第61話 話し合いと、恋の予感
「マリー様」
ミランダさんは私のことを呼びながら、2階部分から駆け降りてくる。
1階部分に辿り着き、私まであと少しという距離の時、ミランダさんは瓦礫に足を取られ、転ぶ体勢になった。
私は瞬時に助けようとしたが、一緒に2階から降りて来ていた見知らぬ男性がミランダさんを支え、自分の胸に力強く引き寄せた。
「ミランダ、もう少し気をつけないとな」
「は、は、はい•••」
ミランダさんは顔を真っ赤にして下を向く。
おや
おやおや
これは
この世界に来て初めての恋模様??
「マリー様。少々いけない顔になってますが•••」
「はっ、いけない、私ったら」
サーラの指摘に、おじさんのようなニヤけづらを正す。
「ミランダさん。あれから体調は大丈夫ですか?」
私はまだ顔の赤いミランダさんに歩み寄る。
「は、はい。マリー様のお陰で問題ありませんわ。その節は、本当にありがとうございました」
「マリー様と言うことは、あなたがミランダを助けてくれた聖女様ですね?」
男性はそう言うと、その場に片膝を着き、私の手を取った。
「ミランダの命を助けていただいたこと、このリチャード•リー•スウィール、心より感謝する。私にできることがあれば、なんでもするとここに誓う」
「い、いいえ、そんな。と、当然の事をしただけですから•••」
自分でも顔が赤くなっているのが分かるくらい頬が熱くなり、今度は私が下を向く。
それもそのはず、リチャードは20歳前くらい、ちょうど高校を卒業しだばかりの大学生のような年齢に見え、超イケメンだ。
身長は180センチほどで、薄い赤色の髪をして、鼻が高く、爽やかオーラが満載。
「私はマリー様の眷属であるサーラだ。これはマリー様への求婚か?ならば、私と勝負しろ!!」
「私はラミリア王国•ガーネットの領主、アイリス•リテーリアと申します。こちらのマリーの母親と言いますか、姉と言いますか、ようは家族の者です。
ですから、例え一国の王子であっても、私に相談はして欲しいものです」
「ピー、ピーピー!!」
サーラ、アイリスさん、サクラはリチャードの前に立ちはだかる。
「私は決して•••。私が愛しているのはミラ•••。い、いや、申し訳なかった」
今、ミランダと言おうとしたよね?
いいねー
恋だわ〜
「マリー様。またお顔が•••」
「はっ」
私は顔を元に戻すと、先ほどより顔が赤くなっているミランダさんに小声で話かけた。
「ミランダさん。早く街の人を治して、恋を進めちゃいましょう」
「•••。叶わぬ、恋なのです•••」
ミランダさんの反応は想像していたものではなく、一瞬にして暗い表情へと変わる。
「皆様、本日は態々お越しいただきましてありがとうございます。2階の奥に綺麗な部屋がございますので、そちらで話をさせて下さいませ」
ミランダさんは刹那に明るい表情に戻し、そう言った。
叶わぬ恋•••
女子中学生にはかなりの興味ワード
早く話を聞きたい衝動に負けそうになるが、今は街の人を助ける事が優先だ。
私達は2階の部屋に案内してもらう。
部屋の中に入ると、確かにこれまでと違い、崩れた場所などは無く、テーブルと椅子も綺麗な状態で置かれていた。
「今、お茶を用意しますので、お待ちください」
ミランダさんはメイドさんにお茶の準備をお願いしようとする。
そのメイドさんの顔に見覚えがあった。
青龍の女王アオを倒した現場にミランダさんと一緒にいたメイドさんだ。
「あの、大きなお世話だと思ったんですが、私のお店から紅茶とお菓子を持って来ましたので」
「あの伝説のお店の?」
リチャードが反応する。
私は『アイテム収納』からティーポットと紙コップ、シュークリームを出した。
私のスキルを見慣れていない2人は驚いて固まっている。
紙コップに紅茶を淹れて、シュークリームと一緒に配る。
先ほどのメイドさんが仕事を奪われたためか、挙動不審になっていたので、私は彼女にシュークリームを10個、袋に入れて手渡した。
アオを倒した現場にいたメイドさんは4人だったけど、何人いるか分からないので多めに入れておいた。
「マリー•アントワネット様。これは?」
「後でみんなで食べて」
「いいえ、私どもには勿体ない代物でございます」
「私の住んでる街では、身分関係なく、子供からお年寄りまで食べてるよ」
「しかし•••」
「それに、あなたはあの時怖い思いをいっぱいしたんだから、これ位の権利はあると思うよ」
私はシュークリームの入った袋の上から、メイドさんの手を握った。
「あ、ありがとうございます」
メイドさんは堪えきれずに涙を零した。
「アル、良かったわね。ここはもういいから、みんなの所に行ってあなたも食べなさい」
「はい。ありがとうございます」
アルはシュークリームを落とさないように深くお辞儀をして、部屋から出て行った。
「マリー様。アル達への配慮、心から感謝いたします」
「気にしないで下さい。文字通り、売るほどありますから」
みんなが一斉に笑い出す。
こんなにウケるの?
「マリー様、お上手ですね」
「私も今度使わせてもらうわ」
笑いながら、ミランダさんとアイリスさんは言う。
笑いが止まると、みんなでシュークリームを食べた。
「お、美味しい•••」
「信じられん。これまで食べたどの菓子よりも美味い。いや、比べるのも失礼な位だ」
2人共気に入ってくれたみたいだ。
「そう言えば、ひとつ聞いてもよろしいですか?」
アイリスさんがリチャードに話しかける。
「何なりと」
「リチャード様はスウィール王国の王子でいらっしゃいますよね?どうしてサズナークへ?」
「そ、それは•••」
アイリスさん、野暮な事を•••
「申し訳ありません。この状況下でいらっしゃっている時点で、ミランダ様を心配されての事だと言うことは分かっていたのですが、その、私とマリー宛にスウィール王国から親書をいただいておりましたので」
「そういうことでしたか•••」
そういうことでしたか•••
私も心の中でリチャードと同じ台詞を言う。
「親書は恐らく、父である王から出されたものだと思います」
「そうでしたか。宛名がスウィール王国•王宮室となっておりましたので、確認させていただいた次第です。申し訳ありません」
「いいえ。スウィール王国では、宛名が王宮室となっている場合には、王直々と同等で国賓扱いとなるため、そのように取り計らったかと」
その後詳しく話を聞いたが、王様と私が知り合いだった場合は王の名で親書を送り、面識がなく国賓扱いの場合に王宮室の名で親書を送っているそうだ。
「それでは本題に入りましょうか」
アイリスさんは、今日の確認事項と簡易治療場を用いての治療及びワクチン接種に関する事が纏められた紙を一人一人に配った。
「こ、これは!?」
「す、凄い。同じ内容が書かれているのですね」
「マリーちゃんのスキルです」
いいえ、コピー機の力です
とは言わずに曖昧に笑顔を振りまく
「このような物までご用意いただき、ありがとうございます。本来なら私が用意しなければならないというのに•••」
「ミランダ様は戻られたばかりだと思いましたので、こちらで勝手に用意させていただきました。それに•••」
「それに??」
「マリーちゃんにはいつもいつもいつも驚かされてばかりなので、私自身、事前に話を聞いておく必要がありますの」
アイリスさんはなんとも言えない目で私を見てくる。
「た、確かに•••。これは凄い内容だ」
手渡された紙を見て、リチャードが驚きの声を上げる。
アイリスさんの進行でその後の話し合いも滞りなく進んだ。
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