第53話 青龍の被害と、またまた王女



私はピンクドラゴンと女性5人を連れ、ほぼ倒壊している建物の外に出た。

私が言うのもなんだけど、これ以上凄惨なところを見せたくなかった。


ピンクドラゴンは私の足に絡みついて震え、女性達はお互いの肩や背中を摩り、励まし合っている。



しばらくすると、ラーラ達が建物の外に出てきた。


「終わったの?」

「はい。ありがとうございました。父と母の仇が打てました」

「なら、よかったよ」

「素材の回収に行かれますか?」

「うん」

私は返事をすると、ピンクドラゴンと女性達にここで待つように伝える。

ピンクドラゴンは言葉は理解しているようだが、足から離れないため、一緒に行くことにした。


建物の中に入ると、私が知っている先ほどまでの光景に、アオが死んでいる姿が足されていた。


アオは首と、両足、両手が切り落とされていた。

叫び声は聞こえなかったので、首から先に切り落としたんだと思う。

最低限の優しさなのかな。


「ラーラ、人型のまま収納したくないから、さっき話してたみたいにドラゴン化できる?」

「可能です」

話を聞くと、無力化されたドラゴンは、種族問わずドラゴンであれば変化させることが可能らしい。


私はアオのドラゴン化を頼み、アイテム収納に格納する。

アイテム収納には、しっかりと「身侭の爪」と表示された。


残りの100体近い青龍もドラゴン化し、アイテム収納に仕舞う。



作業が終わると再び建物の外に出た。

そこには、先ほどより大分落ち着きを取り戻した女性達が並んで立っていた。


「マリー•アントワネット様」

女性達は全員、その場に跪く。


「私は、サズナーク王国王女、ミランダ•ヨル•サズナークと申します。この者達は私の使用人です」


ん?

王女、また?


「この度は、私達を助けていただきまして、誠にありがとうございました」

「いいえ、何と言いますか、次いででしたのでお気になさらず」

「助けられた真実は変わりません。是非、お礼をさせていただきたいと思います。ただ、少しお時間を頂戴できないでしょうか?」

「お礼は必要ないんですけど、時間とは?」


私は気になったことを聞いた。

今まで「お礼を」と言われたことは何回かあるが、「時間を頂戴」と言われたことは初めてだったため、少し気になってしまった。


「はい。私共のサズナーク王国は、青龍達に周辺の街や王都を襲われており、多大な被害を受けています。

そのため、直ぐにお礼をさせていただくのが難しく•••」

ミランダさんは申し訳なさそうに私を見てくる。


「もちろん、爵位等、そういったものであれば可能なのですが、マリー様は既にラミリアで爵位を受けておられますし、マリー様自身、その•••、あまりそういったものに興味が無さそうでしたので」


なんだか

私のこと、詳しくないですか?


「どうして私のことをそんなに知っているのですか?」

「失礼しました。私は青龍を倒したというマリー様のお噂を聞き、そこから色々と調べさせていただきました。

ラミリア王国での青龍討伐、旧カサノヴァ王国での聖女様伝説、魔王国での大魔王の天罰、どれも信じられないものばかりでした」


ミランダさんはハッと顔を上げ、申し訳ありませんと、謝罪を口にする。


「気にしないで下さい。それに頭も上げて下さい。自分で言うのも何ですが、どれも信じられない話しですよね」

「やはり、私はマリー様という存在を信じてよかった」

ミランダさんは立ち上がりながら、少し笑みを浮かべる。


「身分関係なく人と接し、人を助け、人に愛されている。私に届いた報告書の最後にこう書かれていました。

信じ難い話でしたが、私はマリー様という存在を信じました。

そして、今回ラミリア王国まで青龍討伐のお願いに上る途中だったのです」


私は頬が熱くなるのを感じて、手を当て誤魔化す。


「ですが、途中で青龍に捕まり、私達以外の護衛は全て殺されました」

「そうだったんですね•••」

「そんなに暗い表情をしないで下さい。皆、病気でしたので•••」

ミランダさんは暗い表情をして俯く。


「病気って、国中に蔓延してるんですか?」

「いいえ。病気が広がっているのは、青龍に襲われた街だけです」


どういうことだろう?

青龍がウィルスの原因?


その時、私達の元にたくさんの灯りが向かって来ているのに気づいた。

探知スキルと判別スキルを使うと、「サズナーク王国兵士」と表示された。


「お迎えが来たみたいですね?」

「そうみたいですね。私達が青龍に捕まったのは3日前。異変に気づいて来てくれたのだと思います」


馬に乗った兵士、歩いている兵士、人数は50人ほどいる。

ただ、判別スキルで「兵士」と確認していなかったら、私には分からなかったかもしれない。


そこにいる全員が皮か布の服を来ていて、一般的な鉄の鎧を装備している兵士が1人もいなかったのだ。


「青龍の被害により、満足な装備が揃えられないのです。

それでも、民のことを一番に考え、危険と知りながらも私達を助けに来てくれる我が国の立派な兵士なのです」

「私もそう思います」


馬に乗った2人の兵士が近づいてくる。

私は密かに『お医者スキル』を使う。


病名:ウィルス性胃腸炎


アリサと同じ病気•••。

サズナークで病気が蔓延しているのは間違いなさそうだ。


「あの兵士の人も病気ですね」

「分かるのですか?」

「はい。そしてもう一度話しておきますが、ミランダさんもそこにいる女性達も病気ではありません」

「で、ですが、私達にも確かに症状が」


ミランダさんは私に背中を向け、服を少しずらし、肌を見せる。


「何もなってませんよ」

きっと、発疹を見せたかったのだろう。


「えっ??」

ミランダさんは使用人に背中を見せるが、使用人は全員口元に手を合てて、驚きの表情をする。

そして、自分達も背中を見せ合っている。


「この子がミランダさんやみなさんを噛んだことによって、病気が治ったんです」

私はピンクドラゴンの頭を撫でる。


「それは本当なんですか?そう言えば、怠さや頭痛も消えています」

「このピンクドラゴンは、私達を躊躇わず噛んできましたので、青龍の味方だと思っていました」

ミランダさんの後に、使用人の1人が言った。


私の時は噛むことにあれだけ抵抗していたのに、ミランダさん達には迷わず噛んだ。

もしかしたら、この子は病気の人と、自分が治せることを知っているのかもしれない。


「それはきっと、この子があなた達を病気だと分かって、自分が噛めば治ることを知っていたからだと思います」

「そ、そうだったのですね」

俄には信じられないだろうが、自分達が感じていた病気の症状がなくなっていることで、素直に受け入れているようだ。


「ピンクのドラゴンさん、助けてくれてありがとうございました」

ミランダさんはピンクドラゴンの手に触れ、お礼を言った。

他の使用人達も同じようにお礼を言っている。


「ミランダさん。私には急ぎの用があり、直ぐに行かなければいけません。

用事が終わり次第、直ぐにサズナークに行って治療をしますので、この子を連れて行ってもいいでしょうか?」

ミランダさんは私の足にしがみついているピンクドラゴンを見る。


「この子はマリー様を好いてらっしゃるようですし、私が連れて行こうとしても無理そうです」

ミランダさんはお上品に笑う。


「ありがとうございます。終わり次第、直ぐにサズナークに向かいますから」

「分かりました。私達はこれから急いで王都サズナークに向かいますので、2日後には着いていると思います」

「はい。では、私達は行きますね」


私は『転移スキル』を発動し、魔王国ヴィニシウスの街の前に転移した。



突然消えた私達に、ミランダさん達が驚いて腰を抜かしたことを、私は知る由もなかった•••。




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