第66話 白龍と、白龍石




私の目の前には、木のジョッキを片手に愉快そうに笑う白色の髪の女性と、ラーラ、ナーラの姿があり、皆、服装が乱れ肌けている。


3人の後ろでは、60人近い人が地面でそのまま雑魚寝している。

雑魚寝しているのは見る限り全員が女性で、こちらも中々肌けているので、女性の私からしても目のやり場に困った。


「ラーラ、ナーラ?」

「マリーしゃま?」

2人共虚な目でこちらを見ながら言う。

セーラー服って、どうしたらこんなに肌けるのだろうという位、色々露出している。


「ラーラ、ナーラ、スカート直して!!」

「しゅかーろ?」

私は二人に近寄り、お腹近くまで上がっていたスカートの位置を直す。

スカートを腹巻きにするとは•••。


人型に戻ったサーラもため息をつきながら肌けたセーラー服を直している。


「マリーということは、お主がこやつらが話していた聖女であり、アオを殺ったやつじゃな?」

白い髪をした女性が私を見ながら聞いてくる。

女性は着物のような格好をしているが、こちらも色っぽく肌けている。


「はい。そのマリーです」

「愉快じゃ、愉快!!お主には感謝せねばならぬな」

「いいえ、そんな」

「何か欲しいものはないのか??」

「それなら、白龍石が欲しいんですけど•••」

女性は地面を見る。

その瞬間、今まで気づかなかったのが信じられない程に辺り一面の地面が白く輝きだした。


「そう言えば、こやつらもそんなこと言っておったな。こんなもんで本当にいいのか?」

「はい」

「よかろう。好きなだけくれてやるぞ」

「ありがとうございます」

「とりあえずは酒じゃ。わしは白龍の女王、シヴィア。一緒に飲むぞ」

シヴィアは笑顔で木のジョッキを私に差し出す。


「すみません。私、お酒は•••」

「•••、わらわの酒が飲めんと•••」


明らかにシヴィアの表情も口調も代わり、辺りの雰囲気も一変する。

先程まで後ろで寝ていた60人近い女性が起き上がり、私を睨みつける。


同時にサーラが私の前に立ちはだかり、横でほぼ寝ていたラーラ、ナーラも起き上がり護衛の体制に入った。


シヴィアが私達を怒りの目で睨みつけると、辺りが揺れ出す。


これはまずい

私の所為でドラゴン間で戦争になってしまう


私は直ぐにアイテム収納からビールタンクとジョッキを取り出す。


「お酒が飲めない代わりに、シヴィアさんに美味しいお酒を持ってきました」

「酒だと?」

「はい」


地響きは収まったが、シヴィアの目はまだ私を睨みつけたままだ。

私はジョッキにビールを注ぐと、シヴィアに差し出す。


「どうぞ、ビールというお酒です」

「シヴィア様。このような人間の差し出すもの、飲んではなりません」

先程まで後ろで寝ていた女性の一人が言う。


「しかし、何やらこれまでない良き香りがするな•••」

「なりません。妙な気泡もあり、毒の可能性も」

「ふむ」

「なら、私が飲むが?」

サーラがやや目を輝かせて名乗り出る。


「貴様が飲んだところで、解毒を有していたら何にもならん」

「マリー様はそんな下賎なまねはせぬ!!」

女性とサーラが睨み合う。


「よかろう。わらわ自ら飲んでやる」

「シヴィア様!?」

「大丈夫だ。あの者の目、本当にこのビールを飲みたそうにしておる」

「ですが•••」


シヴィアは構わずジョッキを口に運び、一口、二口とビールを飲んだ。

その瞬間、目を大きく見開き、体を震わせ始めた。


シヴィアは白い髪、羨ましい程の大きな目に白い瞳、口元もバランスが良い所謂美人なのだが、その目を見開いた瞬間は美人の欠片もないただの恐ろしい顔になった。


「シヴィア様!?」

「貴様、やはり毒か!!」

「覚悟はできているな!?」

60人近い女性が戦闘態勢に入る。

毒はもちろん入ってないが、やっぱりこのビール不味いんじゃ?


「う、うまーーーい!!」

私の心配をよそに、シヴィアはジョッキのビールを一気に飲み干す。


「し、シヴィア様??」

「何なのじゃ、これは!!美味い!!美味すぎる!!」

「お、お代わり入ります?」

恐る恐る聞く。


「よいのか!?是非頼む。よければ部下達の分も頼むのじゃ」

「いいですよ」

私は返事をすると、ジョッキを追加で出し、次々とビールを注いでいく。


「これじゃ、何度飲んでも足らぬ」

シヴィアは注いだ瞬間から飲み干す。


「そ、そんなに美味しいのですか?」

「これが?」

部下の女性達は恐る恐るビールを口に運ぶ。


「何だこれはーー!!」

「ば、バカな。こんな酒が存在するなんて!!」

シヴィア同様に気に入ったようだ。


「マリー様。私達も貰ってよろしいですか?」

すっかり酔いの醒めたラーラとナーラが言ってくる。私は二人にビールを注いであげた。因みに、サーラはジョッキを運びながら既に飲んでいる。


「美味しい。素晴らしく、美味しい」

「マリー様は、食事だけでなくお酒まで•••。なんと多才な方なのだ」


二人が喜んでくれたのは嬉しいけど、私的には何が美味しいかさっぱり分からない。

14歳だからいけないのかな?

今度、アイラにも飲んでもらおう。


プシューッ!!


色々考えながらビールを注いでいたら、いつの間にかタンクが空になった。


嘘でしょ?

200ℓだよ

ジョッキが仮に500㎖だとして、60人で1人

6杯以上飲めるのに•••


私はアイテム収納から追加のビールタンクを出し、ビールを注ぎ続ける。

しかし、30分かからない内に空になってしまった。


「マリー、お代わりじゃ」

「すいません。無くなっちゃいました•••」

大丈夫かな?また怒り出すかな?


「そ、そうか。これだけ美味い酒なのだから、さぞ貴重なものだったのじゃろうな」

シヴィアはその場に立つと、頭を下げてきた。


「貴重な酒を、すまなかったな。ありがとう」

部下の女性達も全員頭を下げる。


「やめて下さい。頭を上げて下さい。また作ってきますから」

「真じゃな?」

「はい」

「皆の者、またビールが飲めるぞー!!」

全員が喜びの声を上げる。

なぜか、ラーラ、ナーラ、サーラも白龍に交じって喜んでいる。


「そうじゃ、そうじゃ。白龍石だったな?取っておきのやつをくれてやる」

シヴィアが合図をすると、部下の女性達は奥から高さ2メートルはある白く輝く石を運んできた。


「わらわが持ってる中で、品質も輝きも大きさも1番の白龍石じゃ」

「これ、貰っていいんですか?」

「無論じゃ。遠慮せず持って行くがよい」

「ありがとうございます」

「その代わり、またビールを頼むぞ」

「分かりました。今度はもっと作ってきますね」

「それは楽しみじゃ」

シヴィアはその場で愉快そうに笑った。


私はアイテム収納に空のビールタンクとジョッキ、白龍石を仕舞うと、シヴィアに挨拶をして、『転移スキル』でサズナークに戻った。


色々あったけど、無事帰って来れてよかった。


ただ、サズナークで出迎えてくれたアイリスさんは、ビールが無いと知ると酷く落ち込んでいた。


これは直ぐに作った方がいいね。

神像の材料も揃ったし、明日からの治療とワクチン接種が終わったらどちらも直ぐに作ろう。



けど、お酒って、何が美味しいんだろう?

私のベッドで爆睡しているラーラ、ナーラ、サーラを見ながらあらためて疑問に思うのであった。



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