第54話 王妃様の回復と、サクラ
魔王国ヴィニシウスの街の前に来ると、私はラーラ、ナーラ、サーラを残し、ピンクドラゴンを連れて禁断の地に転移する。
本当はピンクドラゴンは連れて行きたくなかったが、確かめたいこともあった。
禁断の地に転移すると、シルクの布が掛けられたラミリアの王妃様がいた。
相変わらず苦しそうにしているが、外敵等はなかったようだ。
「ピー、ピィー」
ピンクドラゴンが反応する。
「どうしたの?」
「ピー」
「もしかして、ここに来たことあるの?」
「ピー」
うん、と言っている気がする。
青龍に禁断の地に捨てられ、ここに来たのは間違いなさそうだ。
そして、ワームの肝を食べたのかな?
「ねー、この人、治せる?」
「ピィィー」
ピンクドラゴンは首を横に振る。
王妃様が罹っている病気は、アリサやミランダさんが罹った「ウィルス性胃腸炎」よりも重い病気ということだ。
私はピンクドラゴンを足にしがみつかせ、王妃様を抱き抱えた。
そして、『転移スキル』でラーラ達の元に戻った。
本当ならあの場で薬を作り、飲ませてあげたかったが、神の遣いが来る前に直ぐに立ち去りたかった。
「マリー様。ご無事ですか?」
「うん、大丈夫」
「もしや、その方がラミリアの王妃ですか?」
ラーラはお姫様抱っこされている王妃様を覗く。
「そうなの。時間がないからラミリアの王宮に行くよ」
ラーラ、ナーラ、サーラは、私の背中と両腕に抱きついてくる。
すっかり転移に慣れたものだね。
私は『転移スキル』を使い、ラミリア王国の王妃様の部屋に転移した。
突然現れた私にメイズ国王もメレディスさんも驚いた表情をするが、すぐに私にお姫様抱っこされている王妃様に近づいてきた。
「お母様!!」
「シャーロット!!」
「今、ベッドに寝かせますから、少し待って下さい」
私は王妃様をベッドに寝かせる。
禁断の地に寝かされていた時よも顔が青ざめ、呼吸も苦しそうにしている。
急がなきゃ
私はステータス画面を開き、『製薬スキル』を発動する。
「ワームの肝」「身侭の爪」と他の材料を選択する。
前回同様、効果音や演出は一切なく、アイテム収納に「抗ワームウィルス肺炎薬接種」が追加された。
私は「抗ワームウィルス肺炎薬接種」をアイテム収納から取り出すと、アリサの時と同じカプセルの飲み薬だった。
「これが薬です。水と一緒に飲ませて下さい」
「はい!!」
メレディスさんは薬を受け取ると、使用人に水の準備をお願いする。
「お母様、何とか薬を飲んで下さい」
「シャーロット、頑張るんだ」
王妃様は意識が朦朧としている状態だ。
メレディスさんは王妃様の口を無理矢理開き、薬を喉の奥に押し込む。
そこに少量の水を入れ、王妃様の口を塞ぐ。
ゴクッ
王妃様は苦しそうにしているが、確かに「ゴクッ」と聞こえた。
薬を飲めたようだ。
「薬を飲めたみたいなので、少し待ってて下さい」
「分かりました。お母様、あと少しです」
「シャーロット、早く元気になっておくれ」
数分後、王妃様が苦しそうな呻き声を出し、体を捻り出した。
「マリー様。これは!?」
「薬が病気と闘ってるの。もちろん、メレディスさんのお母さんもね」
「そうなのですね。お母様、頑張って下さい!!」
しばらくすると、王妃様の青ざめた顔色が白く、少し赤みのある顔色に変わった。
呼吸も落ち着き、先ほどまでの苦しみが嘘のようにただ眠っているように見える。
「お母様•••」
「シャーロット•••」
2人は王妃様の手を握ったり、額を撫でたりしている。
私は『お医者スキル』を使って現在の状況を確認すると、「ウィルス性肺炎」の表示が消えていた。
「もう、大丈夫です。病気は治りましたよ」
「本当ですか!?」
「それは誠か!?」
メレディスさんは私に抱きつき、メイズ国王は近くにあった椅子にもたれ掛かるように座り、安堵の表情を浮かべる。
その時、メレディスさんが私の足元にいるピンクドラゴンに気づいた。
「マリー様。このピンク色のドラゴンは?」
「この世界の救世主だよ」
「救世主??」
「ピィー??」
「うっ、う〜ん」
メレディスさんとピンクドラゴンが目を合わせていると、王妃様から声が聞こえた。
「お母様!!」
「シャーロット!!」
「め、メレディス•••、あなた•••」
「お母様、もう大丈夫です!!」
メレディスさんは王妃様の手を握りながら涙を流している。
「わ、私は•••」
「無理はするな。今はまだ眠りなさい」
メイズ国王は王妃様の頬に手を当てる。
私はラーラ達に合図すると、静かに部屋から出た。
それに気づいたメイドさんが下の階の部屋に案内してくれた。
「お気遣いいただき、ありがとうございました」
メイドさんが紅茶を淹れながら言ってくる。
「いいえ。こちらこそ部屋に案内してもらってありがとうございます。紅茶まで淹れてもらって」
「マリー様のお菓子と合うといいのですが」
メイドさんは笑顔で言ってくる。
20代前半に見えるメイドさんは、左手薬指に指輪をしている。
「結婚なさってるんですか?」
「はい。夫と子供が1人います」
なんだか、久々に新鮮な会話だ。
私はアイテム収納からシュークリームを3つ取り出し、袋に入れてメイドさんに渡す。
「これ、家族で食べ下さい」
「よろしいのですか?」
「はい。遅くまでお付き合いさせちゃいましたし」
「ありがとうございます。ガーネットで評判のシュークリーム、これほど嬉しいお土産はありません」
「喜んでもらってよかったです」
メレディスさんの口コミか、ガーネットの街にはシュークリーム目当てにラミリアから多くの人が来るようになっている。
お陰様で毎日行列を作っている。
ふと視線に気づく。
ラーラ、ナーラ、サーラが私を真っ直ぐに見つめ、足元からはピンクドラゴンが私を上目遣いで見てくる。
「はいはい」
私はお皿を1枚もらい、シュークリームを積み重ねる。
ラーラ、ナーラ、サーラは喜んで食べ始める。
「あなたは食べれるのかな?」
ラーラ達ドラゴンが食べてるのだから問題はないと思うが、一応、ピンクドラゴンに聞いてみる。
「ピー」
食べたいらしい。
私はピンクドラゴンを椅子に座らせ、シュークリームを渡す。
小さなドラゴンの手で器用にシュークリームを受け取り、迷いもなく口に運ぶ。
「ピィィーピ、ピーピー」
美味しいらしい。
それにしても、ピンクの小さなドラゴンが両手でシュークリームをパクパク食べているその姿、可愛すぎる•••。
「ラーラ、この子はドラゴンなんだよね?」
「波動は間違いなくドラゴンです」
「恐らく、数百年に1度誕生するハズレドラゴンかと」
ラーラの後に、ナーラが小声で言ってくる。
「ハズレ?こんなに貴重でかわいい子が?」
「これまでのハズレの子は、体格も小さく、非力で、火も吐けず、誕生と共に見放されてきました」
「そうだったんだ」
この子はたまたま禁断の地に捨てられた事で、特殊な力を手に入れたのかな?
「ピー??」
「何でもないよ」
私は口の周りをクリームだらけにしているピンクドラゴンの頭を撫でた。
「この子、お家でみんなと一緒に住まわせていいかな?」
「マリー様の決める事なら賛成です。それに、このドラゴンからは青龍の気配がありませんし」
「よかったねー」
私はピンクドラゴンを自分の膝の上で抱き抱えた。
「名前を決めなきゃね」
「ピー?」
「ピンク色だから、サクラにしようかな」
「ピーピー!!」
どうやら合格みたいだ。
「これからよろしくね。サクラ」
「ピー!!」
その可愛さに、私はサクラをぬいぐるみのように抱きしめるのであった。
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