第55話 家と、家?

『マリー•••』

『マリー•••』

「ん?」

神様?シンの声がする。


『青龍を1体、こちらに転送して』

「せいりゅう??」

『そう』

「お金欲しいの?」

『違うわよ。あなたと話すためよ』

「私と•••?」

『あとマリー、お家買ったでしょ?』

「うん•••」

『そこに、小さくてもいいから私の像を作って』

「象?鼻の長い?」

『像よ。像。あなたのいた日本にも大仏様とかあったでしょ?』

「うん•••」

『あと、あのお家少し問題を抱えているから、次、私と話すまで気をつけるのよ』

「もう、食べれません•••」


ま、りー

まりー

マリー


「マリー様」

私が目を開けると、覗き込んでいるラーラの顔があった。


「マリー様。お目覚めですか?」

「う、うん」

辺りを見渡すと、先程までみんなでシュークリームを食べていたラミリア王宮内の部屋だった。


どうやら眠ってしまったらしい。

ステータス画面で時間を確認すると、午前3時だった。

新築祝いからの青龍退治、王妃様に薬を飲ませた時は午前0時を過ぎていたから、眠いはずだよ。


でも、さっきのは何だろう?

夢だったのかな?


「マリー様。指輪が光っています」

「あっ、本当だ」

ペアリング用の指輪が光っている。

それでラーラは起こしてくれたのかな?


「はい。マリーです」

「マリーちゃん。ちょっとお家が変なの」

アイリスさんの慌てた声が聞こえた。


「どうしたんですか?」

「いつの間にかみんなで眠ってしまっていたんだけど、今起きたらガーネットの街じゃないの!!」

「えっ!?」

「窓から見える景色が、見たこともない場所なのよ。私の屋敷もないし」


どういうことか?

家が勝手に移動した?


「とにかく、今すぐそこに行きますから待ってて下さい」

私はペアリングを終了すると、ラーラ達に今のことを話した。


「家が!?」

「そうなの。場所は分かるから、今から一緒に来て」

「承知しました」

「そう言えば、メレディスさん達はどうしてるか分かる?」

「はい。マリー様が眠り始めてから少しして、こちらに見えました。マリー様が眠っていると話すと、明日の朝、また来ると言ってました」


朝までまだ時間があるし、このまま行こう。

私は決断すると、ラーラ達とサクラを自分にくっつかせ、『転移スキル』でガーネットの家に転移した。


転移した私の目に飛び込んだのは、少し前までマイホームがあった場所が更地になっている光景だ。


「本当に家がない」

「信じられません」

「ピー」


更地の周りには、確かに家が建てられていた跡がある。

それと、四角い足跡のようなものが街の外まで続いていた。


私は『GPSスキル』を発動する。

反応はここから数キロの場所にあった。

遠ければラーラ達のドラゴンで移動したが、この距離なら警戒されることも考え、走って向かった方が良さそうだ。


「ここから数キロの場所にみんないるみたい。走って行くよ」

「畏まりました」

「サクラは私の背中にくっついててね」

「ピー」

私達は、まだ薄暗い闇の中を走り出した。

この世界の季節は分からないけれど、この時間帯は冷え込む。


というより、セーラー服がいけないのかもしれない。

それと、ラーラ達はドレスのまま走っている。

大丈夫かな??


家まで50メートル程まで迫った時、窓からアイリスさんとルミナーラさんの姿が見えた。

2人に怪我などは無さそうだ。


家も外から見る限り変わった様子もなく、移動したとは思えない。


「何か感じる?」

「いえ、特には」

ラーラの答えにサーラ、ナーラが同意する。


「とにかく、入ってみようか?」

「では、マリー様はここに残って下さい。まず私達で入ってみます」

「分かった。何かあったらお家、壊していいからね」

「•••はい」

少し考えてから返事をすると、ラーラはサクラとアイリスさんを引き連れ、正面から家のドアに向かう。

側から見れば、ただ家に帰る人そのものだ。


家の前に着いたラーラがドアをノックする。

インターホンの使い方を教えるのを忘れていたが、無事ドアが空き、アイリスさんがラーラ達を中に招き入れた。


何も変化がない•••

どうしたものか•••


私はしばらく家を眺めていた。

すると、家の3階部分の右側と左側、2箇所の窓が光っていることに気づいた。


3階に誰かいるのかな?

私が目を凝らして見ていると、一瞬、電気が消えて、また直ぐに着いた。

上から下にゆっくりと電気が消え、パッと一瞬で着いたのだが、まるで瞬きをしているように感じた。


そう思うと、電気が光っている位置も目のように見える。


いや、まさかね。

と、思った矢先、窓の光が右にひとつ移動した。

家から見て左側には私がいる。

まさか、光は私を見ている?


目が合ったような気がした瞬間、家の底から柱が4本飛び出し、家が浮かび上がった。


「お前がこの家の主か!?」

家がしゃべった•••


私が返事を出来ずにいると、家?は怒りの口調で続けて言ってくる。


「よくも私を捨てたわね!!」

「えっ??」

「こんなに女を連れ込んで•••」

話してる内容も、家?が話してるのかもよく分からない。


「あ、あの•••」

「言い訳なんて許さない」

そこまで話すと、底から出てきた4本の柱を動かし、家が私に迫ってくる。

更に迫りながら今度は家の両側面から柱を出し、まるで手のように扱い始めた。


でも、柱の角度や長さから攻撃はできない、と思った刹那、手の部分の柱が伸び、凄い勢いで私に攻撃してくる。

私は間一髪躱したが、柱の手は私の後ろにあった木を数本薙ぎ倒していた。


「やばい威力じゃない、これ」

「まだよ、私の痛みはこんなものじゃない!!」

「ちょっと待って」

「男の癖に見苦しいわよ」

「ふへ??」

「私を拉致してどうにかするつもりだったみたいだけど、あなたの負けよ!!」


状況がまったく理解できない私は、ひとつ聞きづてならない部分を、この世界に来て1番の大声で否定する。


「わたしーーー、お•ん•な•ですーーー!!」


家が止まる。


「な、何だと。嘘を言っても•••」

家は窓部分の目で、私をじっと見てくる。


「それは•••、セーラー服??」

「そうだけど、知ってるの?」

「そう言えば、私はどこに拉致されたのだ?」

家が右往左往する。


「拉致なんかしてないよ」

「なら、ここはどこだ?日本か?それとも海外か?」

「えっ??」

「その反応、やはり私を拉致したのだな!!」

「ち、違う。それより、あなた日本人なの?」

私は家に向かって日本人なのか聞く。

そもそも人なのかも聞きたいけど。


「何をおかしなことを。どこから見ても日本人のか弱き乙女でしょ」

「ど、どこが??」

真顔で真剣に突っ込んでしまった。


「まぁ、乙女は言い過ぎたけど、私はまだ29歳よ。しかも、よく20代前半に見られるのよ」

「ち、築年数ですか?」

「あなた、さっきから何言ってるの?」


もしかしてと言うこともあるし、私はアイテム収納から姿見サイズの鏡を取り出す。

これでも小さいけど、他に無いからしょうがない。


「あら鏡ね。久々に自分の美しい顔を見てみましょう」

家は鏡に自分が映るように動き回る。


「これで見れるわ•••」


静寂が訪れた。



「な、何よこれーーーー!!家じゃーーーーん!!」



辺りに家の声が虚しく響いた•••。



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