第37話 準備完了と、オープン

アントワネットに戻った私は直ぐにラーラ達の元に向かった。

ラーラ、ナーラ、サーラは森から木を運び終え、枝や木の先端を切り落とし、丸太に成形しているところだった。


しかし、人型でも元はドラゴン、大木を片手で持ち上げたり、自分達の手を剣にして木をお豆腐のようにスルッと切っていたり、中々すごい光景だ。


私が作業を見ていると、それに気づいた3人が近寄ってくる。


「マリー様、お戻りになられたのですね?」

「たった今ね」

「それでマリー様。工事業者はどうなりましたか?」

「それがさ•••」


私は建設は自分達でやることになったこと、ガーネットの街でシュークリーム屋さんをやることになったことを説明した。


「おおー、シュークリーム屋さんとは」

「これでいつでも食べれますね」

「早くアントワネット国での工事を終わらせなくてはいけませんね」

3人は建設を自分達でやることには何も触れず、シュークリーム屋さんに夢中のようだ。


「また手伝ってもらうことになっちゃうけど、お店、作っちゃおー!!」

「はい!!」

「何なりと」

「お任せ下さい」


私は直ぐに工事に取り掛かると、まずは崩壊している建物を魔法で消滅させた。

これで土地は真っ新になり、基礎工事を進めて行く。


『建築スキル』のお陰もあるけれど、何より魔法を使えたり、ラーラ達の力で重機がいらないため、作業がすごい速さで進んでいく。


そして、その日の夕方には1店舗目を作り終え、次の日には2店舗目とモウモウの飼育小屋まで完成してしまった。


ドラゴンの力はすごいね

けど、ドラゴンと一緒に作業しても遅れを取らない私のパワーって•••


私は仕上げとして、『地球物品創生スキル』で電気コンロを6つ出した。

1つ300,000G。


安くはないけど、マイホーム用のシステムキッチンに比べたらかわいいものだ。

この世界は薪を燃やして火を使うのだが、安全面を考えて電気コンロにしたかった。


2店舗に3つづつ取り付け、鍋やフライパンや食器等も用意して完成となった。


「できたねー」

私が1店舗目のパスタ屋さんを見上げながら言うと、ラーラから物言いが入った。


「マリー様。肝心なものがまだです」

「???」

「お店の名前です」


おぉー

すっかりと言うか

全然頭になかったよ


「名前、何がいいかな?」

「やはり、マリー様のお名前は入った方が良いかと」

「マリーのパスタ屋さん、などでしょうか」

「マリー、だけでもありかもしれません」

「名前を入れるなら、ラーラ、ナーラ、サーラの名前も入れたいな」

私は3人の提案に更に追加して言う。


「滅相もありません」

「けど、みんなで作ったお店だしさ。マリーと3人の最後のラを合わせて、マリーラ、なんてどう?」

「マリーラ•••」

「マリー様との結合•••」

「生涯の宝とします」

「お、大袈裟だよー」

3人は思い思いに名前を噛み締めている。


何はともあれ、お店の名前は決まった。


▪️マリーラ•パスタ

▪️マリーラ•パンケーキ


少し捻りがないけど、よしとしよう。


翌日、顔合わせをした時と同じように王宮料理人であった5人に料理を教えつつ、お店のフロアを担当する従業員採用に取り掛かる。


と言っても、商業ギルドの機能が止まっているので、ルミナーラさんに採用の件をあらかじめお願いしていた。


そして、10代〜20代の女性、20人の採用が決まった。

もう驚かないけど、全員女性とはね。

因みに、王宮料理人は3人が男性、2人が女性である。

3人の男性にしてみれば、まさにハーレムだね。


後は、肝心の値段を決めなければならない。

メニューは決まっているので、この世界の相場や原価を元に算出するのだが、もちろんただの女子中学生だった私ならこんなことできない。


でも私にはスキルがある。


ステータス画面から『経営スキル』と『経理スキル』を発動すると、頭がみるみる稼働し出す。

弾き出した結果は、パスタが400G、パンケーキが300G、これが損益分岐点となった。


私が弾き出したんだけど、「損益分岐点」って何だろう??


全ての準備が整ったその夜、ラーラ達と相談し、ルルミーラさん、ルミナーラさん、採用が決まった20人を招待してレセプションをすることにした。


やっぱり、料理の味を知らないと、お客様に説明できないもんね。

次いでに、料理の提供方法と、会計の方法も説明しなきゃ。


次の日、急な招集にも関わらず、20人の女性従業員は全員集まってくれた。

ルルミーラさんとルミナーラさんは、公務で来れなかったため、後でパスタとパンケーキを届けることになった。


正確には、そうでもしないと、公務を後回しにしそうだったんだけどね。



女性従業員に注文の取り方、料理の運び方、会計の仕方を一通り教えると、お待ちかねの試食タイムだ。


王宮料理人が作ったのは、トマトパスタとカルボナーラ、それに新作のペペロンチーノ。

デザートにはホットケーキと生クリームをトッピングしたパンケーキだ。


女性達は初めて見る料理に戸惑いながらも、その香りと見た目、何より横で凄い勢いで食べているラーラ達を見て、一斉に食べ出す。


「な、何これ•••」

「お、美味しい。美味し過ぎる」

「今まで食べてきた物は何だったの?」

「信じられない」

「蒸したお芋より美味しい食べ物があるなんて•••」


みんな料理に感動しているようだ。

中には涙を流してる人もいる。


この街の人も、他の街から来てくれる人も、美味しいって思ってくれるといいな。


それから数日して、オープン初日を迎えた。


私は朝から、正確には朝4時に目を覚まして『携帯ハウス』の温泉に浸かっている。

珍しく緊張している。

お店の売上次第で、従業員の運命が変わるかもしれないと思うと、気が気ではない。


そんな私に同調したのか、ラーラ達も温泉に来たので一緒に入浴した。


長風呂を終えた後は、みんなでセーラー服を着て、お店に向かうことにした。

開店まで後2時間ある。

開店の準備でも手伝おうかな。

仕込みがあるので、料理人はお店にいる時間だ。


お店まで5分程という距離まで来た時、人が並んでいるのが見えた。

この通りに何で人が並んでるのかな?

私のお店はこの通りの突き当たりを左折すると見えてくる。


私は並んでいる人の横を通り過ぎ、突き当たりを左折したところで止まった。

というより、固まった。


お店まで大行列が出来ている。

な、何だこれは?

私が戸惑っていると、辺りが騒めきだした。


あれ、マリー様じゃないか?

竜騎士様までいるわよ。


握手会の後、少しは落ち着いたが私達のアイドルぶりはまだまだ続いていた。


「マリー様。皆、マリー様に近づきたくても行列から抜け出せないようですので、この隙に参りましょう」

私はラーラに言われると、早歩きでお店に向かった。

お店に入ると王宮料理人の料理長、ドミニクさんが私に駆け寄ってきた。


「マリー様。行列をご覧になりましたか?」

「見ました。想像もしてませんでした」

「マリーラ•パンケーキ店も同じ状況です」

「えっ!?あっちも??」

「はい。街の人は給付金をマリー様のために使いたいと話しているようで。

あと、どうやらラミリアからも大勢の人が来ているようです」


みんななんて良い人なんだろう。

給付金なんて好きに使ってくれればいいのに。

あと、ラミリアからの訪問は、事前にメレディスさんに開店日を伝えておいたからかな?


にしても、想像以上だ。

ちゃんと提供しきれるかな。

今朝とはまるで逆の心配をするのであった。



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