第41話 新たな料理人と、お金は1番大事

翌日、朝一でアントワネット国に転移し、お店の準備状況を確認した。

料理長のドミニクさんを中心に、準備を進めているところだった。

ドミニクさんに話を聞いたが、食材や運営面等、問題はなさそうだ。


帰り際にフロア担当の子達を見ると、みんな真新しいセーラー服を着ていた。

薄い紺色のYシャツ、黒色に白のチェック柄のスカート。

これがルミナーラさんからの差し入れのセーラー服。

なかなかどうしてかわいい。


私はセーラー服姿のみんなに挨拶して、ガーネットの街に転移した。


『携帯ハウス』に戻ると、アイリスさんとアイラが私を待ち構えていた。


「マリーちゃん、お店に行くわよ」

「えっ?今からですか?」

「そうよ」

「昨日の今日だし、まだ休んでいた方がいいんじゃ??」

「大丈夫。1日も早くお店を開きたいし、それに料理を教えて欲しい料理人も待ってるのよ」

アイリスさんはそこまで言うと、私の右腕を掴んで歩き出した。

左腕はアイラがしっかりと掴んでいる。


これから朝ごはんを食べて、マザーのところに行こうと思ってたんだけどな•••。


歩いて冒険者ギルドまで来ると、そこから1分程でお店に着いた。

人通りもあり、お店自体も改築後でとても綺麗だった。

そして、驚いたことに私は何も話していなかったのに、テイクアウトとイートインのコーナーが設けられている。


「どうして持ち帰り用のカウンターまで作ってくれたんですか?」

「だって、シュークリームは歩きながらでも食べられるし、専用のカウンターがあれば私も直ぐに買いにいけるでしょ?」

アイリスさんはカウンターでシュークリームを受け取っている仕草を真似する。


さすが

根っからの食いしん坊だね


私達が話していると、お店の中からラーミアさんが出てきた。


「どうしてラーミアさんが??」

「ここで働かせてもらうことになったのよ」

ラーミアさんが笑顔で言ってくる。


「それじゃ、料理人ってラーミアさんだったんだ」

「そう言うこと」

アイリスさんが片目を閉じながら言った。


ラーミアさんの料理は、このまずい料理で溢れている世界でもとても美味しい。

確かに、料理人に相応しいかもしれない。

けど、ラーミアさんには養鶏場の仕事があった筈だ。


「ラーミアさん、養鶏場の方は?」

「あっちはミアがいるから大丈夫。今朝も一生懸命働いてくれてるのよ」

「ミアが?それは凄い」

この前も確かに養鶏場でお手伝いをしていた。

それにしても10歳で働くなんて、本当に偉いな。


「後で出来たてのシュークリーム届けましょう」

「ええ。きっと喜ぶわ」


私は『地球物品創生スキル』で電気コンロを出し、お店に設置する。

使い方を教え、シュークリームを1から一緒に作る。

ラーミアさんは元々料理上手だから、飲み込みも早く、一度で完璧に覚えてしまった。


アイリスさんとアイラも近くでシュークリームが出来上がるまで見ていた。

そして、出来上がった瞬間、貴族らしからぬ大きな口を開けてシュークリームを食べている。


「やっぱり、これですわ•••」

「朝ご飯を抜いてきてよかったです•••」

2人は口に生クリームを付けて、喜んでいる。


「こんな料理方法があったなんて、マリーちゃんは天才ね」

「いやー、まぁー」

ラーミアさんの言葉に、別の世界の人が考えた料理です、とも言えず吃ってしまった。


シュークリームの甘い匂いに釣られたのか、ミアとレキシーさんがお店までやって来た。


「やっぱり食べてるーー」

ミアが開口一番、物申す。


「仕事は終わったの?」

「全部終わらせてきたもん」

ラーミアさんの確認に、胸を張るミア。

私はミアにシュークリームを渡し、頭を撫でてあげた。

ミアは嬉しそうに笑い、シュークリームを頬張った。


「この甘い匂い、冒険者ギルドまで香ってきて仕事にならないわ」

「レキシーさんも1つ、試食どうですか?」

「もちろんいただくわ」


私はレキシーさんにシュークリームを渡した。

食べ方が分からないようだったが、アイリスさんを見て理解したのか、大きな口を開けて食べ始めた。


「お、美味しいーー」

「いつからなの?このお店はいつからなの!?」

レキシーさんはみんなと同じように生クリームを口に付けながら話しかけてくる。


生クリームを口に付けていても、元が美人だから余計可愛く見える。


まったくずるい


「お店のオープンは数日後よ。アントワネット国での経験があるんだもの、マリーちゃんも大丈夫でしょ?」

「は、はい。多分•••」


アイリスさんの言う通り、接客や会計方法は「マリーラ•パスタ」「マリーラ•パンケーキ」での経験があるから直ぐになんとかなるだろう。


後は街の人に、青龍騒ぎの復興中であることを忘れて、心から料理を楽しんでもらうだけだ。


そうなると

やっぱり給付金かな


お金は偽善なんて言う人もいるけど、地球育ちの私には、お金より大事なものはないと思っている。

もちろん、お金と同じくらい家族や友人は大事だ。

でも、悲しいことに、お金がなければまともな医療も受けられず、ご飯が食べれないのも事実。


日本にいた時、私は大きな病気をしたことがあった。

その時思ったのは、命はお金で買うということ。


「マリー、どうしたの?」

私が暗い顔をしていたらしく、みんなが心配して見ていた。


「すいません。何でもありません」

「なら、いいけど•••」

「そうだ。レキシーさんとアイリスさんにちょっと話があるんですけど」



ラーミアさんとミアをお店に残し、私達は『携帯ハウス』に移動した。

携帯ハウスでお留守番していたラーラ達にお土産のシュークリームを渡すと喜んで食べ出した。


「ちょっと、マリー。何なのよ、ここは?」

「レキシーさん、初めてでしたっけ?」

「外から見たことはあるけど、中に入ったのは初めてよ」

「なら、裸の付き合いと、いきますか」

「な、何?マリー?何するの?」

私は脱衣所で自分の服を脱ぎ、レキシーさんの服も脱がせ(無理矢理じゃないよ)、シャワー室に移動した。


髪を洗ってあげると、先程まで少し抵抗していたのが嘘のように全てを任せてくる。

湯浴み中心のこの世界で、シャンプーを使って洗われるのは気持ちいいよね。


髪と体を洗い終えたところで、レキシーさんを温泉に浸からせる。


「うっ、ふぁう。はぁぁぁー」


どうしてか、この世界の人が温泉に浸かると色っぽい声が出る。

因みに、アイリスさんとアイラ、ラーラ達は朝入ったらしく、温泉に足だけ入れている。


「マリー。私、ここに住む」

「レキシーさん、美人なのに彼氏とかいないんですか?」

「い、いないわよ」

そもそも男性が少ないから、彼氏を作るのはやっぱり大変なのかな。


「マリーは?彼氏とか、好きな人いないの?」

アイリスさんとアイラ、ラーラ、ナーラ、サーラが一斉に私を見てくる。


「い、いないですけど•••」

レキシーさん以外、みんな安心したように頷いている。


「それで、話って何なの?私は恋バナでも全然いいけど」


恋バナ

この単語は全世界、全異世界、共通??


「実は、昨日の一件で青龍を10体討伐したので、とりあえず1〜2体、ガーネットの街に寄付したいな、って」

「う、嘘でしょ??青龍って言ったら、1体最低2億Gにはなるわよ!!」

「マリーちゃん。どうしてそこまで??」

レキシーさんとアイリスさんが慌てて問いかけてくる。


「なんでかな?この街やみんなの事が大好きだから?」


私の言葉に、アイリスさんとアイラは頬を赤くして瞳を潤ませ、ラーラ、ナーラ、サーラは単純に頬を赤くし、レキシーさんは先程までと違って乙女の顔をしている。


「あれ、レキシーさん?ちょっと、レキシーさん」


レキシーさんの体がどんどんお湯の中に消えていく。

どうやらのぼせたらしい。


「マリーちゃんがあんなこと言うから」


へっ

みんながレキシーさんを引き上げる中、1人首を傾げる私であった。


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