第50話 ラミリア王妃と、Dr.マリー
「メレディスさん、どうしたの?何かあったの?」
私はメレディスさんに駆け寄る。
「申し訳ありません。折角のお祝いだと言うのに」
「それは気にしないで下さい。それで、何があったか教えてくれますか?」
メレディスさんは力無く頷いた。
「実は、2ヶ月程前から母の体調が良くなく、ここ数日は特に酷く•••」
そこまで話すとメレディスさんは泣き崩れた。
メレディスさんの母親ってことは、ラミリア王国の王妃様。
確かにメイズ国王とは何度か会っているが、
王妃様は一度も見たことがない。
「絶対に治すとは言えないけど、今から私がメレディスさんのお母さんを診てみるよ」
「本当ですか!?ですが•••」
「ですが•••」、がお祝いの席ということを気にしているのか、病気を診ることができるのかを聞きたいのか、何を指していたかは分からないけど、私はメレディスさんに伝えた。
「大丈夫。私には病気が分かるスキルがあるし、ここにいるみんなも分かってくれるよ」
「そうです!!私は不治の病で死を覚悟していたんですが、マリーに治してもらいました」
アリサがメレディスさんの手を握りしめる。
「早い方がいいわ。大丈夫。私達ならここで宴を続けているから気にしないで」
「そうよ。温泉にも入って、ちゃんと楽しむから」
アイリスさんとルルミーラさんが優しく伝える。
メレディスさんに気を遣わせない、2人の思いやりが伝わってくる。
「みなさん、ありがとうございます」
「ラーラ、ナーラ、サーラ、ちょっといい?」
「はい」
3人が私に近寄ってくる。
「3人は幽霊とか平気だよね?」
「ゆうれい??」
「う〜ん、アンデッドとも違うし、実態のないフワフワしたやつ?」
「分かりかねますが、そのゆうれいがどうかしましたか?」
「今夜出るかもしれないから、一応、気をつけといて」
「不審者ということですね。畏まりました!!」
ちょっと違うけど、よしとしよう。
「それじゃ、メレディスさん行くよ」
「はい!!」
メレディスさんは先ほどより明るくなり、いつものように私に抱きついてくる。
転移するからちょうどいいけど
私は『転移スキル』でラミリアの王宮内にある、以前、案内されたことがある部屋に転移した。
部屋には誰もおらず、真っ暗だった。
よし。
まるで忍び込んでるみたいだ。
私とメレディスさんは部屋から出ると、王妃様の元へ急いだ。
途中警備をしている兵士とすれ違うが、メレディスさんは軽くを手を上げて合図するだけで歩みは止めない。
流石に王宮は広く、終始早歩きで5分程経った頃、ようやく部屋の扉が見えてきた。
「あちらです」
扉の両脇には兵士がいるが、近寄ってくるのがメレディスさんだと分かると、手を胸元に置き、敬礼をしてくる。
「中に父は、王はいますか?」
「はい!!」
「扉を直ぐに開けてちょうだい」
「畏まりました!!」
兵士は部屋の中に向かって「メレディス王女、マリー聖女様入られます」と言った。
私の顔、覚えてるのか。
不思議と嬉しい。
扉が開くと、私達は部屋の中に入った。
中は想像通りの王族の部屋、という感じで広く、高そうな調度品も下品にならないよう考えられて配置されている。
部屋の中央付近には大きなベッドがあり、1人の女性が苦しそうに横たわっていた。
傍にはメイズ国王と、お世話をする人だろうか、メイドの女性が1人いる。
「メレディス。それにマリー嬢」
「お父様。マリー様がお母様の病気を診て下さいます」
「なんと、マリー嬢が?確かに聖女様なら何か分かるかもしれん。
すまないが、よろしく頼む」
「分かりました」
私はベッドに近づき、横たわっている王妃様を見る。
メレディスさんと同じく綺麗な顔立ちと金色の髪をしている。
ただ、病気のせいか肌は荒れ、頬はこけ、ずっと苦しそうに目を閉じている。
私は『お医者スキル』を発動すると、アリサの時と同様、頭の中に色々な情報が流れる。
そして、結果が出る。
肺:異常(重症)
《原因:ウィルス性肺炎》
《処置:抗ワームウィルス肺炎薬接種》
※緊急を要する。
ちょっと待って
「緊急を要する」って、
かなり危ないんじゃ
私は慌てて『製薬スキル』で「抗ワームウィルス肺炎薬」の作り方を確認する。
ワームの肝もまだ余っているし、前回と同じ材料なら助かる。
結果は、前回と違う材料がひとつだけあった。
身侭みままの爪
一応、この世界で手に入るみたいだけど、どこにあるか分からない。
「すいません。身侭の爪、って分かりますか?」
「いいえ、存じ上げません」
「わしも聞いたことがない。それが妻の病気なのか?」
「病気を治すために必要な材料なんです」
「治す、治せるのか!?」
「材料さえあれば、恐らく。ただ、時間がありません。王妃様はすごく危ない状況です」
「な、なんと•••」
メイズ国王はその場に膝から崩れる。
私は『ペアリングスキル』でラーラに連絡する。
動物や魔物の「爪」なら、ラーラは何か知ってるかもしれない。
「マリー様ですか?」
「そう、私。ラーラに聞きたいことがあってさ」
「何なりと」
「身侭の爪って、知ってる??」
「流石マリー様。やはりやつらを根絶するのですね」
「どういうこと??」
私は指輪を見ながら首を傾げる。
「失礼しました。以前、青龍を根絶すると話しておりましたのでつい」
「身侭の爪と青龍は関係あるってこと?」
「はい。身侭の爪とは、青龍の女王の爪のことです」
なるほど
それはちょうどいいかも
大魔王の威圧が発動していなくても、街や大切な人に危害を加えたりする青龍が私は嫌いだ。
「そのクイーン、どこにいるか分かる?」
「くいーん?青龍の女王であれば、ちょうどパーティ中だと思います」
「パーティって、例の人型でやる?」
「はい。パーティと言いましても、会をする度に青龍が騒ぎを起すので、最近は他の龍派は参加してませんのでちょうど良いかと」
「ラーラ、こっちでの用事を済ませたら迎えに行くから準備してて」
「畏まりました」
私はペアリングを終了すると、行動を開始する。
「メイズ国王、メレディスさん。一時的に王妃様を預からせてもらえませんか?」
「それはどういうことだ??」
「これから薬の材料を取りに行きますが、少し時間がかかりそうなんです。そこで、病気の進行を遅らせる場所があるので、連れて行きたいと考えてます」
「では、我々も一緒に」
「それはダメです!!」
私は少し強めに言う。
「なぜだ!!」
「そこは、少し危険な場所なんです」
「そんなところに妻をやる訳には•••」
「このままでは王妃様は助からないと思います。私を、信じてもらえませんか?」
メイズ国王は頭を抱える。
「お願いします」
メレディスさんは、まるで何も悩んでいないかのように気丈な態度で言ってきた。
「メレディス•••」
「お父様、マリー様はこれまで数々の奇跡を起こし、私を含め、大勢の命を救って下さいました。
どんな結果になっても、マリー様に任せるのが正しい選択なのです」
メイズ国王は少しの間考え、私を真っ直ぐ見つめた。
「妻を頼む」
そう言うと、私に頭を下げる。
「はい!!」
私は返事をすると、王妃様に掛けられているシルクの布ごと抱き抱えた。
これが本当のお姫様抱っこだね。
「行ってきます!!」
私は『転移スキル』を発動し、禁断の地に移動した。
以前、神の遣いと戦った場所だ。
「神の遣いさん、いますか!?」
私が問いかけると、5メートル程前の空間から静かに神の遣いが現れる。
「お前か。何をしに来た」
「ちょっと、お願いがあってさ」
感覚的に神の遣いが私の目を見ている気がした。
私の体は素直だ。
その瞬間、震えが始まり、額からは汗が流れた。
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