第63話 治療の開始と、ガーリックステーキ
私が建物の中に入ると、50人程が簡易な敷物の上で寝かされており、その傍には家族と思われる付き添い人がいた。
寝かされている人は、皆苦しそうな表情をして、息遣いも荒い。
中には意識が保てていないのか、首を左右にずっと振っている人もいる。
「マリー様。この建物は元々宿屋だったもので3階まであります。1階から3階までで約100名います」
「分かりました。1階、2階、3階で症状の重さは違いますか?」
「いいえ。同じです。運ばれた順になっており、中にはここに入れず、自宅で苦しんでいる人もいます」
ここに来ても、家にいても出来ることに違いはない筈だ。
それでもこの建物を目指すのは、きっと、何かが起こるかもしれないという、希望を追いかけてなのだと思う。
なら、希望を現実にしなきゃね
「ミランダさん、私はサクラと治療を始めますので、街の人に重症者が他にいないか聞いて下さい。ここが終わったら治療に行きますから」
「分かりました」
「私も共に行こう」
「サーラ、お姫様と王子様の護衛をお願い」
「畏まりました」
私はそこまで話すと治療に移る。
まずは『お医者スキル』を使って、ここにいる人の症状を確認する。
まったく異なる他の病気の可能性、ラミリア王妃が患った上位の病気の可能性があるため、事前に確認する。
結果、全員がサクラで治療可能な病気であることが分かった。
「サクラ、やるよ」
「ピー」
私は1人目の患者さんの元に行くと、苦しそうに目を瞑り、肩で息をしている状況だった。
傍にいた付き添いの人は、先程リチャードがサクラに噛まれているのを見ていたようで、直ぐに治療をお願いされた。
サクラは患者さんの腕を噛むが、患者さん自身は目を瞑っていることや、何より苦しさのあまりサクラの存在や噛まれたことにも気づいた様子がない。
噛んでから少しすると、患者さんは目を開け、荒かった呼吸も落ち着いた。
「あなた!!」
「お、俺は助かったのか•••??」
「そうよ。こちらにいる聖女様と聖龍様が治療して下さったのよ」
女性は泣きながら言う。
「本当か??何と言う奇跡だ。聖女様、聖龍様、本当にありがとうございました」
男性が起き上がってお礼を言おうとしたため、私は慌てて静止する。
「あと少し安静にして、歩けそうだったらご自宅に帰って大丈夫ですよ」
「本当に何とお礼を言って良いか」
男性の傍らで付き添っていた女性が言った。
「奥様ですか?体調、辛いですよね?」
『お医者スキル』の結果、奥さんも感染していた。
「なぜお分かりに?実は、数日前より体が重く、頭痛も酷い状況で•••」
「奥さんも治しちゃいましょう」
奥さんに左腕を出してもらうと、サクラ注射を実施。
少しすると奥さんも大分体調が良くなった。
「聖女様、聖龍様。こちらもお願いできないでしょうか?」
「是非こちらも•••」
「妻を診てやって下さい」
治療の様子を見ていたためか、みんな一斉にサクラ注射を希望する。
どちらにしろ、病気の感染有無に関わらず、ここにいる人はサクラ注射を打ってもらうつもりだったけど。
2人、3人•••10人と次々とサクラ注射を打って行く。
途中から私は、次の人に腕を出してもらうよう呼び掛ける係になった。
サクラは腕があれば連続で噛んでいくため、みるみる治療は進み、10分程で約100人全てを終了した。
治療が終わった人はお礼を言いながら自宅に帰って行く。
帰路に着く人に混じって、新たな患者さんが逆走する形で建物に入ってきた。
「ここで治療してもらえると聞いたのですが?」
「私の知り合いがここで治してもらったと伺いました」
ミランダさん達の誘導と、先行して治療した人の口コミで来ているようだ。
「みなさん、こちらへどうぞ」
私はサクラの前に誘導する。軽症の人もいるが、ここまで来たらみんな治療してしまおう。
サクラは続々と来る人の腕を噛んで行く。
自分では歩くことも儘ならず、肩を借りながら来た患者さんが帰りは自分の力で歩いて帰って行く。
サクラの力は凄いと改めて思う。
私も薬を作ることは出来るけど、この人数分を作るのは無理かもしれない。
「マリー様」
患者さんの列を掻き分けて、ミランダさんとリチャード、サーラが私の所に歩いてくる。
「この建物から人が続々と出てきていましたので、様子を見に来ました」
「周辺には粗方、声をかけてきたぞ」
「ありがとう。こっちもサクラのお陰でどんどん治療が進んでるよ」
ミランダさんは、建物内を見回す。
「今朝、あれ程多くの人が横たわっていたのに、今では治療を待っている人しかいませんわ」
「本当だな。信じられない光景だ」
「サクラが頑張ってくれているので。因みに、外はまだ列が続いてましたか?」
「ああ、後200人位はいると思う」
200人か•••
ここまで300人位治療しているけど、それなら問題なさそうだ。
「サクラ、もう少し頑張れる?」
「ピー!!」
サクラは元気良く返事すると、直ぐに患者さんの腕を噛む。
それから数時間、サクラは噛み続けた。
結局、あれからも追加で患者さんが来たため、最終的には約1,000人の治療を行った。
「ピピピー」
その日、最後の患者さんを噛むと、サクラはお腹を抑えてその場に座った。
「サクラ、大丈夫!?」
私は慌てて『お医者スキル』を使おうとする。
「ピー、ピピ」
「マリー様。お腹が減ったみたいです」
「えっ、そうなの?」
「ピー!!」
私はステータス画面で時計を確認すると、もう夕飯の時間になっていた。
昼も食べずに夜まで治療を続ければ、お腹も減るよね。
「サクラ、何食べたい?ご褒美に何でもいいよ?」
「ピッ!?ピーピッピピピーピ」
「ん?」
「ガーリックステーキと申してます」
「それはサーラが食べたいんじゃなくて?」
「違います。私も確かに食べたいですが、ドラゴンは何より肉が好きなのです」
「ピーピッピピピーピ」
耳を凝らすと、確かにガーリックステーキと言っている気がする。
「分かった。ガーリックステーキにしよう」サクラがなんでガーリックステーキのことを知っているのか少し気になったけど、私は夕飯のメニューを決めた。
サーラは満面の笑みを浮かべ、サクラはその場に飛び上がる。
ミランダさんとリチャードは、それを不思議そうな顔をして見ている。
私はお城の敷地内を借りて『携帯ハウス』を出した。
ミランダさんとリチャードは手を取り合って驚いていた。
私はガーリックステーキとライスを用意すると、作業が終わったアイリスさんも合流し、みんなで夕飯にした。
「な、何なのだこれは•••」
「信じられませんわ•••」
「夢なのか。いいや夢でも構わない!!」
「ええ。こんなに美味しいんですもの!!」
二人は貴族とは思えない勢いで食べて行く。
「ピー!!」
サクラも美味しそうに食べている。
「マリー様。サクラがガーリックライスを食べたいと申している気がします。後、シュークリームも•••」
「ほうー?」
私はサーラの顔を覗き込む。
サーラは真っ赤な顔をして畏まっている。
「嘘だよ。実は、もう作ってあるのです」
私はガーリックライスをテーブルに並べる。
ガーリックステーキのことをサーラがサクラに教えたのだとしたら、当然リクエストが、入ると予想したのだ。
「流石マリー様」
「ピー!!」
「実は、私も食べたかったのよね」
アイリスさんは一番にガーリックライスを頬張る。
「ステーキにはやっぱりこれよ」
「私も」
「俺もだ」
アイリスさんの一声に、王族も続き、その美味しさのあまりお代わりをする。
私は最後にシュークリームを用意した。
みんな笑顔で食べている。
ふふふ
太れ、太るのだ
密かに願うのだった
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