第51話 パーティへ乗り込みと、ピンクドラゴン



神の遣いは、見た目は人の形だが、中央部分が透明、体の左側は漆黒の闇、右側は輝く白色、何度見てもその姿は見慣れない。


「お願いとはなんだ」

「少しの間、ここに、この人を置かせて。

この人は衰弱していて自分では動けないし、私もワームホールには近づかない」

神の遣いは微動だにしない。


「お願い!!」

私は震える体で神の遣いを見る。


「よかろう」

そう言うと、神の遣いは消えた。


私は王妃様を抱きかかえたまま膝から崩れ落ちる。

何もしていないのに息が切れ、肩で呼吸をしていなければ耐えられない。


「と、とりあえずよかった•••」


私は王妃様を地面の上に寝かせる。

本当は地面の上ではなく、『携帯ハウス』を出して寝かせてあげたかったが、正直、神の遣いに聞く勇気がなかった。


王妃様は相変わらず苦しそうに目を閉じ、うなされている。

きっと、起きているのか眠っているのか分からないほど朦朧としているのだと思う。


弱っている女性を1人置いていくのだから、せめて結界スキルを使いたいが、神の遣いが何をするか分からないので、地面の上で寝かせたまま行くことにする。

ここは少し体が重くなるけど、魔物も魔族も決して近寄ってこないから、神の遣いに許可さえもらっていれば安全だろう。


何より時間の流れが止まっている状態に近いから、ここほど最適な場所はない。


私は王妃様の顔に手を当てる。


「あなたは、まだ私の料理を1度も食べたことがないでしょう?食べないと、死んでからも後悔するよ。

だから、もう少しだけ頑張って」


そう伝えると、私は『転移スキル』でラーラの元に向かった。


マイホームの中に直接転移した私を、ドレスアップしたラーラ、ナーラ、サーラが出迎えてくれた。


やっぱりパーティにはドレスなんだね


「お帰りなさいませ、マリー様」

「うん。早速だけど、すぐに出発できる」

「はい」


私はその場にいるアイリスさん、アイラ、ルルミーラさん、ルミナーラさん、アリサに事情を説明し、街の外に出る。


サーラにドラゴンに変化してもらう。

お願いしといて何だけど、ドラゴンに変化してもドレスは大丈夫なんだよね??


サーラの背中に乗ると、パーティ会場に向かう。


「パーティはどこでやってるの?」

「サズナーク王国の南にある辺境の街ミレバンです」

「街ってことは、人が住んでるの?」

「いいえ、人族はおりません。百年程前は人族の街だったのですが、滅んでからそこを密かにパーティ会場としていました」

「なら、暴れても大丈夫だね」

「はい。青龍は近隣の街に被害も出していますから、遠慮なく成敗して下さい」


そこまで話すとサーラにスピードを上げてもらい、ミレバンに急いだ。


5時間ほど飛び続けたところで、ミレバンに着いた。

私は逃げも隠れもせず、街の中にドラゴンで着陸する。


人型に戻ったサーラと、ラーラ、ナーラは私の後ろに横一列に並び、私は先頭を歩く。


街は聞いていた通り、滅んでから時間が経過しているようで、家屋は全て倒壊し、元は道であった場所も今では分からないほど崩れ、場所によっては草に覆われていた。


ただ、街の奥にある大きな建物だけは最近建てられたかのように綺麗で、中からは明かりが漏れている。


「あそこだね?」

「その通りです」

私は歩く速度を早める。


建物の入り口に着いたが、見張りはいない。

こちらに気づいて警戒はしているはずだ。


私は迷わず扉を開けると、そこは直ぐにパーティ会場だった。

どうやって用意したのか分からないが、立食形式で料理が並べられている。


奥には100人近い、青龍と思われる人がこちらを睨んで立っていた。女性と男性は半々のようだ。


「この料理は一体?」

ラーラが料理を見て呟く。


「前とは違うの?」

「はい。前はそれぞれのドラゴンが持ち寄った肉等を食べていました」

「これはどう見ても人族の料理だぞ」

ラーラの後に、ナーラが続けて言った。


「これはこれは、ようこそ。赤龍とお嬢ちゃん」

「あなたは?」

「私は青龍の王女、アオ。それで、お嬢さんは?」

「私はマリー•アントワネット」

「マリー、お前が!!」

アオは先程までと明らかに表情が変わる。


「我が一族を殺し回っているマリーなのか!?話に聞いた限り、そやつは黒いオーラのようなものを纏っていると聞いたが」

大魔王の威圧のことを言っているらしい。


「それ、私だよ」

「許さんぞ」

「あいつが仲間を!!」

「殺す、絶対に殺す!!」

アオの後に、他の青龍達も声を上げる。


バリンッ


その時、何かが割れる音が部屋中に響いた。


私を含めたみんなが一斉に音がした方を向くと、5人の女性がいた。

その内の1人がお皿を割ったらしく、その場に震えながらしゃがみ込んでいる。


「マリー様。あそこにいるのは人族です」

「えっ?」

「やっぱり人族は使えんな」

私が驚いていると、アオが蔑んだ目で女性達を見ている。


「お、お許し下さい」

しゃがみ込んでいた女性は土下座をする。

「責任なら私が取ります」

5人の内、1人の女性が前に出る。


「責任だと?もうすぐ死ぬ貴様に何ができる?」

「ぐっ」

「そうだ。そこにいる聖女と名乗る鬼畜にお願いしてみたらどうだ?」

女性が私の方を向く。


「まさかあなたはマリー様」

「どうして私のことを?」

「死に損ないが、誰れが世間話をしろと言ったのだ」

アオが激しく女性を睨む。


「私を含めてここにいる5人は病気で長くありません。私達を気にせず、青龍を倒して下さい」

「本当に人族は愉快だな。青龍100体に勝てる訳なかろう」

アオがそう言うと、青龍達が一斉に笑う。


私は気にも留めず、『お医者スキル』を発動して女性達を見る。

しかし、病気の反応はない。

どういうことだろう。


「あなたも、そこにいるみんなも病気じゃないよ」

「えっ?」

「偽聖女様は流石だな。病気の人族に病気じゃないと言って励ますのだな」

また青龍達が高らかに笑う。


「なら、何の病気なの?私には分からないんだけど」

「正直に無能を認めるか。いいだろう。あの青龍の恥を連れて来い」

アオが部下に命じると、奥からピンク色をした40センチ程のドラゴンが連れて来られた。


「こやつは青龍だが生まれながらにハズレ者でな、禁断の地に捨てたのだ。

そこで何を食うたか分からんが、不治の病気になって帰ってきた」

アオはピンク色のドラゴンを睨む。


「大人しく死んでいればいいものを•••。仕方ないから活用してやったのさ。女達を噛ませて、病気を遷すのにな」

アオは愉快そうに笑う。


「マリー様。あの小型のドラゴン、体内に病気を持っています」

「分かるの?」

「はい。ドラゴン同士であれば体内にある病気や毒は分かります」

「なるほど」


私はピンク色のドラゴンに向けて『お医者スキル』を発動した。


病気なし

※Z5062星のウィルス耐性及び抗生ワクチン生成あり。


この子、耐性がある。



きっと、禁断の地を彷徨って、近くで「ウィルスの発生源」を食べたんだね。

それで運良く耐性ができた。

でも、抗生ワクチン生成とは?


「その子も病気じゃないよ」

「冗談もそこまで来ると笑えんな。どちらにしても、人族の女は元々病気だったのだぞ」

私は女性達を見ると、俯いた。

本当のことのようだ。


なら、この子はウィルスの発生源と「ワームの肝」を食べた?

その結果、抗生ワクチンができ、彼女達を噛んだことで症状が改善した?


でも、この子がワームホールまで行けたの?


いや、考えるのは後だ。


「ラーラ、彼女達5人と、あのドラゴンを助けるよ」

「あのドラゴンもですか?」

「うん」


あのピンク色のドラゴンの目は、恐怖と絶望に満ちてる。

だけど、助けを待ってる目でもある。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る