第62話 お姫様と、王子様



今回話し合いを行うとなった時点で、私は二つのことを心配していた。


一つは、サクラの体調を考慮した日程面だ。

ここについては、前情報でサズナーク王国の首都サズナークの人口は1万人であったが、今では8千人にまで減っている事が分かった。


また、被害が出ている街としては、首都サズナーク以外にあと2つの村があったが、そこの人達は既に王都へ避難している状況であった。

村から避難してきた人数が約1千となり、治療及びワクチンの対象者は9千人となる。


話し合いの結果、1日1千人を上限とし、予定では9日、遅くとも10日で対応することに決まった。


サクラ的には、対象者の腕を噛む事で体調に異変が出る訳ではないらしいので、この日程なら問題ない。


もう一つの懸念点は、そもそもサクラが腕を噛んで治療する事を人々が受け入れてくれるかどうかだ。


ミランダさん曰く、私も噛んでもらった、と、事前に配布する案内書に記載すれば問題ないと言うことだった。

案内書には、サズナーク王国の署名も入る。


なお、案内書は、内容を考えてコピーするまでの時間を考慮し、2日後に配布することに決まった。



「これで大体まとまったかしら」

「そうですね。あと、本当に勝手な申し出なのですが、この後直ぐに重症の者を診ていただくことはできないでしょうか?」

「重症者がいるんですか!?」

「はい。街の外れに使われていない建物があり、そこで治療しています。治療と言っても、出来ることは殆どないのですが•••」

「分かりました。これから直ぐに向かいます。あと、他にもいるかも知れませんので、街の人にその建物まで来るように声を掛けて下さい」


案内書が配られるまでの2日間に重症者を診てしまえば、後は確実に日程通り進められ、サクラの体力面も心配なくなる。


「マリー様とサクラ様には今日来ていただいたばかりにも関わらず、何とお礼を申して良いか」

「私からも礼を言わせてくれ」

ラブラブカップルが言ってくる。


私はラブラブカップルの横に、アイテム収納からコピー機を出した。

ラブラブカップルは驚き、お互いに庇うように身を寄せ、更にラブラブになった。



「アイリスさん、コピー機置いていきますので、案内書の作成、よろしくお願いします」

「こっちは任せといて」

「では、私は重症の者がいる建物まで案内します」

「なら、私も同行しよう」

ミランダさんは既に病気への耐性ができているから問題ないが、リチャードに関してはワクチン接種が必要だね。


「リチャードさん、行くならワクチン接種してもらいますよ」

「う、うっ•••」

「ミランダさんも打ったんですから、大丈夫ですよ」

「そ、そうだな」

「どうせなら、建物に行ってから打った方が宣伝になるんじゃないかしら?」

アイリスさんが悪魔のような、それでいて天使のような事を言う。


「それいい!!王子様が打つところを見たらみんな安心するしね」

「な、な•••」

「国民が安心したら、ミランダさんも喜ぶだろうなぁ〜」

私は悪魔の顔でリチャードを見る。


「よかろう。ミラ••、いや、サズナーク王国のために一肌脱ごうではないか」

「おおー」

私とアイリスさんの悪魔コンビは拍手をする。


「では早速、行きましょう。サクラとサーラも準備はいい?」

「ピー」

「はい!!」



私達はミランダさんの案内で街の外れにある建物に向かう。

もちろん、馬車がないので徒歩移動だ。


サーラはスニーカーが余程嬉しかったのか、先頭をスキップしながら歩いている。

サクラも私の横でリボンの巻かれた尻尾を横に振って嬉しそうだ。

ミランダさんは足場の悪さとヒールのある靴の所為で覚束ない足取りだが、横で王子様が手を取って支えている。


スニーカーのプレゼントはいらなそうだね


建物に近づくと、行き交う人が増えてきた。

みんな辛そうな表情はしているが、まだ自らの足で歩いている。


建物の中に家族がいるのだろうか。

みんな建物に向かって行く。


「姫様??」

「ミランダ様か??」

「隣にいるのはスウィール王国の王子様じゃないか??」


街の人がミランダさんとリチャードに気づき始めた。


「おい。あれは、もしや、伝説の聖女様では?」

「本当か?じゃ、家族は助かるのか?」


私の事を知っている人がいるらしい。

ミランダさんは私の噂を聞いて調べたと話していたから、噂自体は街にも届いてるのかな?


「いい感じに注目を浴びてきたし、ここら辺でリチャード王子様の実演に行きましょうか」

「そ、そうだな•••」


私は『地球物品創生スキル』を発動し、小さな舞台を出した。

横幅2メートル、縦は1メートル程の舞台だが、集まってきた人が見るには十分な舞台だ。


「さっ、王子様。ミランダさんも」

2人が舞台に登ると、私とサクラも続く。

サーラには見張り役をお願いした。


「みなさん、私はこの国の王女、ミランダ•ヨル•サズナークです」

「本物のミランダ様だ」

「ミランダ様は生きていたんだ!!」

街の人が笑顔で喜んでいる。ミランダさんはみんなに慕われているんだね。


「はい。私も皆と同じ病気を患っていましたが、ここにおられる聖女マリー様と、聖なるドラゴン、サクラ様によって助けられました」

「聖女様が?」

「小さなドラゴン?」

ミランダさんは人々をゆっくり見渡す。


「ここにおられる聖なるドラゴンは、聖女様の力によって神聖なる力を持っています。

この力には病気を治す力と、病気に罹らない力があるのです。

そして私は、ドラゴンに噛まれることによってその力をもらい、病気を治すことができました」

ミランダさんは左腕の噛まれた跡を見せる。


「か、噛まれる•••」

「嘘だろ?」


「嘘ではありません。その証拠にこれよりスウィール王国の王子自ら噛まれます」

人々から響めきが起こる。


「私はスウィール王国王子、リチャード•リー•スウィールだ。これから私は聖なる力を受ける。皆、その目で真実を見るのだ!!」

リチャードは左腕を差し出してくる。

言葉を発している時はカッコよかったが、今は目を閉じて唇を噛んでいる。


「サクラ、お願い」

「ピー」

以前のサクラは、病気以外の人を噛むことに抵抗を持っていたが、私を噛んでも大丈夫だったことと、耐性についてしっかりと説明したことで今では躊躇うことがない。


プスッ


「終わったよ」

目を閉じたままのリチャードに声を掛ける。


「お、終わったのか?」

「うん」

「ピー!!」

「少しチクッとはしたが、それほど痛くない•••」

街の人の視線がリチャードに集まる。


「皆の物、これで聖なる力を手に入れられるのだ。痛みもない。

さー、早くお前達やお前達の家族を助けるのだーー!!」

「おおー、他国の王子自ら」

「これなら私も」

「お願いだ。中にいる家族を診てやって下せー」


ミランダさんの人々の心に訴えた演説と、リチャードの体を張った実演のお陰で、サクラが噛むことに抵抗は無くなったみたいだ。

さすが、お姫様と王子様だね。



「サクラ、建物中の人と、ここにいる人を助けるよ」

「ピー!!」


私達は重症者のいる建物に急いだ。



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