第39話 さようならと、グッバイ


ドラゴン化したサーラに3人が乗り、全力で追いかけるが差が縮まらない。

相手は本当にドラゴンかもしれない。

だとすると、狙いは私?


込み上げる怒りを抑えながら進んでいると、相手がある地点で止まった。


『MAPスキル』でその地点を確認すると、ラミリア王国内、ファヴェルの街近くの草原地帯であることが分かった。


「ファヴェル近くの草原に止まったよ」

「私達の尾行に気づいたんでしょうね」

「多分ね。相当自信があるんじゃないかな。待ち伏せじゃなく、開けた場所で私達を待ってるんだから」

「相手は、追ってるのがマリー様や我らだと知っていると思われますか?」

「うん。知ってると思う」

私がラーラに答えると、みんなに緊張が走った。


目的地上空まで来ると、レキシーさんが言っていた通り、女10人、兵士達が十数人、兵士達の中央に座っている男が1人いた。

兵士達の中央で座っている男が首謀者か分からないが、どこから持ってきたか分からない椅子に呑気に座っている。

その前に手足を縛られ、口元に何かを巻かれたアイリスさんとアイラが寝そべった状態でいる。

その男は、アイリスさんとアイラを自分の足置きにしていた。


私の体に大量の魔力が蓄積されて行く。

怒りで今にもその魔力を一気に放出してしまいそうだ。


「あの女10人は、青龍です」

「間違いないの?」

「はい。気配でも分かりますが、人型のあの姿も見たことがあります」

「また青龍•••」

私は両方の拳を強く握ると、サーラに地上に降りるように言った。


地上に降りるとサーラは人型になった。

サーラのドラゴン姿を見ても、椅子に座っている男に動揺はなかった。

青龍が10体も近くにいれば、当たり前か。


「お早い起こしだったな。カサノヴァにいるって聞いてたんだが•••。お陰で、予定が狂っちまった」

椅子に座っている男が言った。


「そこにいる2人が、私の家族だと知って、こんなことしてるんだよね?」

「家族•••。このインチキな糞女が?そりゃお前とお似合いだぜ」

男がアイリスさんの顔を踏みつける。


私は男に向かって静かに歩き出す。


「止まれバカ。おい」

男は近くにいた兵士に指示すると、兵士はアイリスさんを立たせ、首元に剣を持ってきた。


「動いたらこいつが死ぬぞ」

「それで、人質のつもり?」

「強がり言うな、ガキが」

「狙いは私だよね?」

「誰がお前みたいなガキを狙うか。俺の狙いは鼻からこいつだ!!」

男は立ち上がり、アイリスさんの顔に自分の顔を近づける。


アイリスさんは声を出そうとするが、口元に布のようなものを巻かれ話せないでいる。


「インチキ女が。何でお前が私より貴族位が上なんだ!!許さんからな!!」

「そう言うことなの。情けない男」

「なんだと!!貴様も貴様の家族もみんな殺してやる!!」

私の中で何かが振り切れようとしていた。


「ちょっと、勝手に仕切んないでくれる」

人型の青龍の1人が話に入ってくる。


「あいつは私の獲物だ。調子に乗るなよ」

「あ、ああ、分かってる」

どうやら青龍とは仲間という訳ではないらしい。大方、利害が一致したから一時的に手を組んでるんだろうね。


「貴様がマリーだな。我が同胞を殺したのは貴様か!?」

「あの気品も誇りもなかった青龍なら、私が殺したよ」

「き、貴様!!許さんぞ!!貴様の家族と赤龍もろとも殺してやる!!」

「貴様ら下等な人族の言葉だと、さようなら、だな」

後ろにいた青龍がそう言うと、10人全員が高らかに笑い出した。



私は、両親に「さようなら」を言えずに死んだ。

今日死ぬかもしれないからと、あらかじめさようならを言ったりしない。


明日も明後日も普通にやってくると思っていたから。


ある日、突然死ぬこと

ある日、突然別れが訪れること

避けられない時もあるかもしれない

けど、そんなこと決して許さない


この世界の家族は、私が守る



ゾワッ



【大魔王の威圧】が発動した。



辺りを地響きが襲い、台風の時のような暴風が巻き起こる。


「な、なんだこれは•••」

「おい、竜の山脈の青龍は、あのガキの指示で赤龍がやったんだよな!?」

青龍達が慌て出す。


人間どもは、全身震え、恐怖に満ちた目でこちらを見ている。


私は『DNAスキル』を発動する。

『DNAスキル』は【大魔王の威圧】発動時のみ使用でき、相手の血縁関係等を把握できる。


【私は決めたぞ。この世界にいる青龍を全て殺すことにした。お前達にはトロールの責任もあるしな】

「き、貴様如きに青龍は屈するか!!」

【ほう。お前の親はシシと言うのか。ちょうどここから見える山に住んでいるのだな】

「な、なぜ分かる!!」

【なんじゃ、ここにいる青龍は皆、その山の出身か】

「く、くそ、殺してやる!!」

1人の青龍がドラゴンに変化すると、残りの9人もドラゴンになった。


「さー、家族もろとも殺してやる!!」

「さすがに青龍10体相手に、赤龍3体とガキじゃ相手にもならんだろ!!」

「おかしい、赤龍がドラゴンにならない」


ラーラ、ナーラ、サーラは私の後ろで静かに待機している。

こうなった私に、勝てる者等いないことを分かっているからだ。


【なぁ、愚かな青龍よ。魔王国ヴィニシウスの魔門がどうして消滅したのか知ってるかしら?】

「恐怖のあまり、突然世間話か?あんなのはただの天災だ」

【違うな•••】


私はそう言うと、右手を前に出し、魔力を込め始めた。

辺りが一層激しく揺れ、人間達は地べたに這いつくばっている。


【お前達も、家族と、さようなら、できなかったな】


バース•デイ


私が放った直径100メートルを超える魔法の弾が、激しい轟音と共に青龍が住む山に放たれた。


山の頂を目指して放たれたバース•デイであったが、その大きさから地面を削りながら進む。


「ば、バカな」

「やめろーー!!」

青龍は叫ぶが、バース•デイは遠く離れた山に着弾した。


同時に大爆発が起き、その衝撃がここまで伝わってくる。

大爆発はまるで、日の出を見ているかのような光景だった。


「ま、まさか本当にお前が竜の山脈の青龍をやったやつだったのか•••」

「く、くそ!!よくも家族を!!」

「上等だよ、殺してやる!!」

10体の青龍が一斉に私に飛びかかってくる。


私は1体が繰り出してきたパンチを片手で止め、顔面にパンチを返す。

数体を巻き込んで吹っ飛ぶ青龍。

それを見た別の青龍が炎を吐き出すが、私は風魔法を繰り出し相殺する。


「な、なんだこいつはーー!!」

青龍達は発狂した。


【ねぇ、知ってるかしら?】


私は右の人差し指で空中に円を描きながら言う。

空中に描かれた円は光を放ち始め、私はそれを上空に上げる。


【あたたちドラゴンって、高く売れるのよ】


円を描いては上空に上げ、今空には10個の光の輪っかが浮いている。


「戯言を!!やるぞー!!」

青龍達は再度、私に襲い掛かる。


私は人差し指を下に向けた。

その瞬間、空中にあった光の輪っかが青龍の首に次々と巻き付く。


「ご、ごわ、な、なんだ•••」

青龍は首を締め上げられ、話すこともままならない。

手で引きちぎろうとしているが、光の輪っかはびくともしない。


【さぁー、お別れの時間だ】

【お前達が言えなかった分、私が別れの挨拶を言ってやろうではないか】


私は右手を上に掲げ、掌を広げる。


「や、やめ、、」


私は右手の掌を閉じた。



グッ•バイ



光の輪っかが急激に締まりだし、一気に青龍の首を刎ねた。

10体の青龍達の首が大きな音を立てて地面に落ちる。


その首を腰を抜かして見ている人間を、私は睨みつけた。


【次は、お前達だ】



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