第34話 アイドルと、給付金

「お礼は、2つ、お願いします」

私はルミナーラさんを見ながら言った。


「はい。できる限りご希望に添えるようにします」

相変わらず綺麗な笑顔を浮かべる。


「1つ目は、少し土地を貸してもらいたいんですけど」

「土地ですか?もしや、この国にマリー様の家を?移住を?」

「いや〜、違うかな•••」

「そうですよね•••」

さっきまでの笑顔が瞬時に消える。


「ちょっと違うというか、この国で、私の店を何店か開きたいの」

「マリー様のお店をですか!?」

ルミナーラさんの表情が一気に明るくなる。


「ちょっとルミナーラ、そんな興味深い話し、私も交ぜて下さいな」

ルルミーラさんが陽気にテラス席にやってくる。

釣られて、ラーラ達もやって来る。


私はテラス席から街を見て、3カ所を指差した。

1つ目は、人通りの多い通り沿いにある崩壊した建物。

2つ目は、先程と少し離れているが、人通りがある場所で、同じように崩壊している建物。

3つ目は、街の外れにある牧草地帯。

塀が壊れているので、もしかしたら街の外かもしれない。


「この3つなんだけど、どうかな?」

「1つ目、2つ目は、元々空き家だった筈なので問題ないと思います。

3つ目はお店を開くには少々適さない場所だと思われるのですが、よろしいのですか?」

「いいの。あそこはモウモウを飼育する場所にしたいから」

「マリー様。まさかお店とは?」

ルミナーラさんより先に、ラーラが口を開く。


「そう。ひとつはホットケーキがあるパンケーキ屋さん」

「おおー、素晴らしい!!それで、もう1つは何でしょうか?」

「カレーですか?牛丼ですか?ステーキですか?」

「パスタだよ!!」

私は得意気に言う。


「パ、パスタ?」


そうパスタだ。

ホットケーキを作った時点で分かったが、この世界の主食は小麦で流通量は多い。

しかも、地球で言う、薄力粉、強力粉と種類が豊富。

野菜もトマトがあるし、卵、ミルクもあるからトマトパスタ、カルボナーラができる。


ラーラ達が言うカレーや牛丼でもいいのだが、現状、米を出せるのが私しかいないのが致命的なのだ。


パスタと聞いた瞬間から私から目を逸らさないラーラ達、最初からホットケーキも知らず不思議そうにしているルルミーラさん、ルミナーラさん。

これは実演、実食が早そうだ。


私はメイプルさんにお願いして、小麦粉数種類とトマト等、材料を買ってきてもらう。

ミルク以外はこの世界の主力食材なので、復興中の街でも十分揃う。


メイプルさんが帰って来ると、私はアイテム収納からいつもの料理グッズや足りない食材を出し、次々と料理を仕上げていく。

地球では手打ちのパスタ麺なんて作ったことなかったけど、『料理スキル』のお陰でスムーズに作れる。


•トマトパスタ

•カルボナーラ

•ホットケーキ


人数分作ると、私はテーブルに並べた。

どうせ、みんながお代わりと言うと思って、トマトパスタもカルボナーラも少量(色々な種類を少しづつスタイルではない)ではなくやや大盛りに作った。


「綺麗な料理ですわ」

「なんと食欲をそそる香りなのでしょう」

ルルミーラさん、ルミナーラさんが興奮したように言う。

2人を助けた際に、私の作った味噌汁をあげたことはあったけど、その時とは状況も料理も違うもんね。


「マリー様。も、もう、よろしいですか」

ラーラ達も限界なようだ。


「うん。では、いただきます」

「いただきます」

ルルミーラさん、ルミナーラさん、メイプルさんも普通にいただきます、を言った。


「お、美味しい•••」

「今までの食事はなんだったのか•••」

「生きていてよかった•••」

ほぼ、初めて私のご飯を食べた3人が感動する一方、ラーラ達は無心で食べ続けている。

その笑顔を見れば、美味しいと言うことは伝わってきた。


「こ、これをアントワネット国で食べれるようになるんですね•••」

「そうです。きっと他の街からも人がいっぱい来ますよ!!

もちろん、お店の従業員やモウモウのお世話は街の人にお願いするので、僅かですが雇用機会もできると思います」

「マリー様•••」

ルミナーラさんは私を見たまま涙を零した。

隣にいるルルミーラさんもハンカチで涙を拭っている。


「これでは、マリー様へのお礼ではなく、私達へのご褒美ですね」

ルミナーラさんは泣きながら、そして笑いながら言った。


「そうですわ。せめて、もう一つのお願いは私達をお遣い下さい」

ルルミーラさんが真剣な眼差しで私を見て来る。


「大丈夫です。次は、お二人の力じゃなければできませんので」

私は満面の笑みで2人を見た。



それから2日後、私の前に二つ目の願いが並んでいる。


私は今、左側に入口があり、右側に出口がある簡易設置の建物の中にいる。

左側の入口側からラーラ、ナーラ、サーラ、私の順に横一列で並んでいる。


察しの良い方は気づいたのでは?

そう、街の人、7,000人を対象にした握手会をするのです。

もちろん、事前にアルバム購入は必要なく、身分証を提示すれば誰でも入れる。


そして、握手はおまけで、まぁ〜、アイドルには憧れていたから若干ノリノリではあったけど、メインは給付金を渡すこと。


街の人がお金がないのに無理してセーラー服を買って着てくれていた姿を見た時、現状に負けず、綺麗な笑顔をルミナーラさんが見せてくれた時、私は決めたんだ。


報奨金と魔物の換金代、合わせて600,000,000Gを寄付することを。

ラーラ達に事前に話したら、3人とも自分達の報奨金も差し出してくれた。

本当に優しい、私の家族だよ。


4人合わせて、900,000,000Gの内、200,000,000Gをアントワネット国に、残りの700,000,000Gを7,000人、1人当たり100,000Gを給付することにした。


100,000Gは、街の人が1〜2ヶ月は暮らしていける金額らしい。


「マリー様。そろそろ始めます」

メイプルさんが入口から顔を出して言ってくる。


「はい、お願いします」

こっそり外を覗いた時に人が見えたから、誰も来ていないことはない。

給付金の話は準備に時間がかかったため、街の人には「握手会」という話で伝わっている。

みんな、来てくれるといいな。


そんな不安を抱いていた私だが、開始と同時に次々と人がやって来る。


「ラ、ラーラ様にお会いできるなんて」

「ナーラ様、綺麗です」

「サーラ様、美しい」

「マリー様ー、結婚して下さい」


色々な言葉を貰いながら、私達は一人一人と握手をして行った。

もちろん、私の順番の時には封筒に入った給付金を渡す。中身は伝えてないから後で驚くと思うけど、事後対応はルミナーラさんに任せている。


なお、封筒は『地球物品創生スキル』で出したもので、一つ一つにお金を入れるのに大分時間を要してしまったのだ。


1時間、2時間•••、5時間と経っても人が来る勢いは止まらなかった。

アイドルの人って、こんなに大変だったんだね。


結局、朝から始めた握手会は、12時間経過した所で終了した。

終わった瞬間、私とラーラ、ナーラ、サーラはその場に仰向けで倒れ込んだ。


簡易設置している建物に屋根は無いため、夜空に浮かぶ星が見える。

ゆっくり星を眺めたのはいつ振りだろうか。

澄んだ空に浮かぶ星は綺麗だった。


「マリー様。夕飯にはお肉を所望します」

「にんにくステーキを是非とも•••」

「白米は大盛りで•••」

疲れ果てた3人が夕飯のリクエストをしてくる。


花より団子だね。


私は寝転んだまま3人を見て、1人静かに笑った。



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