第42話 マザーと再会と、ある女の子

レキシーさんが回復するのを待って、ラミリアのギルドラウンジに向かった。

アイリスさんとアイラ、ラーラ、サーラ、ナーラはガーネットに残り、お店の開店準備をすることになっている。

ラーラ達は接客や会計方法まで熟知しているから従業員の指導まで任せてきた。


ギルドラウンジに着くと、いつものようにリルさんとララさんが出迎えてくれる。

マーニャさんは通常の冒険者ギルドにいるようで、呼んでもらうことにした。


しかし、この2人はいつもいるけど休みとかあるのかな?

心配になった私は、2人にシュークリームをプレゼントした。


「な、何ですか?この奇跡の食べ物は?」

「体がとろけそうです•••」

2人共喜んでくれたみたい。


しばらく待っていると、マーニャさんが来てくれた。


「マリー、お待たせー。今日はどうしたの?」

「マーニャ、あなたびっくりするわよ」

レキシーさんが得意気に話す。


「こ、怖いわね」

「とにかく、地下に行きましょう」

「地下ってことは、また解体なのね?」

「そうなるわね」

「ワイバーン?」

レキシーさんはマーニャさんの問い掛けに答えず、悪戯に笑みを浮かべた。


「何体出そうかな?」

地下に着くと、私は今後を考える。

どうせなら、まとめてお願いした方がいいかな?


「マリー、1体づつしか無理よ」

レキシーさんが首を振りながら言ってくる。


確かに青龍は大きいし、この地下室が広くてもそんなに出せないか?


「じゃ、とりあえず1体出しますね」

私はそう言うと、アイテム収納から青龍1体を出した。

首と胴体部分が大きな音を立てて床に落ちてくる。


「ちょっ、ちょっと、これ!?」

マーニャさんはその場に尻餅をつく。


ドラゴンになったラーラ達に乗せてもらったり、何度か戦ってるいるから忘れていたけど、改めて目の前で見るとかなり大きい。

30メートル以上はありそうだ。


「だから、驚くっていったでしょ?」

「青龍でしょ?これ?」

「そう」

「青龍の解体なんて、初めてよ」

「私も」

「えっ!?」

私は素っ頓狂な声を上げる。

相場も決まっているようだし、解体は日常的に行われていると思っていた。


「大丈夫よ。初めてでも、解体方法は大体ワイバーンと同じと言われてるから」

「この世界で青龍の解体は珍しいんですか?」

「珍しいも何も、ここ50年で青龍の素材が市場に出回ったのなんて数えるほどよ」

「その素材も、青龍が勝手に死んでいたのを解体しただけだから、こんな状態の良いものは世界初でしょうね」

マーニャさんとレキシーさんは、目の前の青龍を見上げながら言う。


ということは、当時の相場(今より安いはず)で、状態が悪くて2億G•••。

一体、今の価値だったらどうなってしまうのか•••。


「と、とりあえず、冒険者ギルドから解体歴の長い人を連れてきて作業を始めるわ」

「あと、商業ギルドのギルドマスターにも解体中から立ち会ってもらった方がいいんじゃないかしら?」

「そ、そうね。これだけの素材だから、王宮にも一報を入れた方がいいわよね?」


2人はまるで国家機密を扱うよな真剣な表情で話している。


「マリー、少し時間がかかりそうだから、結果は後日でもいいかしら?」

「はい、大丈夫です」


2人はまた相談に集中し始めた。

ちょっと時間出来たし、マザーの所に行こうかな。

私は相談している2人に声を掛け、そのまま『転移スキル』でララさんの故郷の村、マザーが暮らしている場所に転移した。


瞬時に村の前に着くと、数人の村人が私に気付き、中まで案内してくれた。


村の中央にある木や枝で作られた家まで来ると、中から村長のラドランさんの不安気な声が聞こえて来た。


「マザー、大丈夫だからな。わしらが付いておるからな」

「きゅう、きゅう」

「こ、こんにちは」

私は勇気を出して中に入った。


「おおー、マリー様!!」

「マザーは元気ですか?」

「はい、体調には問題がありません。ほらマザー。お前の母親?お姉ちゃん?だぞ」

村長は曖昧な説明をすると、マザーは私の方を向いた。

そして直ぐに私に駆け寄り、抱きついて来た。


「マザー、覚えてるの??」

「きゅん、きゅん」

マザーが生まれてから2週間程だが、体は確実に大きくなり、色は薄い緑色、顔は鼻と耳が特徴的な美人さんになっていた。


「マザー、可愛くなったね」

「きゅん」

「この子は私達と暮らしているからか、先代のトロールより人間の言葉を理解し、もう直ぐ話しもできるようになると思っています」

「凄いね、マザー」

私はマザーの頭を撫でる。


「久々にこの子の笑顔を見ました」

「どういうことですか?さっきも何か話していたみたいですけど?」

「実は、トロールはこの森の精霊で、森はもちろん、周辺の魔物を牽制してくれていたのですが•••」

何か、話が見えてきた気がする。


「トロールがいなくなり、マザーもまだ子供。魔物達が暴れ出しているのです」

「この村はラミリア王国に属しているんですよね?王国に討伐の依頼等は?」

「はい。ラミリア王国に昨日依頼をしたのですが、何分、馬車でも日数がかかる距離ですし•••」

そうだよね、私みたいに転移が使えるわけでも、ラーラ達のように飛べる訳でもない。


「隣接国のスウィールも動いているようですが、魔物が強く、情勢は良くないようです」

この村はラミリアの奥地で、アントワネット王国、スウィール王国に隣接しているようだ。


私は探知スキルを使う。

数キロ圏内だけでも魔物の反応が数百確認できた。

このままでは村が襲われるのも時間の問題。

なら、やるしかないよね。


「マザー、ちょっとお姉ちゃん行ってくるね」

「きゅ?」

「マリー様、まさか?」

「はい。この村やマザーのことが心配なので」

「しかし、マリー様に危険が•••」

「大丈夫です」

青龍とかワイバーン、倒してますから、とは続けて言わなかったが、私の真剣な目を見たラドランさんは「ご武運を」とだけ言った。


村の外に出ると、再度魔物の位置を確認。

一番高くてBランクの魔物がいる。


「よし、やりますか!!」

私は一気に森の中へ走り出し、まず目の前に現れたデビルベアの群へ突っ込む。

デビルベアは長い爪で私を攻撃してくるが、全て躱す。

私は相変わらずのパンチとキックで攻撃する。

威力は抜群で次々とデビルベアが吹き飛んでいく。


血の匂いに釣られて、ビックウルフの群れがやってきた。

ビックウルフはCランクの魔物。

私はお構いなしに殴っていく。動きは素早いが、セーラー服を靡かせた私の方が何倍も早い。


ビックウルフを倒して森を進むと、魔物5体の反応と、人の反応があった。

どうしてこんな森に人の反応が?


私はスピードを上げてそこまで向かう。

目にした光景は、スネークキラー(Bランク)が私と同じくらいの年齢の女の子を攻撃するところだった。


私はスネークキラーに向かって、グッ•バイ(極小)を放つ。

光の輪っかがスネークキラーの首を切断した。

残りの4体も同じようにグッ•バイ(極小)で倒した。


間一髪、間に合ったようだ。


私は木を背に腰を抜かしている女の子に話しかけた。


「大丈夫ですか?」

「は、はい。ありがとうございました」

女の子は立ちながらお礼を言ってきた。


私はどうしても尋ねなければならないことを聞いた。


「ところであなたは、王国の姫様や、貴族様じゃないよね??」

「ふへっ??」


女性は変な声を出して首を傾げた。

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