第22話 バースデイケーキ

私の体から魔力が溢れ出し、城全体が震え出した。


私はラーラの顔を蹴った魔族に近づき、無言のまま右手を横に一閃した。

魔族の首は切り落とされ、胴体部分はその場に倒れた。


ラーラは口元から血を流したまま、ホットケーキを拾っている。




私がまだ幼稚園の頃


家は父親が病を患った事もあり貧しかった。

母親は外に働きに出て、私の面倒を見て、

病院に父の様子を見に行って、いつも

動き回っていた。


そんな中で迎えた私の誕生日


母親はホットケーキを焼いてくれた。

苺の乗ったケーキではなかったけど、

私は凄く嬉しかった。


嬉しかったから、

いつも忙しい母を手伝いたかったから、

私は出来上がったホットケーキをテーブルまで運ぶと言った。


だけど、

運ぶ途中で私はホットケーキを落とした。


母親は怒る事なく、

大丈夫、頑張ったねと笑顔で言いながら、

ホットケーキを拾った。


そんな母親を見て、

悲しくて、情けなくて、申し訳なくて、

私は泣いた。




ゾワッ



【大魔王の威圧】が発動した。

城全体が先ほどより強く揺れる。



私は、目の前でホットケーキを拾っているラーラと同じ位置まで目線を落とすため、屈んだ。

ラーラの顎に軽く触れながら顔を持ち上げると、私は優しく言った。


【もう大丈夫だ。お前は良く頑張った】


「私は、マリー様が作った物を守りきれませんでした」

【ただのホットケーキで•••、お前は優しいな。私の誉れだ】


私はラーラをその場に立たせると、鼻の長い魔族を睨んだ。


「な、な、何をしてる。早くこいつをどうにかしろ」


けれど、誰も動かない。

そもそも最初の命令で動いたのも魔族2体だけ。

他の魔族は動かなかった。


【お前達は分かっているのだな、私の実力を】

並んでいる魔族の額からは汗が流れ、表情は恐怖で慄いている。


私は玉座に背を向ける形で後ろを向いた。

【お前達、死にたくなければ道を開けるがいい】


魔族達は震える体を何とか動かし、壁際に寄った。


「なっ、何を避けてるんだ馬鹿ども」

鼻の長い魔族は言うが、誰も耳を貸さない。


【見せてやろうぞ。我の本気の一端を】


私は右手を前に出し、魔力を込め始める。

城の揺れが激しくなり、天井から瓦礫が落ちてくる。

壁際に寄った魔族は、魔力の膨大さを感じてその場に腰から崩れ落ちた。


【お前達の下らない象徴を壊してくれるぞ】

【心の底から一生消えぬ恐怖を味わうがいい】



バース•デイ



私の右手から直径100メートルを超える魔法の弾が、激しい轟音と共に放たれた。


魔力弾は、12階の壁を突き破り、更にその大きさで1階部分まで全てのフロアを破壊して進み始めた。


城を抜けたとてつもなく大きい魔力弾は、一直線にヴィニシウスの象徴である魔門に向かい、衝突した。


衝突と同時に大爆発を起こし、直径1キロを超える炎が溢れ出す。

辺りは地獄絵図となった。


空から炎が舞い散り、爆風は城の中にまで押し寄せ、魔族達を吹き飛ばす。


しばらくして爆発の衝撃が収まった時、魔門は跡形もなく消え去っていた。

魔門があった場所は1キロを超える大穴が空いている。


城に関しても、私が立っている前方半分は消し飛んでいる。

簡単に言えば、1階から12階まで、左半分が無くなった状態だ。



【良い景色じゃな】

私はそう言った後、玉座の方を向いた。


そこには腰を抜かし、絶望の顔をした鼻の長い魔族と、玉座に座ったまま恐怖の表情を浮かべた魔王がいた。


私は玉座までラーラを連れて歩いた。


【そこは、私の玉座だ】

「だ、大魔王さ、ま」

魔王は呟くと、玉座から這うように移動した。


私が玉座に座ると、魔王は私の前で額を地面に着けて土下座をして来た。

吹き飛ばされた魔族達も地面を這いながら隊列を組み、土下座を始めた。


今、私の目の前には、100体近い魔族が額を地面に着けて土下座をしている。


私は玉座に座ったまま、右足で魔王の顔を持ち上げた。

魔王は恐怖で涙し、震えていた。


【この醜態はなんだ?】

「も、申し訳ありません。大魔王様」

【魔族の品位も強さも落ち、お前はあいつの企みにすら気づかなかった】

私が言うと、ラーラは鼻の長い魔族を魔王の前に放り投げた。


魔王は、私が何を言っているか分かっていないようだった。


【こやつはな、カサノヴァで人間を使い、魔鉱石を採掘させていのだ】


その瞬間、魔王は鼻の長い魔族を踏みつけた。

鼻の長い魔族の顔は破裂した。


「本当に、申し訳ありませんでした。この魔王•••」

【名乗るな】

私は魔王が名乗る前に静止した。


【貴様の名前は、今からフシアナだ】

「ふ、フシアナ•••」

【何も見抜けない、どうしようもない奴という意味だ。お前にお似合いだろう】

「こ、光栄です」


私は玉座から立ち上がると、魔王フシアナを見ながら言った。


【この名前がお前に相応なものか、不相応なものか、これからのお前次第だ】

「はい!!」


【では、ラーラ、そろそろ行くぞ】

「畏まりました」


私とラーラは12階の壊れた床から飛び、素早くドラゴンに変化したラーラの背中に乗って飛び立った。


飛び立って直ぐ【大魔王の威圧】は終了した。



「ラ、ラーラ?」

「はい。マリー様」

「さっきの私、見てた?」

「はい」

「なんか、いつもと違くて、私の意識はあるんだけど、途中から魔神ラソ•ラキティスが入り込んできたというか•••」

ラーラは何か納得したようだった。


「マリー様は、魔神ラソ•ラキティスをご存知なのですね?」

「う、うん。加護を貰ってる」

流石に会ったことがある、というのは黙っておこう。


「魔神ラソ•ラキティスは、魔王、魔族、魔物を統べる神で、大魔王とも呼ばれている方ですから、今回の魔族の醜態に腹を立て、出てきたのではないでしょうか」


に、してもだよ


「魔王城も魔門も吹き飛ばしちゃって大丈夫だったのかな?」

「問題ありません。久々の大魔王の降臨は、良い刺激になったと思いますよ」


けど、私の口を使ってあんなに恥ずかしい台詞を流暢にしゃべって。

絶対、私が話したと思ってるよね?

は、恥ずかしい•••



「マリー様。このままカサノヴァに向かおうと思いますが、よろしいでしょうか?」

私が恥ずかしがっていると、ラーラが提案してきた。

本来なら一度ラミリアでナーラ、サーラと落ち合う手筈だ。


「予定を変えるってことは、何かあるってことでしょ?」

「はい。例の魔鉱石は、直接触れるのはもちろん、近くにあるだけでも人族の意識を奪い、呪いの状態となります。

そして、その状態が続けば死に至るのです」


だとすれば、かなりまずい状況だ。

街の人はもちろん、メレディスさんの友人であり、今は幽閉されているルミナーラ姫も危ない。


「分かった。直ぐに向かおう」


私はナーラに予定変更の連絡をし、カサノヴァに向かった。


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