第16話 みんなでお風呂と、嫌な予感

何とか炊き出しを終えた私達は、携帯ハウスに入った。


みんな疲れた表情で畳の上に寝転ぶ


「お母様、はしたないですよ」

「あなたも同じように寝転んでるじゃないの」

「ナーラ、サーラ、あなた達、ドラゴンだと言うのに情けない」

「ラーラだってー」

5人の会話が聞こえて来る。


私は牛丼を6個作って、テーブルの上に置いた。


「お手伝いしてもらって、ありがとうございました。さっ、食べましょう」

私は5人に声をかける。


素早く体勢を起こした5人が牛丼の前に位置する。


「それでは、いただきます」

「いた、だきます」

いただきますの意味は後で教えるとして、私はお箸で牛丼を掬い、口に運んだ。



ぷはぁぁぁぁぁ



これです、これですよ


私は涙を堪えて黙々と食べる。

5人も私を見て、一気に食べ出す。


「こ、これは•••」

「王宮の料理より遥かに美味しい」

「この世の食べ物なのか•••」

みんな気に入ってくれたみい。


「あの、マリー様」

「ラーラ、どうしたの?」

「こちらの牛丼なる物、お代わりはありますでしょうか」

「あるよ、追加でいっぱい作ったから」

私はアイテム収納から牛丼の入った寸胴を出し、ラーラのお皿に炊き立てご飯を出した。


「好きによそっていいよー」

「あの、私も•••」

「なら、私もいただこうかしら•••」

「私達も」

結局、みんなお代わりを繰り返した。


ご飯を食べたら今度はお風呂だ。

私は畳の部屋の奥にある窓を開け放った。

自慢の源泉掛け流し露天風呂。


大きめの浴槽だから、6人で入れそうだ。

この世界にはお風呂という概念はあるそうだが、最小限に沸かしたお湯を使って体や髪だけを洗うのが一般的らしい。


そういえば、浴衣は5着しかない。

私は『地球物品創生スキル』で、モコモコした肌触りの良い部屋着を出した。

これも憧れのブランドの物。


ついでに、ラーラ、ナーラ、サーラの私服も出した。

エプロンを着けていたとは言え、ドレスで解体作業をしていたから冷や冷や物だったのだ。


「次はお風呂に入りますよ」

私は裸になりシャワー室で体を洗い、露天風呂に浸かった。


うぃぃぃぃ


いつも通り、変な声が出る。


「入りたい人は、今私がやった通りにお願いしますね」


5人は未知の光景に憚っているようだ。


「マリーお姉様の誘いとあれば•••」

アイラは覚悟を決めたように服を脱ぎ、シャワー室に向かった。


「お母様ーー」

「アイラ、どうしたの?」

アイリスさんが慌ててシャワー室を覗く。


「お湯が出ます。ずっと出ます」

「な、何ですって」

アイリスさんは、シャワーから出るお湯に手を翳した。

「本当だわ」

「それにこのしゃんぷー、とっても気持ちいいです」

アイリスさんはいったんシャワー室を出て、躊躇うこともなく服を脱ぎシャワー室に入った。


それを見て、ラーラ、ナーラ、サーラも服を脱いでシャワー室に入った。


いや、5人も入れないだろう


シャワーをなんとか終えた5人は、露天風呂に体を浸ける。


うぃぃぃぃ


5人が声を上げる


「そこは真似しなくていいんだよ」

「真似といいますか、自然と漏れてしまいました」

ラーラの発言に、みんなが恥ずかしそうに同意する。


「お姉様、このお風呂は凄いですね。

何か普通のお湯ではなく、体に染み込むような」

「これは温泉って言って、お肌にとっても良いんだよ」

私が言うと、5人は手でお湯を掬い、顔に当てていた。


「そういえば、この世界には小麦粉と牛乳、蜂蜜はあるのかな?」

私は今後のデザート作りのため、5人に聞いた。


「小麦粉と蜂蜜は街でいつでも買えるわよ」

「マリー様の言う牛乳かは分かりませんが、モウモウのミルクは存在します」

アイリスさんとラーラが答えてくれた。

とりあえず、小麦粉と蜂蜜はゲット


「モウ乳ってことは、やっぱり流通してないんだよね?」

「はい。モウモウ自体が赤竜の縄張りに生息してますので」


でも、私なら乳搾りに行ける


「これでまた、美味しい物を作ってあげられるかも」


5人が一斉に立ち上がり、私に次々と質問を飛ばす。



いや、あなた達

素っ裸ですよ



お風呂を終えた私達は、2階に移動し、寝る準備をする。

アイリスさん、アイラも泊まっていくようだ。


5人は浴衣を着ているが、何故だろう。

スタイルがいいからか、日本人の私より似合っている気がする。


まぁ、私はモコモコだし、いいんだ


「ベッドは3つしかないから、ベッド 1つに2人づつね。私は真ん中に寝るから」

私は真ん中のベッドに飛び込む。


「では、私も真ん中にしましょう」

「マリー様をお守りするには、近い方が良いでしょう」

「妹として、やっぱりお姉様と寝ないと」

「私達が両側から守りましょう」


話し合いをする訳でもなく、5人は私のベッドに潜り込もうとする。


ちょと、ベッド は空いてるのに

みんな真ん中がいいのかな


「みんな真ん中が良いなら、私は隣のベッドに行くよ」

「マリー様はそのままでお願いします」

「仕方ありませんわね。2人づつ交代にしましょう」


何故かラーラとアイリスさんが私の両脇に入ってきた。

そして、炊き出し作業の疲れもあったのか、光の速さで寝てしまった。


狭いけどしょうがない

私も諦めて眠りについた



翌朝、アイラに小麦粉と蜂蜜の調達を頼み、私は転移スキルでモウモウの生息地に行った。


いるいる

たくさんいる

今こそ、ファザー牧場で鍛えた私の乳搾りの妙技を見せてあげる


私は魔力を全力で解放すると、その魔力に怯んだモウモウが固まって動かなくなった。

ラーラから聞いた方法(ラーラの場合は雄叫びをあげるらしい)、うまく行ったみいだ。


固まったモウモウの乳を搾っては次、絞っては次と、寸胴いっぱいになるまで搾り続けた。


搾り終わると、私は転移スキルで携帯ハウスに帰った。

少し経てば、モウモウは再び動き出すらしいので、そのままにしてきた。


アイラから小麦粉と蜂蜜を受け取った私は、ホットケーキ作りを始めた。

小麦粉とモウ乳を混ぜ、ベーキングパウダーを入れる。


なんと、ベーキングパウダーは食べ物カウントされないのか、『地球物品創生スキル』で出すことができたのだ。


次いでに、ドライイーストとホームベーカリーも『地球物品創生スキル』で用意した。


青龍騒ぎも建物吹っ飛ばし問題も終えた今、時間はたっぷりある。今度、パンも作るつもりだ。


「甘い香り、お姉様これは何を作っているのですか?」

「ホットケーキだよ、妹くん」

私はフライパン(これもスキルで出した)でホットケーキを焼きながら答える。


「できたー。後は蜂蜜をかけて食べるんだよ」

5人は手にナイフとフォークを持って、テーブルに待機している。


「では、いただきます」

コンコンッ


「いただきます」と同時に、携帯ハウスのドアがノックされた。

ドアの向こうでは、「奥様、アイラ様、マリー様、大変でございます」という、アイリスさんの執事さんの声がした。


平穏な時間が

ホットケーキが

パンが


私は深いため息を吐きつつ、携帯ハウスのドアを開けた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る