第56話 家の秘密と、家で生きる



「なんで家なのよ!!」

家は角度を変えて確かめながら言った。


「あなた、私に何かしたの!?」

「したの、と言われても、あなたというか、これは私の家ですよ」

「何ですって?」


「マリー様」

「マリーちゃん」

私が家と話していると、ラーラとアイリスさんが家を飛び出し、私の元まで走ってきた。


「マリー様。大丈夫ですか?」

「大丈夫。状況は分からないけど、怪我とかはしてないよ」

「もっと早く助けに来たかったのですが、鍵が開かなかったもので」

「鍵を壊そうとしたけど、家の値段を知ってるものね、ラーラちゃんは」

アイリスさんがウィンクしながら言ってくる。


「中は大丈夫だったの?他のみんなは?」

「みんな大丈夫よ。一応、家の中に残ってもらってるわ」

「それとマリー様。外で戦っている様子が見えたのですが、家の中はまったく動かず、静寂そのものでした」

「そうなの!?」


あれだけ激しく動いていて、家の中にはまったく影響がなかったのか•••。


「それより、この家はなんで鏡を見ながら頭を抱えているのかしら?」

アイリスさんは家を見ながら言う。


「私にも分からないんだけど、本人は人間だと思ってるらしいの」

「嘘でしょ?」

「嘘ではない!?何で美の塊の私が家なの!?」

「家が話してる•••」

アイリスさんは驚き、家を観察するように見回している。


「何か覚えてることはなないの?」

「覚えてること•••。私はあの男に騙されて•••」

「騙された?」

「そう。色々な理由を言って私に散々貢がせた男。この家もそのひとつ•••。なのに、他に女がいたのよ。しかも複数人ね」

「なんて奴だ!!ここにいれば燃やし尽くしてやるものを」

「本当に酷いわ!!そんな男のこと、早く忘れた方がいい!!」

ラーラとアイリスさんが激怒しながら言う。


「あなた達•••」

「その苦しさから、あなたは家に閉じ籠ったのね?なんて不憫なの」

「違うわ。今、思い出しだの。私はこの家であの男に殺された•••」

「えっ??」

みんなが同時に驚く。


事故物件•••

そういうことだったのか•••


「その男は、今どこにいる!?私が直々に殺してくれるわ!!」

「ラーラちゃんに賛成」

「どうして、こんな私に優しくしてくれるの?」

「どうしてって、あなたも私達も女。女が女を助けるのは当たり前でしょう?白馬の王子様なんていないのよ」

アイリスさんは腰に手を当て、胸を張って言う。


「もっと早く出会っていれば、私もあなた

達と仲良くできたのかな•••」

家の窓から水が流れ出す。

いや、これは涙だよね。


「何言ってるの。今からでも仲良くできるわよ。家だっていいじゃないの」

「私もドラゴンだしな」

「そんな冗談まで言って、あなた

達は本当に優しいのね」


見た目は家でも日本人だもんね。

ドラゴンなんてね〜。

ましてや異世界だし。


異世界と言えば、この家も神様に会って転移したのかな?

ん?

神様がこの家は問題があるって言ってたような。


私はステータス画面を開き、青龍を指定する。

すると、『神様に献上しますか?』と表示された。

あれは、夢ではなかったようだ。


私は青龍を献上すると、『彫刻スキル』を発動した。

とりあえず、土でいいかな。

土を手に取り、神様の像を作っていく。

ラーラとアイリスさん、家は不思議そうに私を見ている。

2人には戻ってもらった方がいいかな?


「ラーラとアイリスさん、ちょっと考えがあって。家と、この子と2人きりにしてもらってもいいですか?」

「マリーちゃんのことだから、凄いこと考えてるんでしょうね。いいわ、家の中で待ってる」

「マリー様の仰せのままに」

2人は大人しく家の中に入って行く。


5分程して、神様の像を作り終えた。

ただの土で作った像だけど、神様に似ていてなかなかの出来だ。


「いい出来ね」

「あなた、何をしてるの?」

「神様を呼ぼうとしてるの」

「神様?私は人の宗教心にとやかく言うつもりは無いけど、神様を呼ぶって」

家は家を左右にふる。

やれやれってことかな?


『やっと、像を作ってくれたわね。にしても、やっつけみたいに土で作るなんて•••』

土の神像が光り、話し始める。


「何この声!?」

「神様だよ」

「そうか、腹話術ね。光は装飾でいくらでも可能だし」

異世界で日本人の相手は意外に面倒臭いのかもしれない。


「違うよー。神様、声だけじゃなくて姿を見せられないの?」

『無理よ。こんな土の像に青龍1体じゃ』

「なら、せめてこの家の事を教えてくれる?」

『そのつもりよ』

『この家、いいえ。この子は、倉持ユキ、29歳』

「えっ?何で分かるの?」

『御曹司の娘。最低な男に騙された挙げ句、首を絞めて殺された。男は自殺に見せようとしたみたいだけど失敗。無期懲役にはならず、懲役17年。でも安心して、次は過酷な世界に転生予定だから』

「捕まったんだ•••。よかった•••」

家、あらためユキは、安堵したような声で言った。


『あなたは、殺されたこの家に魂をずっと縛られていた。けど、ここにいるマリーが前代未聞の方法で異世界に転移させた』

気のせいか、土の神像がわずかに動き、私の方に向いた気がした。


『通常、人間は人神である私のところに来て、次の事を決めるの。それをせずにスキルを使って転移させた。その影響でユキの魂は家に吸収されたのよ』


あれ、それって

私の所為では?


「えっと、私の所為でユキは家になって、異世界に連れて来られてしまったと•••」

『そう言うこと』

「あっ、あっ、ユキ、本当にごめんなさい」

私は動揺しながら謝罪する。


「よく分からないけど、この土の像は本当に神様で、私はあなたによって異世界?に来たと。家で?」

「そうみたい•••」

「おかしいと思ったのよ。いくら歩いても知ってる景色がないんだもの」


『ユキ』

『あなたには2つの選択肢があります』

「まだ神様って信じ切れた訳じゃないけど、聞くだけ聞くわ」

ユキは神像を見つめる。


『人として、地球で生まれ変わる。それなりのレコード•••、じゃなくて人生を約束するわ』

「もう1つは?」

『このまま、家として、異世界で暮らす』


その選択肢なら、答えは1つしかないよね。

私はユキの方を見る。

見た目が家のため、何を考えているかは分からないが、ユキは黙ったままだ。


『倉持ユキ。あなたの選択を聞かせて』

「このまま、家として異世界で暮らす」

『分かりました。人として、地球に•••』

今度は神様が黙る。



『嘘でしょーーー』



言葉と同時に土の神像から神様、シン•アントワネットが飛び出してきた。

金色の髪に青い瞳、光を放ちながら立っているそれは、紛れもなく本物のシンだ。


「神様、出て来れるんじゃない」

『ごめんなさい。あなたの青龍、勝手にもう1体貰ったわ』

「えっ!?」

『だって、ユキに私が神様って信じさせるには姿を見せるしかなかったんだもの』


シンは髪を整え、ユキを、家を真っ直ぐ見つめ、改めて聞いた。


『我が名は、人神、シン•アントワネット。さあ、倉持ユキよ。汝の選択を聞かせてみよ』

シンは真面目な顔で、神様オーラ全開でユキに聞く。


「あなたが神様だって、疑ってないわよ。答えは変わらない。家として生きる!!」


シンは口を大きく開け、呆然としている。

私もさっきから、不思議と口が閉じないのであった。




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