第12話 浄化と、肉 肉 肉

「ラーラの背中に乗って、頂にいけないかな?」

「お安い御用です」

ラーラはそう言うと、私に背を向けて腰を下ろした。


「どうぞ」

なんでやねん

心の中で突っ込む


「そうじゃなくて、ドラゴンの姿になってもらって、背中に乗せてもらえないかなって」

「そうでしたか。失礼しました」

ラーラは私から距離を取ると、ドラゴンの姿に変化した。


私は思い切りジャンプして、ラーラの背中に乗った。

このジャンプ力、私って一体•••


ナーラとサーラもドラゴンに変化すると、山の頂に向かって一気に上昇した。


高山病とか、大丈夫かな。


かなりのスピードで上昇しているにも関わらず、私自身に風の影響はあまりない。

目も普通に開けていられる。


『マリー様に風圧がかからないよう、気流を操作しています』


おぉー、なんと器用な


5分程上昇した所で、山の頂が確認できた。

私の思っている頂とは大分異なり、火口部分の周りに広大なスペースがある。


その広大なスペースの一角に、ドラゴンが2体、倒れているのが目に入った。


私達は倒れているドラゴンのすぐ傍に降りた。

火口から熱波がきているためか、体感的には肌寒いものの、我慢できないほどではなかった。


私はラーラの背中から飛び降り、倒れている2体のドラゴンに触れた。

もう、息はしていなかった。


『悲しみは消えませんが、マリー様に仇を取っていただいたことで、父も母も浮かばれるはずです』

ラーラが儚げに言った。


『魔石を御所望でしょうか?』

「ううん。ラーラ達、ちょっと私から離れていて」

『畏まりました』

ラーラ達は、ズシン、ズシンと私から距離を取った。


安らかに眠って下さい。

私は手を合わせながら言った。


よし

私は気合いを入れ、浄化魔法の準備(心の)をした。

また、詠唱が必要なのだ。


私は両手を倒れているドラゴンに向け、詠唱を始めた。



陰の力ありしところ、光の力あり

今ここで相重なり、互いの力を解放せよ



グラン•ピュア



グラン•ヒールと比べものにならない強い光が、ドラゴン達を包み込む。

光はそのまま回転を始め、更に眩い光を放つと、2本の光の柱が天に向かって架けられた。


2体のドラゴンはゆっくりと光の柱を登り始める。


ありがとう•••


声が聞こえた瞬間、ドラゴンは一気に天を登り、光の柱も消えた。


大きな音を立てて、ラーラ達が私の元へやってきた。


『マリー様。ありがとうございました』

『父と母の声を、最後に聞くことができました』

『とても、安らかな声でした』

3姉妹からそう言われた私は、温かい気持ちになった。


「それじゃ、私は帰ろうかな」

『どちらに帰られるのですか?』

「ガーネットの街だよ。みんなに早く報告しないといけないし」

『報告?ですか』


私は青龍の炎が街まで飛んできて被害が出ていたことや、それを解決しに来たことを説明した。


『そうだったのですね。ご迷惑をお掛けしました』

「悪いのは青龍だから」


『あの、マリー様』

「ん?」

『我々もガーネットの街に同行してもよろしいでしょうか?』

「街に?この山を守ってなくて大丈夫なの?」

『危険が迫れば察知できますし、それに私達はマリー様に生涯を尽くすと誓いをしましたので』


生涯、尽くすとは•••

なかなか重い


「尽くすとか、誓うとかじゃなくて、友達になろう」

『ともだち?』

「そう。何でも話せて、何かあったら助け合って、みたいな関係かな」

『ともだち。今はまだ全てを理解できませんが、ともだちとなり、マリー様を助けることを誓います』


何か違う

いや、全然違う気がする

まっ、ここは時間をかけるしかないかな


「じゃ、友達ね」

私は順番にラーラ達の指先に触れた。

ドラゴンのままでは、流石に握手はできないからしょうがない。


「それでは、みんなで帰ろうー」

そう言った私だったが、ある部分に目を奪われて止まった。


お祝いの捧げ物に使われていたと思われる食べ物。

その中に、牛肉にしか見えない大きなブロック肉が供えられている。


お供物に反応するなんて

とんでもなく不謹慎

分かってはいるけど

私は異世界に来てから3日

ほぼ白米しか食べてない

もう、限界だった


「ラーラ、あそこに供えられているお肉は、何のお肉なのかな?」

『あちらはモウモウという、白と黒の体をした魔物の肉です』


魔物という気になるフレーズは出たが、間違いなく牛だ。牛で合っていて。


「ラーラ、ナーラ、サーラ、行くよ」

『どちらへ?』

「モウモウを食べに、違う違う、モウモウを倒しに」

『分かりました。モウモウはこの先の草原を縄張りとしています』


肉、肉、肉

醤油もある

ん?

こっちの世界には玉葱がある

なら、あと砂糖さえあれば


「ラーラ、この世界には砂糖ってあるの?」

『あの茶色く、甘いものでしょうか?』

「多分、それだと思う」

砂糖もある、私は期待に胸を膨らませてラーラの答えを待つ。


『砂糖は、この近くの赤竜の縄張りに生えているイネから作ることが可能です。

赤竜の縄張りということで、人族の間ではあまり出回らず、あってもかなり高額だと聞いたことがあります』


きた

きたよ、これは


私は砂糖に出会うため、竜の山脈に来たのかもしれない(街のみんな、ごめん)。


これでできる

牛丼が!!


「私とラーラはモウモウ狩り。ナーラとサーラは砂糖の採取をお願いできる?」

『お安い御用です』

ナーラとサーラは声を合わせて返事する。


「よし、行こうー」

私はラーラの背中に飛び乗りながら言った。


山の頂から下降しながら進むと、目の前に草原が見えて来た。


探知スキルにも反応が出た。

んっ?

数が多い。

判別スキルを使う

モウモウ ランクB


「ランクB!!」

『モウモウは獰猛な魔物で、人族では早々退治することはできません。

もちろん、マリー様や私であれば造作もないことですが』


赤竜の縄張り、ランクB、冒険者は易々と近寄れないだろうし、自由に繁殖できちゃうのか。


これは好都合


私は地上が近づくとラーラの背中から飛び降り、モウモウに向かって走り出した。


お、大きい


私が知ってる牛さんの3倍はある

しかも、角もある


モウモウは私に気づくと角を向けて突進してくる。

巨体なのにかなりスピードが速い。


私はモウモウの突進をジャンプしながら横に躱し、そのまま脳天に踵落としを見舞った。

モウモウは白目を剥き、息絶えた。


続けてもう一体が同じように突進してくる。

私は正面から迎え入れ、右手の手刀でモウモウのこめかみを攻撃。

モウモウは横に大きく吹き飛び、息絶えた。


よし、次


と思ったが、辺りにモウモウがいない。


『マリー様が戦っている最中に他のモウモウは逃げ出しました。

マリー様に恐れ入ったのでしょう』


いや違う

絶対ラーラの所為でしょう

そりゃ、ドラゴンが来たら逃げるよね


「まっ、いいか。2体とはいえ、牛6匹分はあるし」


私はアイテム収納にモウモウを格納した。

ここに入れておけば、時間の流れが止まるから痛むことはない。


『ナーラとサーラも終わったようです』

「分かるんだね」

テレパシーみたいなものなのかな?

私のスキルにも似たようなものがあった気がする。



私達はナーラとサーラと合流した。

そこには1メートル程のサトウキビが山のように積まれていた。

もちろん、アイテム収納に格納。


私はニヤついている

自分でも分かるほどに


これでてきるんだ

牛丼が


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