に『盗聴スキル』で聞いた声、そして今目の前にいる兵士の声は女性で、同一だった。
兵士は兜を脱ぎ、素顔を見せる。
20代半ばで整った顔立ちに目は大きく、まつ毛が長い、薄い青色の髪をした女性だった。
「私はレーリック王国の騎士団長、エメリと申します。あなたのその瞳、嘘を言っているとは思えない」
「話は後でするから、ここを通してもらうよ」
「いいえ。私もご同行します」
「いいの?私は構わないけど」
「構いません。そろそろ、騎士を辞める時期だと思ってましたので」
「エメリには続けてもらうけどね。それじゃ、行くよ」
私は『探知スキル』で他に兵士がいないことを確認すると全速力で走り出し、玉座に入りそのまま一気に隣の部屋のドアを突き破った。
「誰だお前は!?」
「女性の味方だよ。キモいおっさん」
「お、おっさん?貴様ー!!わしを誰だと思っておるんだ!!」
「キモいリトリーでしょ?」
「なんだと小娘が!!おーい、誰かおらんのか!?くそ、兵士は下げさせたんだった」
リトリーはその巨漢のせいで、少し大きな声を出しただけで大量の汗をかき、苦しそうに呼吸している。
そこに遅れてエメリが部屋に入って来た。
「エメリ、よくぞ参った。さー、この小娘を殺せ!!」
「嫌です」
「嫌だと•••」
エメリは構わずサキュバスの女性達に近寄り、その場にあったシーツを掛ける。
リトリーは鬼の形相でベッドの横にあった剣を抜くと、エメリに切り掛かる。
私は一瞬でエメリの前に移動すると、切り掛かってきたリトリーの剣を折り、鳩尾にパンチを入れた。
リトリーは苦悶の表情でその場に膝をつく。
「き、貴様•••!!」
「かなり手加減したけど、また同じことするなら許さないよ」
「ふっ、ふふふ」
リトリーは不敵な笑みを浮かべて笑い出す。
「このスキルを使うと寿命が縮まるからあまり使いたくないんだがな。貴様のようなやつを部下にできるなら使う価値がある」
スキル?
この世界にスキルがあるのは知っている。
実際に冒険者ギルドのギルドマスター、マーニャさんとレキシーさんは「認証スキル」「登録スキル」「保護スキル」を使うことができる。
けど、私が知ってるこの世界のスキルはそれだけだ。
「人間ならばこのスキルから逃れることはできんぞ」
「マリー、駄目だ。逃げるのだ!!」
「もう遅い。くらえわしのスキルを」
リトリーが右の人差し指を私に向けた。
『洗脳スキル』
リトリーの指から赤外線のような細く赤い光が放たれ、私の額に当たった。
「やったぞ、貴様は今からわしのものだ」
「ま、マリー•••」
「小娘。まずはそこにいるエメリの鎧を脱がせ、裸にしろ。そして、お前も服を脱ぐんだ」
リトリーは舌舐めずりをする。
「キモい」
私は蔑んだ目でリトリーを睨む。
「な、何だと?」
「マリー!!」
「そんな筈はない。早く服を脱げ!!」
「マジでキモいんだけど」
「何故だ!!お前は人間じゃないのか!?サキュバスと同じ悪魔なのか!?」
「人間だけど」
「嘘をつけ。人間ならわしのスキルが効かない訳ない」
「あの噂は本当だったのか!!あらゆる取引にこの卑怯なスキルを使い、自分の思い通りにしてきたんだな!!」
「だったら何が悪い!!自分のスキルをどう使おうが勝手だ。商談も女もな」
「その結果、多くの人が不幸になり、中には自死をした者もいるのにかー!!」
エメリは怒りに満ちた表情で叫ぶと、リトリーに向かって拳を繰り出す。
巨漢のせいで素早く動けないリトリーは右頬にパンチを受ける。
巨漢は床に大きな音を立てて倒れた。
リトリーが荒く息をしながら上半身を起こすと、私に向かって叫び出す。
「悪魔めー!!貴様のせいで、わしの楽しみがめちゃくちゃだー!!もう少しでそこにいるサキュバスを弄べたのだ!!」
「サキュバスは悪魔だからスキルが効かない。だから無理矢理弄ぶ•••と•••。」
「そうだ!!危険を犯して悪魔領から攫って来たのだ!!」
この世界に来て、初めて仲良くなったのはミア
私を姉と慕ってくれるかわいい妹
そのミアと初めて会ったのは、盗賊に攫われているところだった
ラミリア王国のメレディスさんと初めて会った時も、カサノヴァ国王の勝手な願望のために攫われそうになっているところだった
アイリスさん、アイラも、貴族位が上がったことを妬まれ、攫われた
「お前みたいなキモいやつがいるから•••」
ゾワッ
【大魔王の威圧】が発動した。
私の体全体を黒いオーラが包み、城全体が揺れだし、天井から砂埃が落ちてくる。
エミリとサキュバスの女性達はその圧倒的な威圧に震え上がり、体を動かすことはおろか、言葉を発することもできないでいた。
「な、な、何だ貴様は!?」
相手の強さを察知できないリトリーは私に言ってきた。
【教えてやろうか?】
「!?」
【今のわらわが何者で、なぜ貴様の汚く醜いスキルが効かなかったのかを】
「な、生意気な」
私は身体中に魔力を集め出す。
城は更に大きく揺れだし、天井から瓦礫が落ちてくる。
私は、右手の親指と左手の人差し指、右手の人差し指を左手の親指を合わせ、長方形の形を作ると、天に向けた。
溜まった魔力を手で作った長方形に流す。
【キモい貴様は、もうここから出ることは許さぬ】
長方形が激しく光だすと、一気に城の天井を突き破って上空に放たれる。
ぽっかりと空いた天井から空が見え、空には巨大な長方形の光が浮いている。
【思いしるがいい。悪魔を統べる大魔王の力を】
「だ、大魔王•••」
私は長方形を作っている自分の手を静かに下に降ろした。
キモい
空に浮いていた長方形が一気に地上に向けて放たれ、その圧力によって更に城が崩れだす。
崩れた先から見えたのは、光の長方形が城を潜るように落ちて行く所で、やがて地上とぶつかった。
その瞬間、激しい光と轟音が辺りに響き、大地全体が激しく揺れた。
激しい光と轟音、大地の揺れが収まった先に現れた光景は、城の周りが長方形の形で深く抉り取られ、街と完全に隔離されたものだった。
「あわわわ•••」
【この城は終わりじゃな。でも、心配はないぞ】
「へっ?」
【貴様はサキュバスが好きなんであろう?だったら、魔族領へ送ってやる!!】
「あ、あ、あ」
リトリーはその場で漏らし、気を失った。
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