第35話 裸の付き合いと、開店に向けて
握手会の翌日、私は王宮の中庭に設置した『携帯ハウス』にルルミーラさんとルミナーラさんを招待した。
招待と言っても、今後の店舗開店の話をするために呼んだのだ。
本来は商業ギルドの管轄だが、まだ復興中で機能が回復していないため、ルルミーラさん、ルミナーラさんと直接話をすることになった。
最初は王宮内で話をする予定だったのだけど、どうしても2人を温泉に入れてあげくて、『携帯ハウス』に招待した。
2人に再会した時、髪が痛み、頬が痩け、肌もボロボロだったのを見て、単純に折角の美貌が勿体ない、と思ったのだ。
日本には裸の付き合いって、言葉もあるし、商談にはちょうどいいよね。
『携帯ハウス』に入った2人は終始驚いていたが、私はお構いなしにお風呂に誘う。
元々王族の湯浴みは、専属の人が複数人つき、髪や体を洗ってくれるようで、2人は抵抗なく裸になる。
なお、ラーラ達は既に温泉に浸かっている。
余程、昨日の握手会が疲れたのか、『携帯ハウス』を出した瞬間に入浴を開始していた。
私は2人をシャワー室に連れて行くと、まずルルミーラさんの髪を洗ってあげた。
「あっ、あっ、な、何でしょうか、この泡は?とても気持ちが良いです」
ルルミーラさんが色っぽい声を上げるので、少し恥ずかしい。
「マリー様。私もお願いします」
ルミナーラさんの髪も洗ってあげ、トリートメントも使う。
その後、体も洗っていよいよ温泉に移動。
既に入浴しているラーラ達は、目を閉じて温泉を満喫している。
「お湯が、こんなにも溜まって•••」
「お母様、あそこからお湯が流れ続けています」
驚いている2人に、私は温泉に浸かることを勧める。
先にラーラ達が入っているので、2人は見よう見まねで温泉に浸かる。
「うっ、あっ、ぁぁぁぁ」
「はぁぁぁぁー」
ルルミーラさんはいちいち色っぽいけど、2人は温泉に浸かったら誰もがあげる声を出した。
「て、天国です•••」
「肌にお湯が馴染んで、潤っていきます」
「これが、自慢の温泉です。肌にとっても良いんですよ」
私が言うと、2人は私とラーラ達を順番に見てくる。
「だから皆様はお綺麗なんですね」
「肌も綺麗ですし、スタイルも良く」
「いやいや、私は温泉に頼ってますし、2人の素の美しさには敵いません」
ラーラ達は特に何も言わなかったが、口元が緩んでいた。
「それで、お店の話なんですが」
私は2人が温泉に慣れてきたタイミングを見計らって切り出した。
「私達はもちろんマリー様の条件で構わないのですが、本当によろしいのですか?」
私はお店を開くと決めた時、土地を無償で提供してもらう代わりに、店舗の改装費や準備、モウモウの調達までを請負うことを申し出ていた。
給付金で報奨金等は無くなったけど、以前魔物100体を換金したお金が45,000,000G残ってるから開店には問題ないはず。
「はい。それでお願いします」
「では、せめて改装工事のお手伝い等を•••」
「お店の工事は街にある業者さんに頼もうと思っているので」
「そこまで考えていただいているとは、マリー様のお人柄もそうですが、その知識と申しますか、余程素晴らしい学舎を出ているのでしょうね」
ルルミーラさんが心の底から感心しているように、私を見て言ってくる。
いいえ
普通の中学校です
アニメの知識です
「それで、マリー様はお店にも人を雇用して下さると申してましたが•••」
「はい。お店もモウモウの飼育も、最低週に1度は従業員が交代で休める位の人数の雇用を考えてます」
「それだと、マリー様への収入があまり入らなくなってしまいそうで心配なのですが•••」
温泉で顔が赤くなっているルミナーラさんが、申し訳なさそうな顔をして聞いてくる。
「商品の仕入れ代、従業員への固定給、あともちろん税金も払って、それで赤字にならなければいいですよ」
「税金など、マリー様からは頂けません」
「ダメです!!土地を無償で提供してもらうからには、税金で貢献しなければ!!」
「しかし•••」
「金の切れ目が縁の切れ目、なのです!!」
私はルミナーラさんの言葉を遮り、得意気に言う。
「その言葉の意味は正確には分かりませんが、お金をしっかりしなければ、縁は続かないということなんですね」
ルミナーラさんは笑顔で言ってくる。
「その通りです!!」
「では、金銭面はしっかりさせていただきます。ただ、何かできることがあれば、言って下さいね」
そう言われて私はひとつ、心配事を相談した。
「あのー、誰か信用できる料理人の人とかいないですかね?」
「料理人ですか•••」
「一応、レシピは秘密にしておきたいんです。
レシピが流出して、アントワネット以外にお店が出てしまうと希少性がなくなってしまいますから」
もちろん、アントワネットの他の街や、ラミリア王国内に私がお店を開く可能性はあるが、その時はちゃんと距離感等、考慮するつもりだ。
「それでしたら、王宮の料理人をお遣い下さい」
「えっ?王宮の料理人って、王族に料理を作ってる人ですよね?そんな人が私のお店なんかに来てくれないんじゃ?」
「いいえ。今現在、王宮にはあまり人がおりませんし、十分な食材もなく、料理人は日々、芋を蒸したりと、それ位しかできず•••」
「新たな料理を大勢の人に食べていただく機会を与えていただいた方が、彼らも幸せな筈だわ」
ルミナーラさんの話に、ルルミーラさんが続けて言った。
「王宮務めですから、身分もしっかりしていますし、守秘義務も心得ております」
「分かりました。では、よろしくお願いします」
私は2人の提案に甘えることにした。
その後、ゆっくり温泉に浸かり、入浴後はみんなに『SSKⅢ』を振る舞った。
お風呂会談後、王宮料理人5人を紹介してもらい、私は料理を実演する。
5人とも王宮料理人という傲りのようなものは一切なく、真剣に私の話を聞いてくれ、お店で働く件も快く了承をもらった。
料理の後は、モウモウの生息地に行き、『調教スキル』で10体ほど手懐け、アントワネットの草原地帯まで持ち帰る。
ちょうど、ラーラ達が森から木を切って運び、柵を作ってくれていた。
最近、ラーラ、ナーラ、サーラには色々手伝ってもらってばかりだ。
3人ともお肉が食べたいとは言っても、一切文句を言ったことがない。
明日からは、店舗の改修も始まる。
ただ、復興中ということもあり、木材が不足していて、またラーラ達に森に行ってもらうことになる。
モウ乳も小麦粉も卵もあるし、少し3人にお礼をするために贅沢をしてもいいよね?
私は『地球物品創生スキル』を使って、家庭用のオーブンレンジを出した。
値段は500,000G。
3人が外で作業している間、私は『携帯ハウス』に戻り、ある物を作った。
そして、アイテム収納ではなく、ピクニック用のバスケットに詰めて、ラーラ達の元まで持って行く。
私が到着すると、すかさず反応があった。
「マリー様。この甘い香りはなんでしょうか?」
「お腹が急に鳴り始めました」
「これは、奇跡の予感•••」
ラーラ、ナーラ、サーラは、子供のような反応をする。
ふっふっふっ
童心に帰るのも無理ない
これは私がホットケーキよりも好きなデザート
いつも帰り道にチェーン店のお店から香る匂いに負けたものだよ
私はバスケットを開ける。
先ほどよりも強く辺りに匂いが広がる。
「この美しいフォルムは一体•••」
「この黄金色は何という•••」
「この芳しく、甘い香りは•••」
私は中から「この」と言われている物を取ると、1人づつ渡した。
「これは、シュークリームって、言うんだよ」
「しゅー、く、りーむ」
「食べてみて」
「は、はい。いただきます」
3人は同時にシュークリームを口にする。
はぁ〜〜
これは〜〜
あの世の入口か〜〜
3人の心はどこか遠くに行ったようだ。
中身はちゃんと、生クリームとカスタードクリームだよ。
美味しいだろー
参っただろー
私は満足気に腕を組むと、幸せそうに食べている3人を見た。
これで少しは、感謝を伝えられたかな。
また、明日からよろしくね。
私は2個目のシュークリームを渡しながら、心の中でそう思うのだった。
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