第23話 救出劇と、私の限界
私とラーラがカサノヴァに着いた時、既にナーラとサーラは街の入り口で待っていた。
「マリー様。ご無事で何よりです」
「魔王国は全然無事じゃないんだけどね•••」
私はナーラに言った。
「それにしても、本当に人の反応がないんだね」
私は探知スキルを使ったが、街に人の反応はなかった。
私達は門を潜り、街の中に入った。
そこにはレンガで舗装された道が所々で壊れ、家屋も損壊し、荒廃しきった街があった。
街の中を進んでも、その景色は変わらなかった。
「酷い状況。お城に急いだ方がいいね」
「はい。牢にいる者も衰弱していることが考えられます」
私達はお城に向かって走り出した。
しばらくして城の前に着くが、もちろん警備はいない。
そのまま城の中に入ると、地下牢に真っ直ぐに向かった。
地下牢に着くと、酷い臭いが辺りに充満していた。外から人の出入りがなかったことが窺える。
地下牢は50程あり、探知スキルに反応があるのは僅かに4人だけだ。
4人の反応を順番に確認していく。
1人目の牢屋を覗くと、汚れてはいるが綺麗な身なりをした30代位の女性が倒れていた。
私は力任せに牢屋を壊すと、女性の肩を揺すって声をかける。
「大丈夫ですか?声、聞こえますか?」
「•••あ••あな•••た•••」
辛うじて意識はあるようだが、かなり衰弱している。
私は直ぐに詠唱してグラン•ヒールをかけ、魔法で水を出し、女性の口に流し込んだ。
女性は咳き込んだが、先ほどより焦点が定まり、私を見て話し始めた。
「あ、あなたは?」
「私はマリー•アントワネットと言います。ラミリア国王とメレディス姫の依頼で助けに来ました」
「ラ、ラミリア王が•••」
女性はそこまで言うと、何かを思い出したように目を見開いた。
「む、娘も、ここに居るはずなんです」
「娘?もしかして、あなたはルルミーラ王妃ですか?」
ラーラが問いかける。
「はい。私はルルミーラ。娘はルミナーラです」
私とラーラは目を合わせ、直ぐに別の牢屋を探し始めた。
ルルミーラさんのことは、サーラにお願いした。
2人目、3人目の牢屋は、ルルミーラさん、ルミナーラさんの使用人が捉えられていた。
先ほどと同じようにグラン•ヒールをかけ、水を飲ませた。
4人目の牢屋に来た時、その見た目、格好から直ぐにルミナーラさんだと分かった。
話かけても反応がない。
急いでグラン•ヒールをかけるが、まだ意識は回復しない。
「きっと大丈夫?心臓は動いてるから」
私はそう言いながらアイテム収納から毛布を出してルミナーラさんに掛け、声をかけ続ける。
水を飲ませようにも口に上手く流し込めないため、口移しで飲ませた。
先ほどより顔色が良くなった所で、ルルミーラさんと使用人の2人が来た。
3人が声をかけ続けると、ルミナーラさんの目がゆっくりと開いた。
「ルミナーラ」
「ルミナーラ様」
3人がルミナーラさんに抱きつく。
「わ、私は、助かったのですか?」
「そうよ。こちらにいるマリー様が助けてくれたのよ」
「もう大丈夫ですよ」
私はルミナーラさんに優しく伝える。
「マリー様。あなたの声が、ずっと聞こえてました」
「声が届いてよかったです」
そこまで話すと、環境の悪い地下牢から脱出するため、捕まっていた4人を、私とラーラ、ナーラ、サーラでそれぞれおんぶし、城の1階に上がった。
私はアイテム収納から温かい味噌汁を出すと、4人に手渡した。
「城の中にはもう誰もいなそうだね」
「はい。気配がありません」
ラーラが答えてくれた。
「次は砦だね」
「砦は城の裏側にあります」
ナーラが方向を指差しながら教えてくれる。
サーラに4人のことをお願いし、私とラーラ、ナーラで砦に向かうことにした。
「私達も、連れ行っていただけないでしょうか?」
出発しようとした私に、ルルミーラさんとルミナーラさんがお願いして来た。
「想像を絶する光景が待っていますよ」
私が答える前にナーラが答えた。
「承知しています。ただ、私の夫、カサノヴァ王の犯した過ちをこの目に焼き付けなければならないのです」
「私と母は、父をカサノヴァ王を止め切ることができなった。この償いを、民に対して責任を取らなければならないのです」
ルルミーラさんとルミナーラさんが言った。
2人は似ているな
やっぱり、親子なんだな
「では、一緒に行きましょう」
私が言うと、2人はお礼を言ってきた。
使用人の2人をサーラに任せて、ラーラがルルミーラさんを、ナーラがルミナーラさんをおんぶして向かうことにした。
出発前に、魔鉱石の呪いを考慮し、結界スキルを発動した。
私達は、城の裏側に回り込み、外壁が壊れている場所から街の外に出た。
しばらく進むと森が開けた場所があり、大きな穴が何十箇所も掘られていた。
それぞれの穴の中には、大勢の人が倒れている。
「ひ、酷い」
「街の人が•••」
ルルミーラさん、ルミナーラさんが声を震わせながら言った。
「生きている者もいますね」
「そうだね。7,000人位、生きてると思う」
「今、生きているものは、きっと善人です」
ラーラの言葉に、私は首を傾げる。
「魔鉱石は字の通り『魔』です。心が濁っているものほど魔を取り入れてしまい易くなります」
「なら、ここにいる人は助けた方がいいって、ことだよね?」
「はい。恐らく、諸悪の根源である王や民を傷つけた家臣や兵士は、もう生きていないと思いますので」
私はラーラの考えを聞くと、魔法の詠唱を始める。
大魔法バース•デイを使用した後にこれだけの人数に浄化魔法となると、流石にきついかもしれない。
でも、時間がない
一気にやるしかない
陰の力ありし処、光の力あり
今ここで重なり、互いの力を解放せよ。
グラン•エリア•リムーヴ(状態異常回復)
7,000人に光の柱が立ち、黒い影のようなものが天に昇っていく。
うっ、うう
流石にキツい•••
まだ黒い影は完全に上りきってない。
このままじゃ、呪いは解けない。
私は更に魔力を込める。
「解き放てーーー」
光の力が黒い影をどんどん天に上げていく。
完全に黒い影が昇り切ると、光の柱は消えた。
私はその場に両手を着いて倒れた。
激しい脱力感と息切れが私を襲う。
息が思うようにできず、苦しい。
「マリー様、大丈夫ですか!!」
ラーラが私の背中を摩りながら、心配そうに声を掛けてくる。
「はぁ、はぁ•••、だ、大丈夫」
大丈夫と言ってはみたものの、私は立ち上がることができない。
私は両手を着いたまま穴の中を覗くと、まだ人が倒れたままだった。
呪いは解けても、損傷している部分の影響や、体力の欠如によって、完全に回復していないんだ。
「ま、まったく、か弱い••、女子、、中学生が•••、やることじゃないよね」
私は体を起こそうとしたが、起こすことができない。
こうなったらこのままやるか
私は地面に着いている両手だけを何とか動かし、再び詠唱を始める。
「マリー様。いけません」
「もう止めてください!!」
ラーラとナーラが今にも泣きそうな顔をして言ってくる。
ルルミーラさんとルミナーラさんは、その場で跪き、私を見つめながら泣いている。
シン•アントワネットの名の元に、癒しの精霊達を、我、マリー•アントワネットに力を与えよ。
グラン•エリアヒール
辺りが光で包み込まれる。
眩くて、前を見れないほど強い光が広がる。
光が収まった時、私の意識は無くなった。
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