第33話 セーラー服と、笑顔

「街の人が私の命を狙ってるんですか!?」

「違います。決してそのようなことは」

女性は慌てて否定する。


「なら、どうして危害が及ぶんですか?」

「それは•••」

女性はなぜか頬を赤くする。


「みんな、マリー様のことが好きだからです!!」

「へっ?」

自分でも間抜けな声を上げたと思う。


「騎士の私でさえ、命を救って下さったまだ見ぬマリー様に恋焦がれ、

実際目にした今はその余りの美しさに抱きつきたい衝動を抑えるのに必死なのです!!」


それは、ファンみたいな?

私はアイドル、みたいな?


私がまだ困惑していると、女性はその場に立ち、鎧を脱ぎ出した。


えっえっ

どうして脱ぐの?

私は意味もなくあたりをキョロキョロした。


女性騎士が上半身、下半身と鎧を脱ぎ終わると•••。


何ということでしょう。

そこには白のワイシャツに紺色のスカート、可愛いネクタイまでした姿があるではないですか。


いや

なんでセーラー服??


「あ、あの•••。それはセーラー服では?」

「その通りです。聖女の羽衣、通称セーラー服でございます!!」


その迷いのない物言いに、鎧の下にセーラー服を着ているのはおかしいことではないんじゃないかと、錯覚し始めそうになる。


追い打ちをかけるように、なぜか他の騎馬隊の人も鎧を脱ぎ、セーラー服姿になった。


「皆様はこちらのマントを被って下さい」

何もかも分からない私達は、無意識にマントを受け取り、身に付けていた。


「追っ手が来るかもしれません。街へ急ぎましょう」

「街は危ないんじゃ?」

「はい。ですので、正門ではなく、北門から街に入りたいと思います」

「あの•••、お城に行くんでしたら転移で行けますけど?」

今度は女性が驚きの表情をする。


私は『転移スキル』のことを説明する。

最初は転移に疑問を持っていたが、ここでも、私にくっつけば、と話をした所で一気に理解を得られた。


「馬と鎧を持って帰る必要がありますので、代表で私を転移で連れて行ってもらえるでしょうか?」

「大丈夫ですよ」

転移できないと分かった残り4名から不満の声が漏れているが、無視しておこう。


「申し遅れました。私は騎馬隊のリーダーを務めていますメイプルと申します。よろしくお願いします」

男性が少ないとはいえ、女性で尚且つ若いのにリーダーとは、凄い。


私達も軽く挨拶をして、転移するための準備に入った。

即座にラーラは正面、ナーラは背中、サーラは右腕に抱きついてきた。

新参者には負けないと言わんばかりのスピードだ。


「では•••」

メイプルさんは顔を赤くして、左腕に抱きついてきた。


「行きますよー」

私が『転移スキル』を発動すると、瞬時に景色が城門前に変化した。

いつも通り、突然現れた私達に驚き、門番は腰を抜かす。


「凄い。お城が目の前です」

メイプルさんが呟く。


「おい、突然現れたぞ。もしかしたら•••」

「まさか、あの方なの?」

「マントしてるなんて、隠してる証拠だろ」


私達の後ろから色々な声が聞こえて来る。

気配も凄く感じる。


私は思わず後ろを振り向く。

ラーラ達も同時に後ろを向いた。


その瞬間、数秒の静寂に包まれ、刹那に騒ぎに変わった。


「聖女様よー!!」

「マリー様ー!!」

「竜騎士様もいるわー!!」


な、なんだこりゃー

数百人はいるであろう街の人がそこにいた。

しかも、セーラー服を着ている女性が相当数いる。


「し、しまった!!城門前で待ち構えていたか!!」

メイプルさんが慌てて私達を城門の中へ誘導する。


「門を閉めよーー!!」

私達が城門を潜ると同時にメイプルさんが叫び、間一髪の所で門が閉まった。

門の外からはまだ私達を呼ぶ声が聞こえる。


「これが、危害が及ぶかもしれない真意です」

「た、確かに、あの人数で来られたら危ないかも•••」

「ひとつ良いか?あの者達は、マリー様だけでなく、私達のことも知っていたようだが?」

ラーラがメイプルさんに聞く。


「この街を、マリー様と共に助けて下さったからです。

初めはマリー様の話が先行していたのですが、ルミナーラ王女が国民に向けて全てを説明した後、ラーラ様、ナーラ様、サーラ様の銅像も作ったので、それでお顔も知られています」

ラーラ、ナーラ、サーラは少し恥ずかしそうに頬を掻いたりしている。


「城門の中に入ったので安心だと思いますが、取り急ぎ、王宮へ参りましょう」

メイプルさんはそう言うと、私達の前を歩きだす。


「それにしても、街の人がすごかったね」

「本当に申し訳ありません。

1度マリー様や竜騎士様のお披露目でもあれば、少しは落ち着くと思うのですが•••」

「確かに、マリー様のお披露目は必要かもしれませんね」

メイプルさんとラーラはそう言うが、お披露目されるような人じゃないよ私は•••。


王宮の中に入ると、4階の眺めの良いテラス席がある部屋に案内された。


「謁見の間がまだ修繕中でございまして、こちらにルミナーラ王女をお連れしますのでお待ち下さい」


メイプルさんが部屋を出ていくと、私はテラス席に移動した。

街の景色が一望できる。その分、色々見えてきた。

街の道は穴が空いたり亀裂が入っていたり、家屋は屋根や壁に穴が空いたりしている。

修繕はほとんど進んでいないみたいだ。

あれから1ヶ月弱じゃ、やっぱり難しいよね。


自然と街を歩いてる人を見ると、女性はセーラー服を着ている人が多い。

ただ、セーラー服は綺麗でも、髪が傷んでいたり、靴を履いていない人もいた。


「失礼します」

私が街を見ていると、3人の女性が部屋に入ってきた。

ルルミーラさん、ルミナーラさん、メイプルさんだ。


「マリー様」

ルルミーラさんとルミナーラさんがテラスにいる私まで走ってきて、2人同時に抱きつかれた。


「ご存命であると、ずっと信じていました」

「また会えて、よかったです」

私は抱きついたまま泣いている2人の背中を優しく擦った。


しばらくして落ち着いた2人は、今度はラーラ、ナーラ、サーラ達に抱きつながらお礼を言った。

ラーラ達は困惑していたが、突き放すことなく、ちゃんと受け止めていた。


「皆様。お茶が入りましたので、どうぞこちらへ」

メイプルさんが室内から私達に声をかける。


席についてお茶を飲んでいると、私は2人の服装に目が入った。

ドレスでも綺麗な普段着とも違う、街の人が来ていそうな普通の服、という感じだ。

髪も街の人と同様に傷んでいるように見えるし、少し痩せたような印象を受ける。


「マリー様。今回は来ていただいてありがとうございます」

「いいえ。私も2人のこと、気になってましたし」

「マリー様に気にしていただけるなんて、こんな嬉しいことはありません」

ルミナーラさんは、ルルミーラさんと目を合わせて微笑む。


「それでマリー様。親書に書いたように国名に関するお願いがございます」

「何か、私の名前が••、国名に••、みたいに聞いてるんですが」

「その通りです。

許可をいただけるのでしたら、私が王女に即位したこの機に、カサノヴァ国はアントワネット国に、王都名をアントワネットに改名したいと思っています」

「更に、我が家名もカサノヴァからアントワネットに改名を望んでいます」

ルミナーラさんとルルミーラさんが言ってくる。


「アントワネットの名前は、私も授けてもらったといいますか、なので全然問題はないんですけど、本当にいいんですか?」

「こんなに名誉なことはありません。

これから私はアントワネット国のルミナーラ•アントワネットとして生きて行けるんですから。それに•••」

ルミナーラさんはテラス席の方を見て、歩き出す。


「国民もそれを望んでいるのです」

私もテラス席まで歩き、ルミナーラさんの隣に立った。


「民は、今貧しい生活を強いられていますが、みんなマリー様を慕い、セーラー服を着たいからと、少ない財から買っているんです」

私は驚いてルミナーラさんを見る。


「私も本当はセーラー服を着たいのですが、今は再建が優先ですので我慢です」

ルミナーラさんが屈託のない笑顔でガッツポーズのような動きを見せる。


人口が約7,000人にまで減り、街はボロボロ、王宮にもお茶を出してくれるメイドさんもいない。

カサノヴァ国に訪れる人も減っているだろうし、復興は大変なんだろうな。


「今回の件、マリー様には大したお礼はできませんが、少し私財も残っていますし、できる限りのことはしたいと思っています」

ルミナーラさんは、嫌味の全くない、綺麗な笑顔を浮かべる。



街の人のセーラー服と、ルミナーラさんの笑顔。

それを見て、私はあることを決めたんだ。


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