第40話 天罰と、平穏
人間達は地べたを這いつくばりながら、後退りをしている。
皆、絶望の表情を浮かべ、目からは涙が溢れている。
中には漏らしている者もいた。
私はゆっくり歩いて男達に近づく。
「ふ、ふぁやく、人質を•••」
首謀者の男はまともに話せない。
私は1人の男を凍えるような冷たい目で睨みつけた。
次の瞬間、両手が吹き飛び、顔が破裂した。
【お前は私の家族に剣を向けたんだ、死ぬのは当たり前よね】
【次は誰かしら?あっ、みんな家族がいるのね?家族もみんな、殺さなきゃ】
男達は全員その場に土下座を始める。
恐怖で体は震え、声は出せない。
【今直ぐ、ここから立ち去るなら見逃してあげるわよ】
男達は武器を捨てて逃げようとするが、腰が抜けているせいか立っては転び、這いつくばっては立ち上がり、また転ぶを繰り返している。
【ただし、次に私の目の前に現れたら、会話もなく、殺すからね。
みんなの名前、ちゃんと覚えたから】
男達は更に震え上がり、この場を立ち去ろうと懸命にもがく。
その中に首謀者の男の姿もあった。
私はその男を激しく睨むと、男の両足が破裂した。
「ぐぅ、ぐぅあ、い、痛い」
【お前を逃す訳ないだろう】
【汚い足で私の家族を踏みつけたんだから、足がなくなってもしょうがないわよね】
「あ、ぐぅ、た、ず、けて」
【嫌だ】
【ほう。お前の家族はファヴェルにいるんだな。妻はフィーナか】
「や、やめ、」
私は男に向かってヒールをかけた。
【痛みは消えたでしょ?出血も止まったでしょ?家族に会うまでは死ねないもんね】
「や、止めてくれ。俺が悪かった」
私は男を無視してアイリスさんとアイラの拘束を解いた。
「マリーちゃん」
「マリーお姉様」
2人は私に抱きついて泣いた。
泣くことを止められず、子供のように大きな声で泣いている。
私は優しく2人を抱きしめる。
【今の私、怖くないか?】
「怖くなんてないわ。命を助けてくれたマリーちゃんを怖がったりしない」
「マリーお姉様は、私を助けてくれた掛け替えのないお姉様です」
【そうか。今からこいつに責任を取らせに行くが、一緒にくるか?】
「はい」
2人同時に返事をした。
私はアイテム収納に青龍10体を仕舞うと、首謀者の男を牢屋収納に閉じ込める。
ファヴェルは歩いても行ける距離にあったが、サーラにドラゴン化してもらい移動した。
直ぐに街の上空に着くと、突然現れたドラゴンに住民達が逃げ惑っていた。
街の開けた場所に着陸すると、サーラには人型に戻ってもらった。
【この街にフィーナはいるか?】
私は住民に向けて語りかけた。
「私が領主のフィーナです」
人混みの中から20代位の女性が前に出てくる。
私は牢屋収納から男を出した。
「あ、あなた」
【貴族だから想像はしていたが、領主の夫がこんなことするとはな】
フィーナは足の無い夫を見て、呆然としている。
【この男は、貴族位の妬みから、ここにいるガーネットの街の領主と娘を攫い、殺そうとした】
「そ、そんな•••」
「う、嘘だ。信じてくれフィーナ」
【こいつ専属の騎士が十数人いると思うが、そいつらが幾らでも証言するだろう】
「その必要はありません」
フィーナは私達の前まで歩み寄ると、その場に跪いた。
「お、お前、何を」
「最近のあなたは取り憑かれたようにおかしかったわ。私が何を言っても聞かなかったわね。それに•••」
フィーナはアイリスさんとアイラの顔を見る。
「それに、2人の女性がこんなにも恐怖に包まれた表情をしていれば、どちらが真実を言っているか分かるわ」
フィーナは深々と頭を下げ、謝罪を口にする。
「本当に申し訳ありませんでした」
アイリスさんがフィーナの肩に手を当て、体を起こす。
「あなたの所為ではありません。自分を責めないで下さい」
「ありがとうございます。この償いは、しっかりと本人に取らせます」
【死罪で頼むわね】
私はフィーナを鋭く見つめる。
「この王国に則れば、死罪が妥当だと考えます」
フィーナは真っ直ぐ私を見て言った。
【この世界は、本当に女が強いな。
お前の態度次第で屋敷を吹き飛ばしてやろうと思ったが、次の機会にすることにしよう】
私はそう言うと、アイリスさん、アイラ、ラーラ、サーラ、ナーラを抱き寄せて『転移スキル』を発動した。
瞬時にガーネットの冒険者ギルドに移動した。
それと同時に、【大魔王の威圧】が終了した。
街の景色を見たアイリスさんとアイラは、その場に座り込んだ。
恐怖と闘い続け、一気に力が抜けたんだと思う。
そこにレキシーさんが駆け寄ってきて2人を抱きしめた。
2人が落ち着いた後、屋敷に戻って執事や使用人達に無事を報告した。
直ぐに休めばいいものの、ラミリアの王宮、つまりメイズ国王とメレディスさん宛に報告書を書き、伝鳥を飛ばしていた。
私は屋敷の隣に『携帯ハウス』を出し、ラーラ達と温泉に浸かった。
アイリスさんとアイラも誘ったから後で来るはずだ。
温泉に浸かっていると、私の指輪が光った。
「はい、マリーです」
「マリー様ですか。一体どちらにいらっしゃるんですか?」
ペアリングの相手はルミナーラさんだった。
お店を出すことになってから、ルルミーラさん、ルミナーラさんにも指輪を渡しておいたのだ。
また、事件があっても困るしね。
「今はガーネットにいます」
「ガーネット??何かあったんですか!?」
ルミナーラさんに先程まで起こっていたことを報告した。
ルミナーラさんは酷く心配したが、アイリスさんやアイラが無事と知ると安心していた。
因みに、ルミナーラさんの要件は、公務を終わらせてお店に向かったら既に営業が終了していたこと、開店祝いにお店の制服(セーラー服)を用意したこと、であった。
「びっくりしました。お店が閉まっていたものですから」
「すいません。直ぐに完売してしまって」
「ですが、お店も上手くいき、みなさんが無事であることが確認できて安心しましたわ」
ペアリングの向こうで、心から安心したような声が聞こえてくる。
やっぱり、家族はいいな。
こっちの世界に来て、家族と思える人がどんどん増えていく。
私はルミナーラさんにお礼を言って、ペアリングを終了した。
明日は、マザーに会いに行こうかな。
そう黄昏ていた時、アイリスさんとアイラが裸で温泉に入ってきた。
「マリーちゃん」
「マリーお姉様」
2人は勢いよく温泉に飛び込み、私に抱きついてくる。
私は女の子だけど、ここまで色々あたるとどうしていいやら。
アイリスさんはラーラ達に負けないくらいスタイルが良い。
その血を持つアイラは、いずれ私を追い抜いていくんだろうな。
私は特定の部位を見比べて、そう思うのであった。
お風呂から上がった後は、食事にしようと思っていたんだけど、アイリスさんとアイラは畳の上でそのまま寝てしまった。
恐怖と緊張
極度の疲れ
安心して寝てしまうのは当然だよね。
2人はとても安らかな表情で寝息を立てている。
私は無意識に2人の頭を撫でた。
この平穏を守らなきゃね。
ふと、2人の手元に『SSKⅢ』があるのを見つけた。
疲れていても、乙女だね。
私は静かに笑いながら、2人を寝室まで運ぶのだった。
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