第26話 マイホームと、現実
食事会の翌日、私はアイリスさんと一緒に冒険者ギルドに来ていた。
いつまでもアイリスさんの屋敷にお世話になる訳にもいかず、かと言って、『携帯ハウス』では私とラーラ、ナーラ、サーラの4人で暮らすには狭い。
なら一層、家を建ててしまおうと、先立つ物を用立てに来たのだ。
冒険者ギルドの個室に案内された私達は、ギルドマスターのレキシーさんと3人で話をする。
「土地の購入と家の建設費のためにお金が必要ってことね?」
「はい」
「マリーちゃん達なら、ずっと屋敷にいてくれても構わないのに」
私とレキシーさんのやり取りに、今朝から何度も聞いている台詞をアイリスさんが口にする。
「そういう訳には•••」
私は自分の家に、ウォシュレット付き水洗トイレ、お風呂、温泉、システムキッチンをつけたいのだ。
屋敷と言っても、こっちの世界ではトイレは汲み取り式、お風呂もかけ湯程度、キッチンは薪、現代っ子の私には我慢できないのです。
「以前換金した魔物100体分の他に、確かあと400体分あるのよね?」
レキシーさんが話を進めてくれる。
「あと、ワイバーンも1体あります」
「えっ??」
レキシーさんとアイリスさんが真っ青な顔をしている。
「ワイバーンって、あのドラゴンのよね?」
「そうです」
「Aランクの魔物なんだけど•••、青龍を倒してるマリーに驚いてもしょうがないわね」
「400体の魔物とワイバーンとなれば、冒険者の査定にも大きく影響するんじゃないのかしら?」
アイリスさんがレキシーさんに聞く。
「大きく影響します。ワイバーンの討伐達成はもちろん、素材はその国に多大な益をもたらしますので、ギルドへの貢献も加算されます」
「そうよねー。なら、王都に行って冒険者加入をしてからの方がいいかしら?」
「どういうことですか?」
レキシーさんとアイリスさんの話について行けない私は、詳しく聞いた。
今度、王都ラミリアに行った際、私は上位のギルドランクが貰えるそうだ。
そもそも、ギルドランクはGランクからスタートし、冒険者登録してからの成績で上がる仕組み。
今回私が上位ランクスタートできるのは、国王の推薦と、本来は討伐カウントされない青龍5体を特例で加算しているらしい。
「つまり、私がこれからランクを上げるなら、冒険者登録してからワイバーン討伐を報告した方がいいと?」
「そう言うことよ。
そもそも、この街の設備じゃワイバーンは解体できないし、ワイバーン討伐依頼が出ているのは王都だしね」
「なら、討伐報告は王都に行ってからで決まりですわ。それまでは私の屋敷で今まで通りね」
アイリスさんはどこか嬉しそうだ。
「分かりました。ただ、せめて土地の買い方だけでも教えてもらえませんか?」
「簡単よ。アイリスさんに許可をもらえばいいんだから」
「えっ?」
レキシーさんの答えに、私はアイリスさんを見る。
「本来は不動産ギルドが受け持つのよ。ただ、この小さな街にギルドは冒険者しかないから、仕方なく領主の私が管理してるのよ」
アイリスさんが笑顔で私を見ると、続けて教えてくれた。
「因みに、お店を開く場合は商業ギルドなんだけど、この街にはないから、ホットケーキ屋さんとか、牛丼屋さんとか、ステーキ屋さんとか、カレー屋さんをやりたいなら、それも私に言ってね。
いつでも、言ってね」
最後の台詞は気のせいか、口調が少し強く感じた。
「わ、わかりました。それで、どこか良い土地は空いてないですかね?」
「あるわよ。私の屋敷の隣。屋敷を前より小さくしたから、まだまだ土地が余ってるの」
領主様の屋敷の隣
どうなんだろう
確かに場所はいい
「これはね、私からのお願いで、街のみんなからのお願いでもあるの」
アイリスさんが真面目な表情で話してくる。
「私も街のみんなもマリーちゃんが大好きなの。
今は私の屋敷にマリーちゃんがいるからみんな安心しているけど、いつか街から出ていってしまうのではないか、内心不安なのよ」
「私もこの街が大好きで、ずっと住みたいと思ってます」
アイリスさんは優しく微笑み、私を見ながら話を続ける。
「ありがとう。
けどね、これから王都ラミリア、カサノヴァに行ったら、きっと移住をお願いされるわよ」
「そう、なんですか?」
私は首を傾げながら言う。
「そうよ。みんなあなたのことが好きなんだから。
ラミリアに関しては、メレディス姫があなたの傍にいるのが証拠だし、カサノヴァに関してはマリーちゃんの銅像を作ってるのよ」
た、確かに、そんな話をシンから聞いた。
「マリーちゃんを取られちゃう、私も街の人もそんな気持ちなの」
そんなことを考えてくれていのか。
私は嬉しくて、そして少し恥ずかしかった。
「一応ね、この小さな街で領主は特別だから、その敷地に家を建ててくれればみんな安心するのよ」
「分かりました。屋敷の隣の土地を買いたいと思います!!」
「いいの?マリーちゃんの人生だから、無理しなくていいのよ?」
「無理はしてません。
最初からこの街に家を建てる予定でしたし、それに、2人も妹がいますから」
「ありがとう」
アイリスさんと、レキシーさんにまでお礼を言われた。
「土地の手続は後回しで、お家の建設は進めちゃっていいからね」
「いいんですか?」
「もちろんよ。お家が立てばみんなが安心するし、それに手続は面倒で少し時間がかかるのよ」
アイリスさんは両手を広げながら、大げさにアピールする。
「もしかして、土地代を払わせないつもりでは?」
「正直、今は私の土地になってるし、権利だけ譲渡できればいいんじゃないかしら?」
「そういう訳には行かないです!!」
私が言うと、レキシーさんが提案をしてくる。
「だったら、さっき話に出たお店を開いて、税金を納めればいいじゃない」
「確かに、私の土地を売っても私のお金にしかならないし、税金は街のみんなに使えるから助かるわね」
お店か•••
確かにカレーとか名物ができてこの街にたくさん旅行者が来てくれたら嬉しい
「まっ、考えときなさいな」
レキシーさんはそう言うと、今日の相談は終わりとなった。
私はアイリスさんの屋敷の隣に『携帯ハウス』を出し、ラーラ、ナーラ、サーラとお家建設の相談をした。
ラーラ、ナーラ、サーラは、自分達も一緒に住めることに感激していた。
私は『地球物品創生スキル』と新たに『家計簿スキル』を発動した。
『家計簿スキル』は、残高が瞬時に分かったり、今後の収入•費用予想をしてくれるもので、『地球物品創生スキル』と併用すると欲しいものの値段が予め把握できる。
今までは発動した後でないと値段が分からなかったからすごく有難い。
「まずは、普通のお風呂と温泉、それにトイレとシステムキッチンと、これくらいかな」
▪️お風呂 :70,000,000G
▪️トイレ :40,000,000G
▪️キッチン:110,000,000G
▪️温 泉 :150,000,000G
な、なに
この金額は•••
前に魔物100体換金したお金が45,000,000G程余っていたから余裕だと思っていたのに•••。
さすが異世界相場だ。
「ちょと、お家は冒険者登録した後になりそう•••」
「問題ありません」
「木材は、私が森から仕入れてきましょう」
「私も建設を手伝いますから」
私の落ち込んだ顔を見て、ラーラ、ナーラ、サーラは優しくフォローしてくれるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます