第59話 作戦会議と、英気を養う



「マリーちゃん。サズナークの王女様から、命を、命を、助けてもらったお礼と、明日の件が書かれてるけど!?」

「ラーラ達から聞いてないかな•••?」

「聞いてません!!」

3人同時に席から立ち上がる。


「命を助けたって、マリーちゃん薬の材料のために青龍を倒しに行ってたんじゃないの!?」

「どこで王女様と出会う機会があるのよ」

「実は•••」

私はアイリスさんとルルミーラさんを宥めつつ、3人に経緯を話した。


「青龍100体!!!」

「サズナーク王女が攫われていた!?」

「サズナークに病気が蔓延!?」

再び3人が席から立ち上がる。


「これは、メイズ国王やメレディス王女にも親書が届いてるわね」

「そうなんですか?」

「当然よ。ラミリア王国内のガーネットに住むマリーちゃんが他国の王女を助けたとあれば、経緯を報告する必要があるわよ」


なるほど

言われてみれば当然な気がする


「本来だったらガーネットの領主である私からも報告義務があるのだけれど•••」

「今更伝鳥を飛ばしたところで間に合わないわね」

アイリスさんの後に、ルルミーラさんが同情したように言う。


「今回はラミリア王妃の混乱もあったし、何も言われないわよ」

「今は、そう願うことにするわ•••」


なんだか凄い罪悪感に襲われる。

いくら仲が良くても、王族と領主の関係では色々あるんだよね•••。


「あの、その、ごめんなさい」

私はテーブルに手を着いて謝る。


「今回、マリーちゃんは眠る時間がない程、頑張ったんだから謝る必要はないわよ。

毎度、毎度、驚かされるけどね」

アイリスさんは席に座りながら、優しい口調で言ってくる。


「ほらほら、暗い顔してないで明日の対応を考えましょう」

ルルミーラさんは、パンパンッと、手を叩く。


「そうですわ。マリー様」

ルミナーラさんが私の隣に椅子を移動させ、肩が触れる距離に座った。


「マリー様。サズナークに蔓延している病気は治せるのですか?」

「サクラが治す力を持ってるんだよ」

「本当なんですの??」

「うん。それだけじゃなくて、予防の力も持ってる」

「それは凄いわね」

アイリスさんはそう言うと、ルルミーラさんと何かを確認している。


「マリーちゃん、サズナークの人口は私達が把握している頃は約1万人」

「把握している頃?」

「はっきり言ってしまうと、殆どの国は他国と関わりがないの」

「私だって、今でこそアイリス様と仲良しだけど、マリーちゃんと出会う前は想像もしてなかったわ」

「だからこそ、青龍の被害に遭っていることも、病気が蔓延していることも知らなかったの」


国同士が干渉し合って争いになることもあるけど、国同士で一切干渉しないのも問題なんだな。


「今の人口は1万人以下の可能性が高いけど、最大の人数に対応できるよう検討しましょう」

ルルミーラさんは、アイリスさんを見ながら意識を合わせる。


「その上で、1人1人治療するには、以前の握手会の時のように簡易的な部屋を設置するのはどうかしら?」

「それ、いいかも」

私はルルミーラさんの提案に直ぐに賛同し、新たな提案をする。


「ここにあるコピー機を使って、病気は治療が可能な事とワクチン接種権を作るのはどうかな?」

「わくちん?」

「病気への予防のことかな」

「いいわね。サズナーク王国の署名も入れられるように交渉しましょう」

「あと、サクラの体力を考えて、世帯毎に日程を指定したいの。1週間位を目安に全員が終わるように振り分けできれば」

「それは重要ね」

ルルミーラさんが深く頷く。


「握手会の時は、1日で全ての人を対応し、マリー様やラーラ様達は大変そうでしたし」

ルミナーラさんが真横で私の顔を見ながら言う。


「そうね。アイリス様、明日は今話したこと、特に日程面を考慮してサズナークの王女様と詳細を詰めて下さい」

「分かりましたわ」

「ごめんね、マリーちゃん。本当なら私もルミナーラも同行したかったんだけど、どうしても外せない公務があってね」

「いいえ。元々その予定で来てもらってましたし、この話し合いに参加してもらっただけでも有難いです」

「マリー様。何かあったら直ぐに相談して下さいまし」

ルミナーラさんは私の手を、両手で握ってくる。


「うん。分かったよ」

「話がまとまった所で、私達はそろそろお暇しようかしら」

「お母様、もう少し良いのでは?」

「私だってそうしたいのよ。けれど、戻って明日の準備をしなければならないわ」

「分かりました•••」

ルミナーラさんは俯き加減に力無く言う。


そんな2人に私は1階に戻り、クレープを焼くことにした。

既にラーラとナーラは白龍の元へ出発していていなかった。

どうせみんなが欲しがるので、アイリスさん、サーラ、アイラ、アリス、サクラ、ユキの分も含めてクレープを焼いた。


「やっぱり美味しいわ。公務さえなければ、ずっとここにいるのに」

「しばらくマリー様の料理は食べれないんですね•••」

「また直ぐに誘いますよ」

「約束よ!!」

ルルミーラさん、ルミナーラさんは私の顔に自分達の顔を近づける。


「は、はい。約束します」

「よかったわ」

「それにしても、クレープは最高ですねー」

「美味です」

「ピーーー」

「普通じゃない?」

アイラ、サーラ、サクラの反応に対し、ユキがサラっと言う。


日本人のユキなら、確かにクレープは普通かもしれない。

ただ、その普通が最高であることを知ってもらうのも大切だ。


「ユキ、今度王宮の料理食べたくない?」

「そりゃ、食べてみたいわよー。アニメや漫画で見た憧れの王族料理よ。さぞ、美味しんでしょうねー」

サクラ以外はみんな視線を逸らす。


「楽しみにしてて」

私は悪魔の笑顔をする。


クレープを食べ終えると、『転移スキル』を使ってルルミーラさん、ルミナーラさんをアントワネット国まで送り届けた。



ガーネットの街に戻ってくると、私はミアが働いている養鶏場に向かった。

明日からサズナークに行くとまたしばらく会えなくなるので、顔を見ておきたかったのだ。


養鶏場が見えてくると、卵を回収しているミアの姿があった。

ここから見るとニワトリ3羽分もない小さな体で、数百羽いるニワトリの世話を一生懸命にしている。

まだ10歳なのに本当に偉いと思う。


「ミア」

私の呼びかけに、ミアはこちらに振り向き、両手で手を振ってくる。


「マリーお姉ちゃん、帰ってきたの?」

「うん。また直ぐに出掛けるから、その前にかわいい妹の顔を見ておきたくてさ」

「本当に!?嬉しいー」

ミアの頭を無意識に撫でる。


私は水魔法でミアの手を洗ってあげると、「アイテム収納」からクレープを取り出し渡した。


「これなーに?」

「クレープだよ。甘くて柔らかくて美味しいもの」

「食べていい?」

「いいよ」

「いただきます」

ミアは大きな一口でクレープを頬張る。


「美味しいーー。シュークリームと同じくらい大好き」

「美味しいでしょ?ミアが一生懸命育ててくれているニワトリの卵がいっぱい使われてるんだよ」

「そうなの??」

「そうだよ」

ミアは少し、誇らしげな顔になる。

そして、もう一口クレープを食べると、いつものかわいい笑顔を見せてくれる。



明日から、また頑張ろう


元気をもらった私は

密かにそう思うのだった




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