第15話 復元スキルと、牛丼完成

驚きで倒れそうになるのを堪え、私は全てのお金をアイテム収納に格納した。


「残り400体は、明日以降、分割で対応するわね」

レキシーさんはそう言いながら金庫に再度手を翳すと、金庫から放たれていた青い光が消えた。


階段を登って1階に上がり、ラーラ達と合流した。


「マリー様、終わりましたか?」

「うん。ばっちり」

私は右手でピースをした。


ラーラ達は首を傾げながらも、ピースを返してくれた。


バックヤードから冒険者ギルドのメインフロアに出た時には、既に暗くなっていた。

天井を見上げればすぐに分かる。

職員達がランプに明かりを灯しているが、風が吹く度に消えてしまう。


これは、建物を早々に直さないとだ


「レキシーさん、今から建物を直しますね」

「前も言っていたけど、本当に直せるの?

無理はしなくていいのよ」

「大丈夫です」


私はステータス画面を開き、『復元スキル』を確認する。

復元対象に手を触れ、復元対象年数を想像する、と。簡単な説明が書かれている。


「レキシーさん、この建物は何年前にできたんですか?」

「う〜ん、詳しくは分からないんだけど、少なくとも建てられて50年は経ってるわよ」

「50年か」


私は床に手を触れ、50年前を意識して『復元スキル』を発動。


建物全体が白く光り出した。

建物の骨格や輪郭が分からないほど白い光は強くなり、まるで白い空間に人々が立っているように見える。


やがて白い光が消えると、冒険者ギルドにいた人々から声が上がった。


「な、なんだここは?」

「酒場のカウンターが新しい」

「床も壁も綺麗なんだけど」


みんなの驚きの声を聞きつつ、私は上を見た。

そこには、空じゃなく、天井があった。


うん、成功だ


ただ、凄い魔力を消費した感じがする。

私はステータス画面を確認した。


Lv:1,005

HP:22,000

MP:31,500(64,500)


マジックポイントを半分くらい消費してる。

これは気をつけないといけないな。

あっ、青龍を倒したからかレベルが上がってる。


「マリー、ありがとうー。まるで新築よ」

レキシーさんが嬉しそうに話してくる。

「ようやく責任が果たせてよかったです」


冒険者ギルドにいたみんなから「凄い」と声をかけられた。

褒められたいから嬉しいけど、やっぱり恥ずかしい。


「マリー様はみんなに慕われているのですね」

「眷属として誇らしいです」

「誉です」

ラーラ、ナーラ、サーラが流れるように話して来た。


「そんなことないよ。自分で壊した物を直しただけだし」

私はそう言いながら3人の手や肩を引っ張り、冒険者ギルドを出た。


そういえば、もうひとつ壊した屋敷に住んでいたアイリスさんとアイラはどうしてるのかな?


そんなことを考え、元屋敷があった場所に目を向けると、明かりがいくつか灯っているのが見えた。


「ちょっと、あそこに寄ってもいいかな」

私はそう言って、ラーラ達と一緒に元屋敷のあった場所に向かった。


そこには何箇所かに設置されたランプに火を灯し、建築している大勢の人の姿があった。


私がその光景に見惚れていると、後ろから声をかけられた。


「マリーお姉様?」

そこにはアイラとアイリスさんの姿があった。

私が言葉を返そうとした時、アイラが抱きついて来た。


「マリーお姉様。無事でよかった」

「マリーさん、ご無事で何よりです」

アイリスさんが、私の後ろから抱きつきながら言ってきた。


何故に後ろから•••


「た、ただいま」

私は2人に挟まれたまま言った。


しばらくして抱擁から解放された私は、この建築現場について話を聞いた。

因みに、2人共私がドラゴンを倒し、帰ってきていたことは既に知っていた。


「大工さんや冒険者の方達が大勢集まってくれて、毎日遅くまで作業をしてくれてるんです」

「もちろん依頼はしましたが、依頼の条件以上にみなさん夜遅くまで働いて下さり、感謝しかありません」

アイラ、アイリスさんが作業をしている人達を見ながら話した。


建築はかなり進んでいて、家の枠組みや、壁の一部が出来上がっている。

枠組みを見ると、日本の凄い大きな3階建マイホーム、4個分はある。


「本当はもう少し小さなお家をお願いしたのだけれど、大工さんが許してくれなかったの」


「そりゃ、当たり前さ。

ガーネットの街の領主様のお家だ。色々なお偉いさんが来るのにそんな小さな家じゃ、哀れんで見られちまうよ」

建築現場から30代位の女性が近づいてきてアイリスさんに言った。


「彼女はここの現場監督で、タリムさん」

「屋敷を吹き飛ばしたマリーだろ?話は聞いてるよ」

どうもと言って、私は頭を掻いた。


「いや、あたいもここで作業してるやつらも、前の屋敷は気に入らなかったんだ」

「そうなんですか?」

「ラーロックのやつ、態々王都から職人呼んで、あんな品もない、ただデカい家を建てやがって」

確かに前の屋敷は石造りで大きく、明らかに街から浮いた存在で異質だった。


「だからさ、吹き飛ばしてくれて感謝してる。

それに深い穴まで空けててくれたから、立派な地下室も作れたしな」

「地下室?」

「そうなの。既に地下室は完成していてね、私達は今、そこで暮らしてるの」

アイリスさんが手で下を差しながら言ってきた。


住むところがあるんだ

よかった


「アイリスさん、あの隅の場所、少しの間、貸して貰えませんか?」

前の屋敷が大き過ぎて、まだまだ余っている土地の一角を指差して言った。


「構わないけど、何をするの?」

「家を出します」

アイリスさんとアイラ、タリムさんは首を傾げる。


私は許可をもらった場所まで歩き、『携帯ハウススキル』を発動して家を出した。


「す、凄い」

アイリスさんとアイラは両手で頬を押さえながら言った。

隣にいるタリムさんは、拳を強く握りながら体を震わせている。


「くそ、負けてらんねー」

タリムさんは踵を返し、建築現場に戻って行った。


「屋敷の完成が早くなりそうね」

アイリスさんは小さく微笑む。


私は携帯ハウスの中にアイリスさん、アイラ、ラーラ、ナーラ、サーラを招き入れた。

5人は驚きで言葉を失っている。


「携帯式なので、すぐに消せる家なので安心して下さい」

私はアイリスさんに言う。


「マリーさんなら、いつまで居てもらっても構わないわよ」

アイリスさんは私に抱きついて来る。


こ、こんなキャラだったかな•••


私は部屋の中を見渡し、キッチンがないことに気づいた。

この家は旅館タイプ。

キッチンは備え付けられてない。


よし

金はある

金はあるんや


カセットコンロを買って

寸胴を買って

そうだ

まだ建築現場で働いている人もいるし

炊き出しをやろう


私は家の外に出ると、『地球物品創生スキル』で、作業用の長机、寸胴、まな板、包丁、カセットコンロ、そして牛丼皿とスプーンを50個出した。あと、お箸も少し。


チャリーン

の音が私の耳に何回も響くが気にしない


私は手早く玉葱を切り、モウモウのお肉と共に寸胴で炒めた。

しばらくして魔法で水を出し、醤油、砂糖を加えて煮込む。


「手際が鮮やかですね」

ラーラが感心したように言う。


そう

私は日本にいた時から料理が趣味で(嘘)

いつもお母さんの手伝いをしていた(嘘)


料理なんて殆どしたことない

ただ、私には『料理スキル』があるのだ



辺りに醤油の香りが広がると、自然に建築現場の人が集まって来た。


私は牛丼皿に炊き立てご飯を出し、煮込んだ牛と玉葱を上からかけた。


遂に

遂に

念願の牛丼が完成

私の瞳から自然に涙が溢れる


涙を腕で拭いて、私は次々に牛丼を作る。


「みなさん、遅くまでありがとうございます。

私からの差し入れです。是非食べて下さい」


みんなは喜ぶと自然に行列が出来て、私は1人づつ牛丼を渡していく。

それを見ていたアイリスさんアイラ、ラーラ、ナーラ、サーラが手伝いを始めてくれた。


うまーーーい

今まで食べた料理で1番うまい

美味しいーー

病みつきになっちゃうーー


ふふふ

チェーン店が幾つも出来るほどの魅力を兼ね備えた牛丼

美味しじゃろー


悪い顔をしながら考えていると、大工さん、冒険者共に女性が圧倒的に多いことに気づいた。

この街は女性が多いのかな?

卵もあるし、あとは牛乳とかあればデザートも作れるかな?


私が一瞬手を止めていると、ラーラが慌てた様子で声を掛けてきた。


「マリー様、行列が増えています。お皿も足りません」

「えっ?えっ?」

確かに行列が増えている。

お代わりに並んでいる人もいるが、よく見ると街の人まで並んでいる。


「聖女様の思し召しをいただけるそうですよ」

街の人が話してる。

この街の情報拡散スピードときたら、SNSより高いじゃないか。


私はお皿とスプーン、寸胴を『地球物品創生スキル』で追加で出し、牛丼を作り続けた。


それから数時間、行列は続いた。



私も早く食べたいよーー!!

心の中で1人、叫ぶのであった



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