第43話 魔物大群と、お医者様

なぜ、そんなことを聞いたのかって?

前にメレディスさんを助けた時のことを思い出したからだ。

後で実はお姫様でした、という展開は1回で十分だもん。


「違います。私はただの冒険者。今は•••」

女性は突拍子のない質問に困惑しながらも答えてくれた。


それにして、「今は•••」が気になる。

だが、「今は」魔物討伐が優先だ。


私は彼女に結界スキルを使った。

光が彼女を包み込む。


「結界を張ったから、そこにいて」

「結界?あなたは一体??」

「私はマリー•アントワネット。ちょっと魔物を倒してくるから待ってて」

「えっ!?あの聖女様の??」


私は自己紹介後、次の魔物に向かって走り出していたため、微かにしか聞こえなかったが、聖女と聞こえた気が•••。

気にしても仕方ないので、私は魔物を退治しに行く。


次の反応は100体近い。

ネビルアント(B)の大群のようだ。


私は両手の指全部に魔力を込め、アタミ(極小)を放つ。

10本の光線がネビルアントの頭を貫通する。


異変に気づいたネビルアントが全員で襲ってくるが、風魔法で空中に巻き上げ、アタミ(極小)で止めを刺していく。


全員を倒し終わると、チマチマと魔物を回収する。

自動で回収できないかな、これ。


その後も繰り返し魔物を倒し、残すは最後の200体近い大群の反応のみとなった。


ここまで1,000体近くは倒してるよ。

どれだけいるんだか。


最後の反応に向かうと、そこにいたのはテリルバード(C)だった。

テリルバードはこちらの接近に気づき、空中に飛び出した。

体調1メートル程の鳥が空から攻撃してくるのだから、かなり厄介だ。


私はアタミ(極小)を上空にいるテリルバードに向けて両手から10発づつ放ち、退治していく。

テリルバードは跳び攻撃はないが、上空から勢いをつけて大きな爪で攻撃してくる。

流石に当たればダメージは必須だ。


私はバリアを駆使して、確実に仕留めていく。

大方倒した終わったところで、上空を大きな影が覆った。

一際大きなテリルバードがいた。


判別スキルを使うと、クイーンテリルバード(A)と表示された。

体調は10メートル程ある。


私は直ぐにアタミ(極小)を発動しようとしたが、クイーンテリルバードが大きな翼で風を巻き起こし、自分の羽を飛ばして攻撃してきた。


羽は風の中でも一直線に私目掛けて飛んでくる。

先端がかなり鋭く、攻撃力も強い。

私はバリアではなく、上級風魔法で対抗することにした。


両手を胸元にクロスする様に重ね、魔力を込め、両手を広げて一気に解放する。


エアー•イスキューロン


辺りが激しい暴風で包まれ、クイーンテリルバードが起こした風や羽の攻撃は跳ね返される。

跳ね返された羽はクイーンテリルバードに突き刺さり、そのまま地面に落ちてきた。


起き上がろうとしているクイーンテリルバードの頭にアタミ(極小)を打ち込み、勝負は決まった。


やっぱり、飛ぶ魔物は戦いづらいな


私は呟きながら魔物を回収する。

それにしても、この鳥、食べられるんじゃないだろうか?

羽は白いし、嘴は黄色だし、大きなニワトリに見える。

実際この世界にニワトリはいるけど、卵を産ませるだけで、肉自体は食べる習慣がない。


た、試してみようかな

鶏肉食べたいもん

鶏肉はダイエットする女性の味方


魔物の回収が終わると、私は先ほどの冒険者の女の子の元へ向かった。

女の子は結界の中で大人しく待っていたようだ。


「大丈夫だった?」

「わ、私は大丈夫ですけど、聖女様は大丈夫ですか。すごい風が吹き荒れてましたけど」

「大丈夫だよ。それと、聖女様はやめてよー。マリーって呼んで」

「そ、そんな私なんかが•••」

女の子は下を向いてモジモジしている。


「あなた名前と年齢は?」

「も、申し遅れました。私はアリサ。14歳です」

「同い年だー。だから、ため口でお願いね」

「ためぐち?」

「敬語はいらないってこと。できないなら、寧ろ、命令しちゃうもん」

「わ、分かりました。もう直ぐ終わりの人生、気ままに行かせてもらうわ」


そう言えば、会った時も「今は•••」って、それにもう直ぐ終わりって、一体何があったのか。


「今は冒険者とか、もう直ぐ終わりの人生って、どういうことなの?」

アリサはしばらく考え込んでから、話し始めた。


「私はスウィール王国の冒険者でランクはD。ただ、実力的に限界を感じていてそろそろ潮時かなって」

スウィール王国って、隣接してるとはいえ、そんなとこまで聖女様の話が伝わってるの?


「別に冒険者に未練はないので、最後に稼いでお店でもやろうかなと考えていたんですが、どうやら私は病気らしくて•••」


病気?

私は詳しく話を聞いた。

アリサは最後に稼ごうと魔物と戦っている時に、激しい眩暈や頭痛、嘔吐に襲われ、今日はついに吐血してしまったということだった。


傷や呪いなら私にも治せるけど、病気となると•••


私はステータス画面を開いてスキルを確認する。

将来自分には絶対なれない憧れの職業ということで選んだスキルがあったはずだ。


『お医者スキル』


あった。

私はさっそく『お医者スキル』を発動し、アリサの両手を握って診察を始めた。


「風邪ですね。お薬出しておきます」

それが言いたいがために選んだこのスキル。異世界で役立つとは。


診察を始めると、色々な項目が私の頭の中を流れていく。

•体温:平常

•心拍:平常

•脈拍:平常

•血流:平常


•••••••


そしてある項目で異常が出た。


•胃腸:異常

《原因:ウィルス性胃腸炎》

《処置:抗ワームウィルス薬接種》


「ウィルス性胃腸炎•••??」

「病気が分かったんですね。さすが聖女様。ううん。マリー」

「その様子だと知ってたの?」

「確証はなかったけど、冒険者の間ではたまに感染者が出る不治の病だから」

「そうなの??」

「安心して。魔物から人に感染するだけで、人からは感染しないから」


私はアリサの体を無意識に抱きしめる。


「そんなこと気にしてないよ」

「ま、マリー」


アリサは声を上げて泣き出した。

一人で苦しかったんだと思う。

もちろん人によって苦しみは違うんだけど、私も病気で苦しんだから気持ちは分かるつもりだ。


アリサが落ち着きを取り戻すと、私は話の続きをした。


「さっき私が、そうなの?って言ったのは、不治の病ってところに反応したの」

「この病気で治った人は一人もいないから」

「いや、薬があれば治るみたいだよ」

「薬??」


私はニヤリと笑うと、更に憧れから選んだあのスキルを発動する。


『製薬スキル』


「材料は、緑黄草、赤色草、光苔、ワームの肝って、ところかな」

「わ、ワームの肝•••」

「ワームの肝もこの世界で手に入るみたいだけど?」

「う、うん。手には入る。ただ、魔族領でしか手に入らないから•••」


魔族領。

そう言えば、魔神ラソ•ラキティスに魔王国ヴィニシウスの様子を見に行ってと頼まれていたし、良い機会だね。


「それはちょうど良いね!!」

「えっ?マリー、魔族領だよ。マリーが死んじゃうよ」

アリサは心配そうに私の手を掴み、訴えかけてくる。


「最近だって、魔族領にあるあの大きな魔門が一瞬で魔王に破壊されたって•••」


おっと

私は魔王になっていると?

聖女とも呼ばれているのに?


私が破壊したって、言っていいのかな•••


必死に私を止めるアリサに、私はどうやって説得しようか、悩むのであった。



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