第36話 もうひとつのお店と、束の間の癒し

お店の開店に向け、ラーラ達は朝から木材調達に行き、私は建設業者と話し合いをした。

結論から言うと、建設業者は街の復興で従業員が出払っていて、作業を請負うのは大分先になってしまうということだった。


元々私自身、『建設スキル』を持っているので、ラーラ達と協力すればお店は直ぐに作れる。

業者経由での建設は、あくまで街にお金を還元することが目的だったので、既に受注がいっぱいあるなら何の問題もない。


話し合いが終わったところで、私は『転移スキル』でラミリアに向かう。


『ペアリングスキル』を使って、アイリスさんにアントワネット国に来てからの話はしてあったが、そろそろガーネットの街に帰るというので、私が転移で送ることにした。


最初はアントワネット国の用事も直ぐに終わらせて一緒に帰る予定だったし、何より安全だしね。


私は『転移スキル』でギルドラウンジの前に来ると、扉にギルドカードを翳して中に入った。


リルさん、ララさんが笑顔で出迎えてくれる。


「寂しかったんですよー」

「戻ってらっしゃったんですね?」

「また直ぐに行っちゃいますけど」

2人は残念そうな顔をする。

私が2人を宥めていると、奥からアイリスさん、レキシーさん、アイラがやってきた。


「マリーちゃん、お帰りなさい」

「カサノヴァがアントワネット国に改名したって聞いたわよー。流石ね」

「こんなにお時間がかかるなら、私もマリーお姉様と一緒に行けばよかったです」

「ごめんね。私も握手会をするなんて思ってなくて」

「握手会??」

3人が同時に反応する。


あっ

お店を開く話はしたけど

握手会の話はしてなかったかも•••


「握手会の話はしてませんでしたっけ?」

「聞いてないわよ」

3人以外から突っ込みが入った。

マーニャさんが2階から階段を降りながら言ってきたのだ。

直ぐ後ろからメレディスさんが急いで階段を降りてくる姿もあった。


「マリー様。本物なんですね?私、寂しかったんですよ」

メレディスさんが私に抱きついてくる。


「思ったより時間がかかっちゃって」

「それで、握手会って何なの?」

マーニャさんの質問に私は握手会のことを説明した。


「すごいこと考えつくわね」

「流石、マリーちゃん」

「みんな喜んだでしょうね」

マーニャさん、アイリスさん、レキシーさんが大人の発言をする一方


「私も握手会に参加したかったです。今からでも遅くないですわ。さー、私の手をお取りになって下さいまし」

「マリーお姉様、今、私と手を繋ぎましょう」

メレディスさんとアイラは子供のように甘えてきた。


2人の本気を感じて後退りした私は、アイテム収納からシュークリームを出して渡した。

2人はあまりの美味しさにシュークリームの良さを語り合い始め、握手会のことは忘れてくれたみたい。


他のみんなにもシュークリームを配ると、話題は私が開くお店の話しになった。


「マリーちゃん、アントワネットのお店でこのシュークリームを売り出すの?」

「いいえ、アントワネットではホットケーキを含めたパンケーキとパスタのお店を出します」

「パスタ?」

アイリスさんはなかなかの食いしん坊なので、パスタという言葉に直ぐに反応した。


「今度、パスタもご馳走しますね」

「まぁー、楽しみだわ」

「私も•••」

「私も、よければ•••」

「是非、いただきたいわね」


アイリスさんの言葉に、みんなが反応する。

私はパスタをご馳走する約束をして、話をガーネットの街にうつした。


「あと、さっきのシュークリームをガーネットの街で出したいなと、少し考えてるんです」

「まあ、まあ、いつから?お店の場所は私に任せて」

アイリスさんは少女のようにはしゃいでいる。


「アントワネット国のお店が無事開店できたら、ガーネットの街にもと考えてます」

「なら、私は街に戻り次第、直ぐにお店の準備をしておくわ。けど、ガーネットの街にもお店を出してくれるなんて本当に嬉しいわ」


アイリスさんにお店を開かない?と話をしてもらったのもあるけど、ガーネットの街も青龍の炎の所為で被害が出ていて、まだ復興途中なのだ。

だから、私のお店で旅人が増えればと考えた。


もし、順調にお客さんが増えるようなら、牛丼やステーキ、カレー屋さんも考えようと思っている。

ガーネットの街には私が住んでいるからお米も用意できるしね。


「今は復興が最優先ですので私もできる限り協力します。ただ、落ち着いたらラミリアにもお店をお願いしますね」

「分かりました!!」


メレディスさんのお願いは本気なんだと思う。

なぜなら、この世界の料理は想像を絶するほど不味い。

少しずつみんなが美味しいご飯を食べれるようになれば、この世界の幸福度はかなり上がると思う。


しばらくみんなで話をした後、ガーネットの街に帰ることにした。

メレディスさんは私も行くと、最後まで言っていたが、公務があり、王宮の人に連れて行かれていた。


レキシーさんも一緒に帰ることになり、アイリスさん、アイラと私の4人で『転移スキル』でガーネットに帰った。


街に戻ると、アイリスさんとアイラは領主の仕事、レキシーさんは冒険者ギルドの仕事が溜まっているらしく、直ぐに解散した。


私はラーラ達が待ってるアントワネットに戻る前に、もう1人の妹に会いに行った。

家にはいなかったため、養鶏場に行ってみるとラーミアさんと、一生懸命お手伝いをしているミアの姿があった。


「マリーお姉ちゃん!!」

私が声をかける前にこちらに気づき、走って近づいてくる。

そのまま私の胸に飛び込んできた。


「ミア、良い子にしてた?」

「ちゃんと、良い子にしてたよ。寂しかったけど、頑張ったよ」

私はミアの頭を優しく撫でる。

幸せを感じる瞬間だ。


「マリーちゃん、戻ってきたのね?」

「はい。また、直ぐに行かなくちゃいけないんですけど」

「また行っちゃうの?」

ミアが寂しそうにこちらを見てくる。


私はアイテム収納からシュークリームを出して、ミアとラーミアさんに渡す。


「今ね、他の街で私のお店を出そうと頑張ってて、それが終わったらガーネットの街にこのシュークリームのお店を出そうかなって、思ってるんだ」

「マリーお姉ちゃんのお店??」

「そうだよ。ミア、食べてみて」

「うん」

ミアは勢いよくシュークリームを口に入れた。


「ほいひぃ」

「本当に、凄く、凄く美味しいわ」

2人は笑顔で食べている。


「このしゅくりーむが、お店で食べれるようになるの?」

「そうだよ。だから、ミア。もう少し良い子で待ってられるかな?」

「うん。ミア、待ってる!!」


かわいい

本当にかわいい


癒しを補充した私は、ラーミアさんに卵を売ってもらうと、アントワネットに戻った。


早くお店を開いて、ガーネットに戻らないとな。


私は1人、空を見上げて思うのだった。



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