第29話 アンデッド•トロール

「相談って、何ですか?」

私は出来る限り優しい口調で聞いた。


「ラミリア王国の外れに私の生まれた村があるのですが•••、

ここ最近、アンデッド化したトロールが現れ、村にも影響が出始めて」

ララさんは真剣な眼差しで私を見つめる。


「奇怪ですね。見た目はともかく、元来トロールは妖精の一部で人に危害は与えないはず」

ラーラが、ナーラ、サーラの方を向いて、確認しながら言ってくる。


「そのトロールですが、恐らく、私達の村を守ってくれていたトロールなんです」

「守ってくれていた?」

「はい。何十年も村を守ってくれていたトロールがいたんですが、突如降ってきた隕石から村を守るために亡くなったと聞いてます」


隕石•••

また、青龍被害ということか


「ラーラ、きっと青龍の炎だよね?」

「そう思われます」

「村を守りきれなかった後悔、悔しさが募り、アンデッド化したのかもしれません」

ラーラとナーラが言う。


「アンデッド化したトロールは、夜な夜な村の周りを彷徨っているらしいのですが、

その影響で魔物が引き寄せられて、村に被害が出始めているんです」

「急いだ方がいいかもしれません」

サーラが私を見て言ってくる。


私の浄化魔法を使えば、苦しめることもなく対処できるはず。


「引き受けて、下さるのですか?」

「もちろんです」

「しかし、依頼者が私となりますので、報酬は微々たるもので•••」

「Aランクの魔物討伐の実績は加算されます」

ララさんの後に、リルさんが訴えかけてくる。


「大丈夫。お金はいらないです。

それに、村を守ってくれていたトロールを苦しめずに浄化できるのは、私しかいないと思いますし」

「あ、ありがとうございます」

ララさんの目には涙が浮かんでいた。


「そうと決まれば、ギルドマスターに報告して、正式に依頼化しなくちゃ」

リルさんが走って地下へと消えて行く。


「依頼にならなくても、私は行くつもりなので、今のうちに村の場所を教えてもらっていいですか?」

「聖女様とは聞いていましたけど、ここまで慈愛に満ちた方とは•••、本当に感謝しかありません」

先程目に浮かんでいた涙が、ララさんの頬を伝っている。


「私のマリー様はお優しいのです」

「流石、私のマリーお姉様です」

「私のマリーちゃんでもあるわ」

メレディスさんの言葉を皮切りに、アイラとアイリスさんが続く。

ラーラ、ナーラ、サーラも何かを言いたそうに体だけ前のめりになっている。


うんうん

みんないつの間にか仲良くなって


私はみんなのやり取りを聞きつつ、村の場所を確認した。


「ここがラミリアで、私の村はこの辺りになります」

「ラーラ、この距離だったら、今から行って帰ってこれるよね?」

「は、はい。問題ないと思います」

まるでお笑い芸人のように、前のめりに発言機会を窺っていたラーラが慌てて答える。


「マーニャさん達の査定はまだ時間かかりそうだし、直ぐに行っちゃおうかな」

「そうしましょう。我々ドラゴンと強い接点がある訳ではありませんが、トロールは純粋な妖精。

心情的には早く救い出したいです」

「そうだね。じゃ、行こう!!」


私とラーラ、ナーラ、サーラの4人で行く準備を整え、ギルドラウンジの外に出た。


「マーニャさん達への説明、よろしくお願いします」

「はい」

ララさんが頭を下げながら返事をする。


そんなララさんの姿を見つつ、私達4人は走り出した。

街の外まで来た所で、サーラにドラゴン化してもらい、残りの3人は背中に乗る。


飛び上がったサーラは一気に加速し、目的地上空まで僅か1時間程で到着した。


上空から下を覗くと、塀に囲まれた村を確認できる。

よく見ると、村の周りが黒い靄のようなもので覆われていた。


「トロールが村の周囲を回っているのでしょう」

「それで、あの村から少し離れた場所にいる黒い大きな靄の塊がトロールだよね?」

「そのようです」


探知スキルを使うまでも無く、肉眼で確認できる程の大きな黒い靄の塊があった。


私達は村の直ぐ横に降りた。

村から人の話し声や気配は感じないが、探知スキルにはしっかりと100名程の反応を確認できた。

きっと、息を潜めているのだろう。


「村の周りは森だね」

「上空から見ても、開けた場所はこの辺りだけでした」

人型に戻ったサーラが教えてくれる。


「村の近くでの戦いは避けたいけど、森を無闇に傷つけたくないしなー」

「そうですね。ここのトロールは森の妖精から力を受けているようですし、森を傷つけるのは得策ではないですね」

「今更なんだけど、妖精っているんだね?」

「はい。ドラゴンにとっては、人族より近しい存在の種族です」

ナーラが答える。


私達が話をしていると、森が騒めき出した。

強い風が吹き、木々が激しく揺れる。


「トロールが来るようです」

「そうみたいだね」


森の中からズシン、ズシンと大きな足音が近づき、やがて木を掻き分けた間からトロールの手と、顔が確認できた。


この森の木は10メートル位あるが、トロールも同じ位の大きさをしている。

体は黒い靄で覆われているが、トロール自体は想像していた見た目では無かった。

顔は、耳と鼻が大きいが全体的には人の女性のように見え、森の素材で作られた服を着ている。


トロールの目がこちらを捉えた瞬間、ナーラに向かって素手で攻撃を仕掛けてきた。

ナーラは攻撃を躱すが、衝撃波のような付随攻撃で体を飛ばされる。


「攻撃に風が纏っています。お気をつけて下さい」


風の付与か

森の精霊は伊達じゃないんだね


トロールは続けてラーラ、サーラに攻撃を仕掛けた。

私はその隙に浄化魔法の詠唱を始める。


陰の力ありし処、光の力あり

今ここで重なり、互いの力を解放せよ。


グラン•ピュア


トロールの体に覆われていた黒い靄が消えた。

しかし、瞬時に靄が復活した。


「グラン•ピュアが効かない•••」

「かなり強い瘴気に包まれています」

ナーラが私の隣に来て言った。


グラン•ピュアが効かない以上、魔法で攻撃するしかないのか?

それは、トロールの完全なる死を意味する。


「あそこまで強い瘴気の場合、魔法で攻撃し、姿、形を消滅させても復活するかもしれません」

「えっ、そうなの?」

「それも、悪魔として復活します」



悪魔•••

村を守ってくれていたトロール

青龍の被害によってアンデッド化したトロール

そんなトロールが悪魔になる•••



そんなの嫌だ



私が考えているとトロールは隣にいるナーラを攻撃してきた。

ナーラと一緒に私は攻撃を躱すが、衝撃波で体がよろめく。

トロールはすかさず私に右手でパンチを繰り出す。

両手で防御するも、その威力から私は吹き飛び、10メートル後方にあった木に体を打ちつけた。


「さ、流石に痛い•••」

私は起き上がりながらトロールを見ると、こちらに向かってくる姿があった。


トロールは再び右手でパンチを繰り出し、それを私が躱すと、今度はキックを放つ。

私はバリアで回避する。


攻防している時、私はトロールのおかしな仕草に気づいた。

トロールは右手や両足で攻撃をしてくるが、左手はいつも一定の場所にある。



ずっと、お腹にある

黒い靄で見えづらかったが、お腹に膨らみがある



このトロール

お腹に赤ちゃんがいるんだ


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