第65話 憧れのお酒と、酒好き





憧れのあのお酒を作りたい。

お父さんも大好きだったお酒だ。


ただ、流石に『料理スキル』を持っていてもお酒の作り方は分からない。

『地球物品創生スキル』で作り方の本を買うか、そもそも材料は揃うのか?


私はステータス画面を見てスキル項目をスクロールする。

自分で選んだスキルとはいえ、見たことないスキルがたくさんある。


う〜ん

何かいいスキルはないかな•••


「んっ!?」

私は一人で声を上げる。

ステータス画面を見れないアイリスさんとサーラは不思議そうに首を傾げる。


私が声を上げた理由は、スキル項目上で特定の6つのスキルが光っていたからだ。

初めての現象に驚きつつも、神様の思し召し?と思ってスキルを選択、発動させる。


『醸造スキル』

『ろ過スキル』

『発酵スキル』

『熟成スキル』

『貯酒スキル』

『充填スキル』


不思議なことに、『醸造スキル』を発動した時点でお酒の作り方が頭の中に浮かんだ。

これならいけるかもしれない。


私はまず、『地球物品創生スキル』で200リットルのタンクを2つと、お酒の入れ物、正確に言うと「缶胴」と「缶蓋」を100個購入。

「缶胴」と「缶蓋」については、初めて知った単語なのだが、不思議とこれも頭の中に浮かんできた。

しかも、全部購入してもたったの500Gだった。

日本で言うところの1コインだよ。


そして親切なことに、私の作りたいお酒には

「麦芽」「ホップ」「酵母」が必要らしいのだが、『地球物品創生スキル』で食べ物扱いじゃないため出せるよと、今度は女性の声で教えてくれた。

どこかで聞いた声だけど、今は作業を優先する。


頭に浮かぶあまりにも具体的な作業工程に従うと、まずは麦芽を風魔法で粉砕し、タンクに入れ、お湯と一緒に煮込む。


次に『ろ過スキル』を使用し、麦汁のみを取り出す。ホップを入れて煮沸し、風魔法で混ぜ、『熟成スキル』と『貯酒スキル』と『発酵スキル』を使う。


因みに、頭の中で指示される通りに、どの工程でも『促進スキル』を発動している。

『促進スキル』は、以前シィクの魔法を発動する際に使用したことがあるスキルだ。

このスキルを使うことで、通常数ヶ月かかる工程が直ぐに終了するらしい。


発酵まで終了すると、『充填スキル』を使って缶胴にお酒を入れ、缶蓋をする。

缶蓋をした瞬間、タンクも缶も氷魔法で冷やすように指示があった。

明らかに神様、シンの声だった。


白龍石を手に入れ、早く私とコンタクトを取りたいのかな?とも思ったが、必要スキルを光らせて知らせたり、支持する声が嬉々としていた時点で、ただの酒好きという答えに辿り着いた。


何はともあれ、ついに憧れのお酒が完成した。

地球の人なら最初の段階で気づいていたと思うが、私が作ったのはビールだ。


「ま、マリー様。これは?」

サーラが目を輝かせる。


「お酒だよ」

「お酒!?」

今度はアイリスさんが目を輝かせる。


タンクにはレバーがあり、直接ビールを注げるようになっている。

私は『地球物品創生スキル』でビールジョッキを出し、ビールを注ぐ。


缶ビールは神様自身が飲みたいから作らせたのだと感じたため、ジョッキで飲むことにした。


ワインはダメだったけど、ビールならきっと大人の階段を登れるはずだ。


「それでは、乾杯」

「か、かんぱい?」

私はアイリスさんとサーラが持っているジョッキに自分のジョッキを当てる。

そして、CMのようにビールを口に運ぶ。


次の瞬間、口に運んだビールは全て、目の前にいたサーラの顔に飛んでいた。



まぢーーー

喉越しって何さ•••

喉までいかないよ



顔面からビールを浴びたサーラの顔からビールの雫が垂れている。

既にビールを飲んでいたらしく、手に持っているジョッキは残り半分の量まで減っていた。


ただ、サーラは感想を言うでもなく、固まっている。

サーラの隣にいるアイリスさんも同様に固まっている。



「さ、サーラ?ご、ごめんね。ビールかけちゃって•••」

サーラは微動だにしない。


「不味かったよね?」

私からすると完全に失敗作だ。

ビールを飲んだのは初めてだから、本当に失敗作かは判断できないが、明らかに不味い。

サーラも私が作ったのに不味いとは言えず、困って固まっちゃってるのかな?


「サーラ、これ不味いから飲まなくていいよ。アイリスさんも•••」

「びーる•••」

「んっ?」

「このお酒は、ビールと言うのですか?」

「そうだよ」


サーラとアイリスさんはジョッキに残ったビールを一気に飲み干す。



「無理しないで大丈夫だよ」

「ビールとやら、最高のお酒です。ワインとはまったくの別物ですが、私はこちらの方が好きです」

「本当に美味しいわ!!」

「ま、不味くないの?」

「このお酒が不味い訳ありません。豊かな味と香り、それに喉越しがたまりません」

「白龍も気に入るかな?」

「間違いなく」


サーラは真剣な顔をして答える。アイリスさんも名残惜しそうに空になったジョッキを見ているので、どうやら嘘ではないらしい。

私からしたら何が美味しいのか分からない。

まったく分からない。


お子様って、こと?


「マリー様。ビールを持ってラーラ、ナーラの元に向かいましょう」

「う、うん」

ドラゴンのサーラが言うんだから、きっと白龍も気にいるよね。


「アイリスさんはお留守番お願いしますね」

「分かったわ」

アイリスさんは空になったビールジョッキを渡してくる。

私は受け取って片付けようとするが、アイリスさんは力を弱めない。


「あ、アイリスさん?」

アイリスさんはビールタンクに目線をやる。

どうやらお代わりが欲しいらしい。


ジョッキにビールを注いであげると、笑顔で飲み始める。

サーラはそれを羨ましそうに見ている。


「マリー様。早く出発しましょう」

「う、うん」


私はビールタンクをアイテム収納に仕舞うと、ドラゴン化したサーラに乗る。

サーラは一気に上昇すると、始めからフルスピードで飛び出す。


「サーラ、ちょっと飛ばし過ぎじゃない?」

「そんなことは•••。早くビールを飲まなければ、いいえ、届けなければ•••」


なるほど

早く飲みたいんだね



サーラの背中に乗って何度か飛んでいるが、これまでにないスピードで進んでいる。


「マリー様に教えていただいた場所は、恐らく白龍の里です。あと数分で着きます」


私が『GPSスキル』で場所を確認した時は、かなり距離が離れていた筈なのだが、ビールを飲みたい力で加速しているため、早く着けそうだ。


5分程すると、私の目の前に険しい山が幾つも連なっている山脈が見えた。

どの山も人間が登頂するのは不可能だと直ぐに分かる程、頂が尖っている。


サーラはその頂を超え、そのまま下降していく。

険しい山に囲まれた中央部分には開けた場所があり、そこに多くの反応が確認できた。


数分下降した所で地面が見え、同時に60人近い人の姿があった。

姿は人間でも、きっと全部ドラゴンなんだろうけど。


サーラが地面に着いたと同時に、私は背中から飛び降りる。



目の前には信じられない光景が広がっていた。



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