第45話 ワームと、私のピンチ

「ワームって、何なの?」

「詳しくは分かりませんが、魔王国では代々、ワームは世界の理と言われています」

「世界の理?」

「それと、決して近寄ってはならない、とも」


世界の理•••

近寄ってはならない•••


「ワームは、魔王国4カ国の中央に位置し、どの魔王国にも属していません」

「属してないって?」

「どの魔王国も領土として放棄しているのです。

ワームがある場所を、私達は禁断の地と呼び、半径数キロ圏内に決して立ち入ることはありません」

私は背中に寒気を感じた。

禁断の地と呼ばれ、どの魔王国も領土を放棄する。

一体、どんな場所なのか。


「禁断の地に何があるかは分かりません。

ただ、マリー大魔王様でも安全とは行かないかと•••」

フシアナは心配そうに私を見てくる。


フシアナの顔を真剣に見たのは初めてだが、この子はこんなにも幼く、可愛らしい顔をしていたのか。

そう言えば、この子は蜂蜜が大好きだったんだよね。


「心配してくれてありがとう」

私はそう言って、目の前にホットケーキを出す。もちろん、蜂蜜を添えて。


「だ、大魔王様。これは?」

フシアナが今にもとろけそうな顔でホットケーキの匂いを嗅いでいる。


「心配してくれたお礼だよ。ホットケーキって言うの。蜂蜜をかけて食べてみて」

「よろしいのですか?」

フシアナは側近にナイフとフォークを用意してもらうと、一口、口に運ぶ。


「な、なんじゃこれは!!わらわが生きてきて1番のご馳走じゃ!!」

私は美味しそうに食べるフシアナを、妹を見るように優しく見つめた。


「ち、違うのです。今のは素が、いえ、美味しさのあまり語彙がおかしくなったと言いますか•••」

「いいから食べて」

顔を赤くするフシアナに、私は優しく言う。

そして、ホットケーキに真っ直ぐな視線を向けている側近の人にもホットケーキを振る舞う。


「美味しいです!!」

「これが、大魔王様の力なんですね」

「叡智の結晶だわ」


凄く褒めてくれるので、私は調子に乗ってシュークリームも出す。

シュークリームも魔族の口に合ったようで、みんな夢中で頬張っている。


急に始まったアフタヌーンティーが終わると、私は禁断の地に向かうことを告げた。


「どうしても、行かれるのですか?」

「うん」

「分かりました。もう止めません。せめて、鳥車を用意させて下さい」

「鳥車?」

「はい。手頃なコカトリスがおりますので、是非お使い下さい」

話を聞くと、禁断の地は馬車で換算すると50日以上はかかる距離にあるらしい。

魔族領の中央に位置しているのだから、納得の距離である。

私はお言葉に甘えることにした。


魔王城の屋上に移動すると、黄色や青、赤色と鮮やかな羽を持つ10メートル程のコカトリスがいた。


私はコカトリスの顔を撫で、「よろしくね」と言い、背中に乗った。


「無事にお帰り下さい」

「そのつもりだよ」


フシアナや側近の人が心配そうに見送ってくれる中、私はコカトリスを羽ばたかせ、教えてもらった禁断の地を目指した。


コカトリスは鳥車を担うだけあり、ラーラ達ドラゴンと同じ速度で移動する。

直ぐに、巷で「大魔王の天罰」と呼ばれている大穴の位置まで来た。

上空から見下ろすと穴の周りは柵がされていて、多くの魔族が列を作っていた。

立派な観光名所になっているらしい。


その後もいくつかの街の上を通り過ぎ、飛び続けること8時間。

大きな岩、まるでエアーズロックのような場所が見えてきた。

その瞬間、コカトリスが震え、降下を開始する。

コカトリスは、森の中を羽をぶつけながら着陸すると、先ほどより震えが強くなっていた。


疲れたのか

もしくは、何かあるのか


私はコカトリスにヒールをかけると、お礼を言い、戻るように伝えた。

コカトリスは一つ鳴き、元来た空へ羽ばたいて行った。


「さてと、あと数キロでワームだね」

私は気を引き締めると、いつもよりゆっくりと走り出した。


15分程行った所で、開けた場所に出た。

開けたことで、大きな岩まで後少しの位置まで来ていることが分かった。


《マリー。気をつけて》

突然、私の頭の中に声が聞こえてきた。


「へっ?」

《マリー、聞こえる。私よ、シンよ》

「神様?」

《そうよ。その辺りは電磁波が強くなっているから、私の声が届くの。神ポイントは使うけどね》

「神様。この場所、ワームを知ってるの?」

《もちろんよ。ワームは、地球で言うワームホールのこと。この世界のワームホールは私が作ったの》


ワームホール

聞いたことがある


宇宙(宇宙人含む)が好きな私は、それ関係の本や動画サイトをよく見ていた。

確か、ブラックホールとホワイトホールを繋ぐのがワームホール。


ブラックホールはその星を構成していた物質等あらゆるものを呑み込み、ホワイトホールはその逆で呑み込まれた物質等を放出する。

そして、ワームホールはその二つを繋げている時空トンネル。

だった気がする。


《今は時間がないから、詳しくは次会った時に話すわ。

ただ、そこにあるワームホールはまだ生きている。だから、決して奥に入ってはダメよ》

《それと、そこには神の遣いがいる。

その遣いは人神、魔神、悪神、どれにも属さない危険な存在。気をつけて•••》


シン•アントワネットがそこまで話すと、通信は途絶えた。

そして、別の声が聞こえてきた。


「お前は誰だ」

声の方を向くと、開けた場所の中央に先程までいなかった存在が現れていた。

『探知スキル』にも反応していない。


その存在は、人のような形をしているが、中央部分が透明で、体の左側は漆黒の闇。右側は白色で神々しく輝いている。


体の周りを影で縁取られいているため、形は分かる。

ただ、顔の形は分かっても、目や鼻や口は分からず、足や手の形が分かっても、爪等は分からない。


明らかに人間でも魔族でもない。

これが、シンの言っていた神の遣い?


「もう1度問う、お前は誰だ」

「わ、私はマリー•アントワネット」

「何をしにここへ来た」

「わ、ワームの肝を探しに•••」

「レコードのない存在だ」

「れ、レコード??」


体が重い。

普段より数倍の重力がかかっているみたいに。


「ワームホールに行くのだな」

「う、うん」

「ならば試させてもらおう」

「えっ!?」


そこまで話すと、神の遣いは直径5メートル程の球状で、黒く縁取られた透明な物体を私に放ってきた。

かなりのスピードだったが、私は間一髪で躱す。


物体は森に当たると、音もなく直径5メートルの範囲が消え去った。

まるで、何も存在していなかったかのように消失している。


「次はお前の番だ。攻撃をして来るがよい」


接近戦は絶対に駄目だ。

神の遣いに触れた瞬間、私は消滅する。

それが直感的に分かった。


こうなったら、最大級の魔法、『バース•デイ』を凝縮して放つ。


私は右手を前に出し、魔力を集める。

本来バース•デイは100メートルを超える魔法の弾だ。

それを1メートル程に凝縮するため、私は左手を右手に重ね、魔力をコントロールする。


バース•デイ


凄まじい閃光、轟音と共に、一直線に神の遣いに魔力弾が向かって行く。


神の遣いは、両手を前に出すと、漆黒の闇をした左手を少し前に向けた。

すると、バース•デイはそのまま吸収されて行く。

そして、次の瞬間、白色をした右手からバース•デイが私に向かって放たれた。


あ、危ない。

私はバリアと結界スキルを発動させ、バース•デイを上空に跳ね返そうと試みる。


バリアと結界スキルに衝突したバース•デイは凄まじい威力で、私は後ろへ引きずられる。

そして、バリアも結界スキルも目に見える形でヒビ割れを起こし、今にも破れそうだ。


私は渾身の力を込めて、バース•デイを上空に跳ね返す。

まるでバレーボールのレシーブような形で跳ね返した瞬間、バリアと結界スキルが破裂し、その衝撃で私は地面に激しく叩きつけられた。


「次は私の番だ」


私がまだ起き上がれずにいるのをお構いなしに、神の遣いは左手を私に向ける。


私に激しい重力がのし掛かる。

体を起こそうとするが、びくともしない。

あまりの重力に地面は穴を作り、私は苦しさのあまり声を上げようとするが、それすらできない。



そして、私は意識を失った。




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