第57話 ユキと、神様のお願い



『どうして家なのよ!?地球が嫌なら他の星にしてもいいわよ』

「自分でもよく分からないの。ただ•••」

『ただ?』

「見ず知らずの言葉を話す気持ち悪い家に対して、みんな優しかったから•••」

ユキは穏やかな表情をしている。

不思議と、私には分かった。

そして、神様にももちろん分かったみたいだ。


『本気なのね•••』

「ええ」

『分かったわ。なら、マリーの命尽きるまで、家として全うしなさい』

「分かったわ」

『マリーもそれでいいわね?』

神様は少し疲れた顔をして私を見る。


「もちろん」

「よろしくね」

私はユキの柱の手と握手する。


『でも、流石にそれだけでは神の名が泣くわね』

『何か、望みはない?1つだけよ。1,000倍とか6,000個とかダメよ』

神様は自然と私を見てくる。


「なら、ご飯を食べれるようにしてくれない?」

『そんなことでいいの?』

「生きていた頃は、スタイル維持や美容の為に好きなもの食べれなかったから。

家ならいくら食べても太らないでしょ?」

『それはそうね。太ることはないわ』

「なら、お願い」

『分かったわ。人並みに食べれるようにしておくわね』


そこまで話した時、シンの体を覆っていた光が点滅し出した。


『もう時間みたい』

神様は私を見ると真面目な顔でお願いしてきた。


『マリー。話したいことが沢山あるの。だから、もっとちゃんとした神像を用意して欲しい』

「分かった」

『それから、青龍を100体、献上して欲しい』

「うえっ??」

私は変な声を出す。


『青龍の素材は貴重なの。それだけ神界に献上すれば、あなたに神話が与えられるわ』

「神話?」

『電話のようなものよ。それがあればいつでも話せるようになるわ』

「わ、わ、わ、分かったよ•••」

家も買ったし、シンと自由に話せる方が重要だよね。


『ありが•••』

言葉の途中でシンは消えた。

同時に土の神像が崩れた。


私は家の中に入り、今のことをみんなに説明した。

窓から私のことを見ていたようだが、不思議なことに、神様の姿はただの光にしか見えていなかったらしい。


「という訳で、みんなよろしくね」

「よろしくね」

家の中にユキの声が響いた。


「家の中でも話せるのね?」

「そうみたい。他にも色々できそう」

ユキはそう言うと、家の電気を消したり、ドアを開閉してみせた。


「家も動かせるんだよね?」

「私からしてみると、ただ歩くだけだからね」

「じゃー、折角だからユキにお願いして、家で移動して帰ろうー」

みんなが拍手する。


「行くわよー」

ユキの声と共に、家が動き出す。

ラーラやアイリスさんが話していた通り、家の中は微動だにせず、窓の外を見なければ移動しているかわからない。


「スピード上げられるの?」

「簡単よ」

ユキがスピードを上げると、窓から見える景色が素早く右から左に流れる。

これはかなりスピードが出ていそうだ。


数キロの距離とはいえ、あっという間にガーネットの街に着いた。


「因みに、この塀はどうやって飛び越えたの?」

ガーネットの街に限らず、この世界では街が塀に覆われている。


「ふふふ」

ユキの笑い声がする。

すると、今まで窓から見えていた塀が急に無くなり、直ぐにアイリスさんの屋敷が見えた。

どうやらジャンプしたらしい。


ユキはアイリスさんの屋敷の隣に着くと、その場に腰を下ろした。


「ところでマリー。ここはどこなの?異世界とは聞いたから日本ではないのよねー」

「イセカイ?」

「ニホン?」

みんなが反芻する。

ユキのことは家に魂が宿ってしまった女性と説明し、転移のことや神様のこと、ましてや日本のことは話していない。


「ユキ、それは今度話そうねー」

「なるほど。異世界漫画である展開ね」

「マンガ?」

「ユキ、ワインがあるよ。ほら飲んで飲んで」

「あら素敵ー。ワインは大好きよ」

私は話を逸らすため、テーブルの上に開けられたワインボトルを手に取る。


「口、どこ•••??」

「ここみたい」

「何これ??」

いつ間にか壁にもたれかかって寝ているサクラの横に、人を型どった線が書かれていた。

その線で書かれた人の口部分がパクパク動いている。


「ちょっと待ってね」

ユキがそう言うと、線で書かれた人が壁から出てくる。

壁から出てくると同時に本物の人のように変化した。


「家の中なら人にもなれるみたい。けど、長時間は無理そう。既に体がきついもの」

そう話している声は確かにユキなのだが、壁から出てきたのは、顔は大人びた美形で髪はショートカット、ただ身長が120センチ程でどう見ても小学生だ。


「あなた29歳よね?」

「そうよ。けど、家から人になると幼児化しちゃうみたい」

ユキは大して気にしていないようで、ワイングラスを手に持ち、飲み始めた。


「いいの?」

「いいのって、私29歳よ」

まあ、そもそもが家だから飲んでも大丈夫かな。

私は自分を無理やり納得させる。


「それでラーラに少し聞いたんだけど、シャーロット王妃は無事なのね?」

アイリスさんが心配そうに確認してくる。


「病気だったなんて•••」

「さぞ、辛かったでしょうに」

ルミナーラさん、ルルミーラさんも続けて言った。


「大丈夫です。もう病気は治りましたから」

「マリーお姉様は、また命を救ったんですね」

「さすがね、マリー」

アイラとアリスは私に抱きついてくる。


「マリー様。この後、ラミリアの王宮に戻りますか?」

「そうだね。黙っていなくなったら心配されちゃうし」

「では、間も無く夜明けですので、急ぎましょう」


私がラミリアに行く間、大して睡眠をとっていないみんなには寝室で休んでもらうことにした。

ルルミーラさん、ルミナーラさんは今日の公務はお休みのため、そのまま寝室で眠ってもらう。

既に寝ているサクラには毛布を掛けてあげた。


「ユキ、不審者が来たらよろしくね」

「任せて」

既に家になったユキにお願いする。


私はラーラ達を連れ、『転移スキル』を使ってラミリア王宮内の先程までいた部屋に転移した。


部屋には誰もいなかったため、私も少し休むことにした。


「ラーラ、サーラ、ナーラも徹夜だったから眠いでしょう?少し休んで」

「私達ドラゴンは、数週間、必要に応じては数ヶ月間、寝なくても平気ですので」


じゃー、なんで毎晩私のベッドに入ってきて寝るのか聞きたかったけど、睡魔に負けてそのまま眠ってしまった。



私が起きたのは、朝の8時を過ぎた頃だ。

正確にはメレディスさんに起こされた。

テーブルでうつ伏せに寝ていた私の背中に、メレディスさんが抱きついてきたのだ。


「マリー様、マリー様」

「じょうちたの?」

私は寝惚けながら言葉を発する。


「マリー様に会いたかったんです。お礼もたくさん言いたかったんです」

メレディスさんは私の背中に自分の額を強めにつけてくる。


「気にしないでいいよ」

「なりません。気にします」

「そ、そうですか•••。それで王妃様は大丈夫そう?」

「はい。痛みや苦しさもなく、顔色もとても良いです。今は疲れからか、また眠っていますけど」


『お医者スキル』で病気の表示が消えたのは確認しているけど、今の状況を聞くとやっぱり安心する。


「王妃様に会いたかったけど、そろそろ帰ろうかな」

「マリー様。まだお礼もできていませんし、父もマリー様とお会いしたいと」

「メイズ国王にも会いたかったけど、少しやらなきゃいけないことができたから、また来るよ」

メレディスさんは子犬のような目で見つめてくる。


「マリー様は昨夜から今朝方まで色々ありましたので」

ラーラが助け舟を出す。


「そう、ですわよね。あちらにはまだみなさんもいらっしゃいますし•••」

「ごめんね」

「マリー様が謝ることは何一つございません。父と母には私から伝えておきます」

「ありがとう。お願いするね」


私はメレディスさんに後を託すと、ラーラ達と共に『転移スキル』でガーネットの家に戻ったのだった。




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