第60話 サズナークと、スニーカー
翌日、私はアイリスさん、サーラ、サクラを連れてサズナークの王都に向かう準備をしていた。
準備をしている横で、お留守番となったアイラが頬を膨らませている。
ラーラ、ナーラは、白龍石の件で帯同できず、アリサは「マリーラ•シュークリーム」に出勤している。
「私も行きたいです!!」
「アイラ、あなたには公務の処理をお願いしたでしょ?」
「それはもちろん分かっていますわ。ですが•••」
ガーネットの街の元領主であり、アイリスさんの元夫であるラーロックがいなくなって以来、アイラは公務の手伝いをしている。
「私もマリーお姉様のお力になりたいのです」
「アイラ、その気持ちだけで既に私の力になってるよ。
それに、万が一、アイリスさんが病気に感染してしまったら、治療の間、この街を守れるのはアイラしかいないでしょ?」
「それは•••」
「なら、私がいない間、あのお家を使っていいよ」
「本当ですか!?」
「うん。アリサもユキもいれば寂しくないでしょう?」
「はい。ありがとうございます!!」
アイラは私に抱きつきながら感謝をし続けた。
「マリーちゃん。ありがとう」
「いいえ。寧ろ、アイリスさんに同行してもらえてこちらこそ感謝です」
「領主としても、友人としても当然よ」
アイリスさんは肩にかかった髪をかき上げながら言う。
すべの準備が終わったところで、ガーネットの街の外に行き、サーラにドラゴン化してもらう。
街の外までアイラが見送りに来てくれる。
ドラゴン化したサーラの背中に乗ると、私はアイラに手を振って飛び立った。
サズナーク王国の首都サズナークまでは、サーラが急げば2時間ほどで着く。
それにしても、ドラゴンの背中からこの世界を見下ろすのも大分慣れてきた。
森や湖、街といった光景がつづくのだが、本当にこの世界は陸続きなのかな?
最初にラミリアの王宮へ行った時に聞いたのは、正確に調べたことがないから分からないという回答だった。
今度、サーラの背中に乗って、陸の端まで行って見るのもいいかも。
そんなことを考えている内に、私の視界にサズナークの王城と思われる光景が目に入ってきた。
王城はラミリアと比較して大きさはほぼ同じだが、壁に所々穴が空いていたり、擦り傷のような跡が無数にあった。
これも青龍の被害かもしれない。
私達は街の外で降り、歩いて向かうことにした。
アイリスさんは見た目から貴族オーラ満載で、一応、私とサーラも貴族になる。
そんな3人がサクラを連れて歩いて街の門番の所に行って何か言われないか心配だ。
馬車を「空間収納スキル」に入れて持って来ればよかったな。
皮の鎧を着けた門番の所に来ると、私達を少し警戒するような目で見てきた。
当然だよね。
「ミランダ王女からの親書により参りました。私はラミリア王国のガーネットの領主、アイリス•リテーリアと申します」
アイリスさんは門番に親書と貴族カードを見せる。
門番は親書と貴族カードを確認すると、表情を固くさせ、アイリスさんに返却する。
「お持ちしておりました。話は伺っております。それで大変申し訳ありませんが、現在この街に馬車がなく、王城までお送りすることができなくなっております」
「気にしないで。歩いて来た私達が悪いんだから」
「歩いて•••、いいえ。本当に申し訳ありません。せめて、王城まで護衛をつけますので少々お待ち下さい」
「強い味方がいるから護衛も必要ないわ」
門番は慌ててアイリスさんを引き止めようとするが、最後は諦めた。
街の中に入った私の目には、崩れかけた民家やお店、穴が空いた歩道が飛び込んできた。
そして何より、街の中に殆ど人が見当たらない。
初めて見た旧カサノヴァほどではないにしろ、酷い状況だということは直ぐに分かった。
「早く、お城に向かった方がよさそうね」
「そうですね」
「ピー」
因みに、アイリスさんにはサクラの予防接種を受けてもらっている。
ドラゴンであるサーラは、病気の感染リスクがないと言うことで予防接種はしていない。
お城に向かう途中、何人かの街人とすれ違ったが、みんな暗い表情で俯いていた。
こっそり『お医者スキル』を使うと、すれ違った全員が病気と診断された。
「思った以上にまずい状況かも•••」
「想像していた以上です」
それから10分程歩くと、城門の前に着いた。
城門横にいた兵士に街の門番と同じやりとりをし、中に入った。
中に入って城の入口まで歩くが、かなり足場が悪かった。
「アイリスさん、気をつけて下さいね」
「ありがとう。確かにこの靴では歩きづらいわ」
私はアイリスさんの腕を持ち、体を支えた。
ようやく城の中に着くと、こちらも壁の一部が崩れており、その瓦礫が床に散らばっていた。
「おんぶ、しましょうか?」
「これ位、大丈夫よ」
アイリスさんは、革でできた少しヒールのある靴を履いている。
服装はお上品なワンピースを着ていて、足元まで生地があるため、少したくしあげながら歩いている。
私とサーラはセーラー服で、靴はローファー。
私はその場に屈み、アイリスさんの足を見る。『地球物品創生スキル』を使ってメジャーを出すと、足のサイズを測り始める。
23センチ位かな?
足のサイズを聞いても、きっとこっちの世界の単位は分からないので、直接測ったのだ。
それにしても、メジャーが3,000Gって、高すぎるよね•••
「ちょっとマリーちゃん。何してるのよ?」
アイリスさんは顔を赤くしている。
私は『地球物品創生スキル』から白いスニーカーとアンクルソックスを出した。
アイリスさんの靴を脱がせ、私の太ももに足を乗せるとアンクルソックスとスニーカーを履かせてあげる。
「やだ、ちょっと、マリーちゃん」
アイリスさんは両手で顔を覆い、恥ずかしそうにしていた。
「はい、終わりましたよ。歩いてみて下さい」
「は、はい•••」
アイリスさんは少女のように返事をすると、言われた通りに城内を歩く。
「凄いわ。これ」
「痛くないですか?」
「全然痛くないわ。今まで履いていた靴の方がよっぽど痛かったもの」
アイリスさんは嬉しそうに歩き回っている。
見回りをしている数人の兵士の人がこちらをチラチラ見てくるが、貴族オーラに負けてか、特に何も言ってこない。
「ありがとうマリーちゃん。大事にするわ」
そう言うと、珍しくアイリスさんが私に抱きついてくる。
やっぱり、アイラの抱きつき癖は遺伝なのかな?
「ご、ごほん」
サーラが横目で私を見ている。
「ピーーーー」
サクラが正面から私を見ている。
「はいはい」
私はサーラに薄い赤色に白のストライプが入ったスニーカーを出してあげた。
サーラは喜んで城内を走り回っている。
私は兵士の人に「すみません」と頭を軽く下げる。
サクラには靴は難しそうだったので、悩んだ末、尻尾の部分に着けられる黄色のリボンを出した。
「ピー、ピー、ピー!!」
サクラは尻尾を振って城内を飛び回る。
私はまた頭を下げる。
その時、私を呼ぶ声が聞こえた。
「マリー様」
声が聞こえた2階部分を見上げると、そこには笑顔で手を振るミランダさんと、見知らぬ男性が立っていた。
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