第68話 神像作成と、幸福度ランキング上昇
診療が終了してから数日、私達はまだサズナークに滞在していた。
滞在理由は、治療を行っていない人がいないかの見回りと、街の復興のお手伝いのためだ。
復興の手伝いはまだあるものの、今日で全て未治療者の確認が終わったため、私はみんなに許可を得て、いったんガーネットのマイホームに戻ってきていた。
移動は全て『転移スキル』なので、今日中には戻るつもりだ。
「お帰り」
家に入ろうとすると自動で鍵が開き、ユキの声が聞こえた。
「ただいまー」
「流石に疲れてるわね」
「慣れない環境だからね。まぁ、お風呂とふかふかのベッドがあるだけマシだけどさ」
サズナークでは、『携帯ハウス』で過ごしているため、基本的には快適だ。
最近では、ミランダさんまでお風呂に入りに来る。
アイリスさんやラーラ達も好きな時に自由にお風呂に入るため、リチャードは立ち入り禁止。
「今はユキしかいないの?」
「そうよ。アイラとアリサは仕事。夜には戻ってくるわ」
「ちょうどいいな」
「何か企んでるの?男、連れ込むの?」
「ち、違うよー。神像を作るの」
「ああー、神様と話すためね」
ユキは日本人の転生者?転生家?なため、神様の存在を知っている。
私は1階の奥にある空き部屋に移動すると、アイテム収納から白龍石を出した。
高さ2メートル、横幅は3メートル位ある石はかなり迫力がある。
まず、その迫力ある石を3分の1だけカットし、『彫刻スキル』で像を成形していく。
前回は土で作ったのだが、白龍石はかなり固く、魔力を相当込めないと成形できない。
それでも何とか作業を進め、1時間程で白龍石で作った神像が完成した。
完成した神像は白く、神々しく光っている。
「器用なもんね」
「スキルのお陰だけどね」
「ふ〜ん。それで、これから神様が出てくるの?」
「後は献上品が必要なんだよ」
「神様もしっかりしてるのね。やっぱりお米とかフルーツを供えるの?」
「ううん。青龍っていうドラゴンを献上するように言われてる」
「青龍?そう言えば、冒険者ギルドのレキシーって人が来て、青龍が欲しいって、言ってたよ」
「レキシーさんが?ユキが対応したの?」
「まさか。アイラと会話してるのを聞いてたのよ」
青龍が欲しいだなんて、何かあったのかな?
「何でも青龍の素材が人気で価格が上がってるらしいわよ。買取も高くなるって」
「神様にあげてもまだ6体位残るから、売ってもいいかもなー」
「ご馳走様」
「王宮料理を奢ってあげるよ」
今度絶対に奢ってあげる
この世界の味を教えてあげる
「今、女子中学生の顔してないわよ」
「ふっふっふ」
私は気持ち悪く笑うと、気持ちを元に戻し、アイテム収納から青龍100体を選択。
『神様に献上しますか?』とメッセージが表示されると、震える人差し指で『はい』を押す。
青龍の買取価格が上がっていると聞いたため、どうしてもお金の事が頭を過ぎる。
青龍を献上すると、神像から放たれる白い光が金色に変わり、やがて神様シンの声が聞こえてきた。
『また話せるようになったわ。ありがとうマリー』
「かなり、後ろ髪を引かれたけどね•••」
『ユキも元気そうね?』
「家だけど元気よー。好きなだけ食べれるし」
『それは何よりだわ』
『•••』
姿は見えないが、シンが何かを探しているような、そんな気がした。
「何か探してます?」
『い、いいえ。別に私は•••』
もしかして、あれかな?
私はアイテム収納から缶ビールを1本取り出し、神像の前に供えた。
その瞬間、神像が先程よりも凄まじい金色の光を放ち、中からシンが現れた。
神像から出たシンは、ぼんやり輝き続けてはいるが、普通の人間に見える。
シンは迷わず缶ビールを開けると、ゴクゴクと喉を鳴らしてビールを飲む。
『ぷはぁー。これよこれ』
「か、神様?」
『•••しょうがないのよ』
「しょうがない?」
『だってー、神界ではお酒がないんだもの。飲まなきゃやってられないのに』
「分るわ。その気持ち。マリー、私にも1本」
ユキは幼女の姿で現れ、酒を催促する。
意気投合するシンとユキに、私は缶ビールを差し出す。
『カンパーイ』「カンパーイ」
「仲が良いのは何よりで」
「それにしても、この世界にも缶ビールがあるのね」
「ないよ?」
「ないって、現にあるじゃないの」
「私が作ったの」
「えっ!?」
ユキは小さな手で持っていたビールを落としそうになる。
「作ったって。違法じゃないの?大丈夫!?」
『大丈夫よ。この世界に醸造の法律はないから』
シンが2本目の缶ビールを飲み干しながら言う。
私は無意識にもう1本差し出す。
「ならいいけど。それにしてもこの缶ビール美味しいわ」
『流石、私のスキルだわ』
ビールを作る際に過剰なほど親切にアドバイスして来たのは、間違いなくシンだね。
分かってはいたけど。
「それにしても、シンは死んでる?のに、お酒飲みたくなるんだね?」
『ちょっと、勝手に殺さないでよ』
「だって、神様ってあの世の人でしょ?」
『あの世って、それは地球人が勝手に定義しているだけで、神界は時空に存在する普通の世界よ』
シンは缶ビールをグイッと口に運ぶ。
『それに、私は死んでないわ。あなた達の表現で言うと人間よ』
「人間!?」
『そうよ。神界はワームホールと同じで時間という概念がないから年を重ねず、寿命が長いのが大きな違いだけどね』
「そうだ。そのワームホールについても知りたいんだけど」
『そうなると、私からも話したいことがあるし、長くなりそうね』
「そうね」
シンとユキが私を見ながら、何かを口に運ぶ仕草をする。
お父さんがお母さんに何かを強請っていた時に同じことをしていた気がする。
あっ、ツマミ
私は『アイテム収納』から唐揚げとフライドポテトを出し、2人に差し出す。
「分かってるわね、マリー」
『流石、私の加護持ちだわ』
2人は缶ビールを飲み、唐揚げとフライドポテトを美味しそうに食べている。
冷静に考えると、神様と家が飲み会をしてるってことだよね?
美人と幼女が飲んでいるとも言えるけど、どちらにして滑稽だな。
『マリーは聞きたいことがたくさんありそうだから、私の話からでいいかしら?直ぐに終わるから』
「いいですよ」
私が答えると、シンは缶ビールを置き、何もない空間からモニターを出す。
『マリー、おめでとうー。再びこの世界の幸福度ランキングが上昇したわよー』
《Z5062星》
幸福度第115,417位(前回)
↓
幸福度第106,217位(9,200位UP)
『アンデッド•トロールの解放、アントワネット国での握手会及び復興、ガーネットでの復興。これがランキング上昇の主な理由ね。因みに、今回のワクチン接種はまだ算定前よ』
意味を理解しているのか分からないが、ユキが拍手をする。
順位が上がったと言うことは、この世界の人が少しでも幸せを感じたということだ。
それは私も素直に嬉しい。
ただ、私にはひとつの疑問もあった。
「幸福度について、聞きたいことがあるんだけど?」
『何かしら?』
「この世界は本当に最下位だったの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます