第52話 病気と、シィク
「そのドラゴンの子、やっぱり病気じゃないよ」
「小賢しい小娘が!!そろそろ殺してくれる」
「なら、その子に私を噛ませてみてよ」
私は両手を広げる。
抵抗しないと見せているつもりだ。
流石に青龍100体に囲まれているあのピンクドラゴンを無傷で助けるのは無理だ。
人間の女性は青龍達と少し距離があるため、ピンクドラゴン確保と同時に隙を作れれば問題ない。
「聖女ともなると、自身にあらゆる耐性がついていると勘違いしてるらしい。
どちらにしてもお前はここで死ぬのだ。死に方くらい選ばせてやろう」
アオはそこまで話すとピンクドラゴンを睨みつける。
「仕事だ。行け!!」
「•••」
ピンクドラゴンは動こうとしない。
それを見たアオはピンクドラゴンを蹴飛ばし、前に出す。
「早くしろ」
「•••」
ピンクドラゴンはそれでも動かない。
怒り狂ったアオは、ピンクドラゴンを激しく蹴り倒す。
私はピンクドラゴンを静かに見つめる。
大丈夫
こっちにおいで
あなたの味方だから
するとピンクドラゴンの目に光が宿った。
蹴られたことで大分辛そうだが、静かに立ち上がり、私に向かって歩き出す。
「ラーラ、あの子が私を噛んだら、その瞬間に女性達を確保して」
「•••、畏まりました•••」
私は小声で言うと、恐らく「噛んだら」に何か言いたかったんだろうが、ラーラは了承してくれる。
その間に、ピンクドラゴンは私の前まで来ていた。
私は後ろにいる青龍達に見えるよ左腕を伸ばし、腰を下ろした。
「噛んでごらん」
「•••」
「大丈夫。あなたは力は私達を救うためにあるの」
「ピー??」
ピンクドラゴンは初めて口を開き、私を見ている。
ピンクドラゴンは何かを決心したかのように私の左腕に噛みついた。
注射を刺されたようなチクッとした痛みを感じる。
「噛みよったぞ」
「聖女は自信家のバカだ」
「毒に侵されて苦しむがいい」
青龍達は今日一番の大きな声で私を罵り、高らかに笑う。
私が女性達の方を見ると、既にラーラ達が確保していた。
少し笑みを浮かべ、目の前のピンクドラゴンの頭を撫でると、私はその場に立ち上がる。
「自信家はそっちでしょう?あなた達はいつも隙だらけ」
私が言うと、ラーラ達が女性5人を抱えて私の後ろに来る。
「いつの間に!!しかし、そんな病気の死に損ないを庇うために噛まれるとは本当にバカだな」
「大人しく死ねばいいものを」
「やがて偽聖女も病気で死ぬんだ」
私の体に魔力が集まりだし、黒いオーラが纏い出す。
私が小学生の時、体に細菌が入り、高熱、吐き気が数週間続き、最後は入院まで余儀なくされた。
一時、危険な状態に陥り、死の境を彷徨った。
病名は知らない
両親なら知ってるかもしれないけど
その時覚えてるのは、ただ苦しかったこと
両親は毎日時間を作り、私の傍にいてくれた
お医者さんも看護師さんも、みんな優しかった
私の他にも、病院ではみんな病気と戦っていた
だから私は、頑張れた
だから私は、病気の人を悪く言うのが許せない
「何を突っ立ているんだ。病気が苦しくて動けないのか?ざまぁ、ないなー」
ゾワッ
【大魔王の威圧】が発動する。
同時に辺りが激しく揺れ、建物が崩れ出す。
「何だ?これがこいつの正体か?」
【お前達、覚悟はできてるな?】
「この程度で生意気言うな!!」
「こっちには青龍100体だ!!」
【鬱陶しい】
私はステータス画面を開き、読み上げながらスキルを発動させて行く。
【バイオスキル】
【生化学スキル】
【微生物スキル】
【培養スキル】
【細胞スキル】
【精製スキル】
【促進スキル】
•
•
•
•
【魔法創生スキル】
「なんだ、何を言っている」
「病気でおかしくなったんだろう」
私は両手の拳に魔力を込める。
あまりの魔力の強さに、稲妻が拳の周りに発生する。
「お前達、いいからやれ」
アオの一声で10人の青龍が向かってくるが、私は右足を180度回し、青龍を吹っ飛ばす。
【か弱いな】
「お前達、ドラゴンで攻撃しろ!!」
他の10人が一気にドラゴンとなり、私を踏み潰そうとしてくる。
建物の屋根は崩壊し、瓦礫が次々と落ちてくる。
青龍達の攻撃と瓦礫を交わしながら、私は右手の小指で円を描き、上空に10個の光の輪っかを作り上げる。
グッ•バイ
私が唱えると同時に光の輪っかが青龍達の首に降り注ぎ、一気に首を刎ね落とす。
「な、何だと!!」
【青龍は、誠、弱き生き物じゃな】
私は悪魔のような笑みを浮かべる。
「ひっ」
アオは怯み、後退りをする。
【さあ、死ぬ覚悟はできたかな】
「ま、待て!!」
【待つ義理はないな。これまで私の大切な物を傷つけてきたんだ。償いは死んでも足りんくらいだ】
【貴様らが散々蔑んできた病人にしてやろうぞ】
私は両手を上に掲げる。
【人神シン•アントワネットの名の元に、新たな魔法を創生し、魔神ラソ•ラキティスの力で悪しき魔法を解き放つ】
シィク
黒い波動が私の体から解き放たれ、前方にいる青龍達に襲いかかる。
青龍達は黒い波動を断ち切ろうとするが、体に吸収されていく。
黒い波動を吸収した青龍達は、苦しみのあまり首を掻きむしり、苦悶に満ちた表情をする。
やがてその場に倒れ込み、動かなくなった。
周りには100体近い人型の青龍が倒れている。
「な、何ということを•••」
アオが惨状を見て弱々しい声を上げる。
【後はお前だけだな】
「ひぃ」
【安心しろ。お前にはまだ用があるが、済んだら直ぐに仲間と合流させてやる】
【ラーラ。身侭の爪は人型でも問題ないか?】
「はい、問題ないかと。それに私の方で部位単体でもドラゴン化可能です」
【なら、問題ないな】
私はアオを見る。
「マリー様。どうかこいつの最後は、私達に任せていただけないでしょうか?」
ラーラ、ナーラ、サーラが私の前に跪く。
ラーラ達の両親も、青龍に奪われている。
大した理由もなく悪戯に毒殺された。
【任せたぞ】
「有り難き幸せ」
ラーラ、ナーラ、サーラはアオに向かって歩き出す。
ここで私の【大魔王の威圧】は終了した。
足元にいるピンクドラゴンを抱き抱えると、女性5人の元に向かった。
私は後ろを振り返り
任せたよ
と心の中で言うと
その場を後にした。
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