第47話 抗ウィルス薬と、鳥の唐揚げ
アリサを起こす前に、薬を完成させてしまおう。
私はステータス画面を開き、RPGではお馴染みの『調合スキル』を発動する。
こんなスキルがあったら、無条件でスキルシートにチェックを入れるよね。
因みに、ワームの肝以外の素材は街でも売っている物で、既にアイテム収納に入っている。
私はアイテム収納で素材を指定し、調合を開始した。
何か特別な演出がある訳でもなく、アイテム収納に「Z5062用 抗ウィルス薬」が追加されていた。
ワームの肝もまだ余っているようだ。
薬ができると、私はアリサを起こした。
「マリー、マリーなの!?」
「ただいま」
「よかった、無事でよかった」
アリサは私に抱きついてくる。
「薬できたよ!!」
「本当に!?マリーが作ってくれた•••」
今度は泣き出してしまった。
「ほら、早く薬を飲んで」
私はアイテム収納から「Z5062用 抗ウィルス薬」を出した。
薬はカプセルに入った物が1粒だった。
注射とかじゃなくてよかった•••。
私はお水を用意して、アリサに薬の飲み方を教える。
この世界に固体の薬はないらしい。
アリサは薬を口に入れ、目を閉じながらお水を飲む。
「どれ位で効き目が出るかは分からないんだけど、少し様子をみようか」
私がそう言うと、アリサはいきなり上半身の服を脱ぎ、下着姿になった。
その体には無数の発疹が出来ていた。
ウィルスの所為でこんな発疹もできるのか。
「すごく、発疹部分が熱くなってる」
「大丈夫!?」
アリサは苦しそうにソファに座り込む。
アリサの額に手を当てると、凄い熱だった。
「だ、大丈夫だよ。マリーが作ってくれた薬だもん」
「うん。きっと良くなるから」
私はアリサの背中を摩りながら話しかけ続ける。
5分程すると、大分アリサの様子が落ち着いてきて、驚いたことに発疹が消えた。
「マリー、体が軽い。怠さも頭痛もない」
私は直ぐに『お医者スキル』で確認する。
結果、病気は治っていた。
「アリサ、治ってるよー!!」
「マリーのお陰よ。ありがとうー!!」
アリサは私に抱きついて泣いた。
抱きついたり泣いたり忙しいけど、1人で病気を抱えて戦ってたんだもんね。
頑張ったね。
「よし、アリサ。どうせ病気でまともな物食べてなかったんでしょう?
私が美味しい物を作ってあげる」
「本当に?食べても吐いちゃうし、最近は殆ど食べてなかったの」
私はアイテム収納から材料を取り出すと、卵粥を作った。
「はい、どうぞ。胃に優しいお粥を作ったよ」
「おかゆ??」
「熱いから、気をつけてね」
アリサは冷ましながら卵粥を口に運ぶ。
「お、美味しい•••」
アリサはそう言うと、涙を流しながらお粥を食べた。
「ちょっとなんなのよ、この良い香りは?」
地下からマーニャさんとレキシーさんが階段を登ってきた。
「この子は?泣いてるじゃない。マリー、また人を垂らし込めたのね!!」
「垂らし込めるって•••」
レキシーさんの言葉に私は少しむくれて言う。
「それより、私達も朝から作業しっぱなしで何も食べてないの。マリー、私にもそれを頂戴」
「たくさん作ったので、どうぞ」
私は卵粥をお皿に盛り、マーニャさんとレキシーさんに渡す。
「何この優しい味は•••」
「空きっ腹にちょうどいいわね」
2人共、気に入ってくれたみたいだ。
私はアリサの事を説明し、もう治ったので病気の件も話した。
ただ、ワームホールの件は、魔族領の禁断の地に薬の材料があったことだけ説明した。
もちろん、2人には心配されて怒られました。
次の日の朝、というか昼。
あの後、アリサとそのままギルドラウンジに泊まり、私は前日の疲れからかお昼近くまで眠っていた。
1人部屋だったのでゆっくり眠れた。
いつもは誰かしらベッドにいるから、1人で寝るのは久しぶりだった。
私が着替え終わった頃(もちろんセーラー服に)、部屋の扉がノックされ、マーニャさんの声が聞こえた。
「マリー、起きたー?」
「おはようございます。さっき起きました」
私は扉を開けながら言った。
そこには、どこかヤツれたマーニャさんがいた。
「マリー、お腹が減ったの」
「もう、昼ですもんね」
「お願い。何か作ってー」
マーニャさんは私の肩を掴んで懇願してくる。
ちょうどいい。
ラーラ達にも差し入れしたいし、あれを作ろう。
「分かりました。私の大好物を作りましょう」
「大、好物•••??」
私は目を輝かせているマーニャさんを連れて1階に降りた。
レキシーさんアリサがソファに座り、リルさん、ララさんがカウンターに座っていた。
「おはよう、マリー」
アリサが私に駆け寄ってくる。
「アリサ、おはよう」
「マリー、全然起きてこないから心配しちゃったよ」
「ごめん、ごめん。1人のベッドが気持ち良すぎちゃって」
そう言いながらレキシーさんの方を見ると、ソファに座ったまま項垂れている。
「レキシーさん、どうしたんですか?」
「お腹が減って力が•••」
話を聞くと、マーニャさんもレキシーさんも、昨夜お粥を食べた後、青龍の査定を徹夜で続けてくれたらしい。
朝、ギルドラウンジにある物を食べようとしたが、どうせなら美味しい物が食べたいと私を待っていたそうだ。
これは、ラミリアにもお店を出さないとダメかな?
「凄いの作りますから、待ってて下さいね」
「す、凄いの!?」
「凄いのって!?」
「凄いのですか!?」
レキシーさんの後に、リルさん、ララさんがカウンターから飛び出しながら言った。
みんな私を待ってたんだね•••
私はみんなの期待に応えて、アイテム収納から料理道具を一式出すと、調理にかかった。
テリルバードの肉にニンニクと醤油で下味をつけ、卵と一緒に揉み込み、薄力粉を塗して油で揚げていく。
ギルドラウンジに香ばしい匂いが充満する。
「あ、あ、何なのこの香り•••」
「香りで気絶しそう•••」
マーニャさんとレキシーさんは鼻をクンクンさせている。
そんな2人を見ながら私は2度揚げをし、遂にみんなの期待を背負った『鳥の唐揚げ』が完成した。
テリルバードだから、訳して『鳥の唐揚げ』でいいよね。
炊き立ての白米と味噌汁も用意し、私はみんなの前に鳥の唐揚げ定食を並べた。
アリサには鳥の唐揚げを少しと、卵粥を用意した。
「それでは、いただきます」
私とアリサ以外のみんなが一斉に鳥の唐揚げに手を伸ばし、素早く口に運ぶ。
カリッと揚げたての良い音が響く。
「ぐっ、はぁ、美味い!!」
「我を忘れそうになってしまう!!」
「口を火傷したことすらご馳走に感じます」
「死ぬまで食べていたい」
みんな火傷と戦いながらも、鳥の唐揚げの美味しさを分かってくれたみたい。
「アリサも食べてみて」
「うん。じゃ、私も。いただきます」
アリサが鳥の唐揚げを口にすると、その場にフォークを落とした。
「し、信じられない。今までの食事はただお腹を膨らませる行為で、これが、本当の食事なんだね」
アリサは涙を流しながらそう言った。
食事で涙するなんて、日本では考えられないけど、私がこっちの世界の住人で初めて鳥の唐揚げを食べたら絶対に泣く自信がある。
何なら、もう2度と食べられないと思っていた鳥の唐揚げを久々に食べた今、既に泣きそうになっている。
幸せだ•••
私は鳥の唐揚げに幸せを噛み締めるのであった。
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