第11話 フランス料理と、ドラゴン退治

う〜ん


私はまだ目の前の山を見上げている。

標高が高くなれば気温も下がるし、セーラー服では難しい。

かといって、登山用具を地球物品創生スキルで買うお金もない。


一気に走り抜ける

もしくは、風魔法をうまく使って空を飛ぶ?


う〜ん



ドッカーーーーン


悩んでいると、頂上の方から大きな爆発音が聞こえた。

距離があるのか探知スキルに反応はない。


ガン

ガンッ


爆発の影響か、頂上から岩が崩れてくる。

私は岩を躱しながら様子を伺う。

刹那に雲の一部に黒い影が見えた。

同時に探知スキルに8体の反応が表示される。


赤竜:3体

青龍:5体


黒い影は雲を突き破り、地上に向かって飛んでくる。

いや、飛んで来てるのではなく、あれは落ちてきてるんだ。


私から100メートル程離れた場所に赤竜1体が落下し、轟音と同時に砂埃が舞った。

砂埃が落ち着くのを待って赤竜に近づくと、弱々しく体を震わせ、目を閉じたり開いたりしている。

赤竜は想像より遥かに大きく、50メートルはありそうな巨体をしている。


近くにいる私の存在に気付いても、体が動かせず、苦しそうにしている赤竜を見て切なくなった。


回復、してあげようかな


その時、先ほどまで明るかった私の頭上が陰に覆われ、暗闇になった。

私が上を向くと、上空に赤竜2体、青龍5体の姿があった。


赤竜2体が私の横にいる赤竜の元に降りて来た。


『シーラ』

赤竜が話した。


ドラゴンって、話せるんだ


驚く私を赤竜が睨んできた。

『人族よ。今すぐこの場から立ち去れ!!』

「あの〜•••」


私が赤竜に話しかけようとした時、上空にいた青龍から炎の塊が放たれた。


至近距離からの攻撃

結界では心配だ


「アイス•フラッシュ」

私は両手から氷の閃光を放った。


上空で炎の塊と衝突し、辺りに爆風を巻き起こして相殺となった。


『虫ケラよ。我が誇り高き青龍の邪魔をするとは、死んで償え』

「私は3日前に死んでるんだから、もう懲り懲りだよ」

上空にいる青龍に言うと、今度は地上にいる赤竜に向かって話しかけた。


「あのドラゴンは仲間じゃないの?」


赤竜は私を品定めしているかのように、静かに見つめてくる。

その目は力強いが、赤竜は明らかに苦しそうにしている。


『青龍は我が敵だ。ここにいると貴様の命の補償はできぬ。

直ちに立ち去るがいい』


意外に良いドラゴンさんなのかな?

魔眼スキルを使用しても、人間じゃないからなのか、何も読み取れない。

う〜ん


悩んでいると、青龍5体から一斉に炎の塊が放たれた。

私は両手を自分の前に向け、先程より強く魔力を込め出した。


「アイス•フラッシュ」

私の両手から大きな氷の閃光が放たれ、5個分の炎の塊を相殺した。


『お前は、何者なのだ?』

赤竜がどこが慌てた様子で聞いてくる。


何者?

冒険者登録をしてないから冒険者とは言えない。

学生です?

いや、何か違う

そういえば、私、身分を証明できる学生証も保険証もない。


家もない

お金もない


私は頭を抱えて考え込む


『人族よ。言えない事情があるのだな』

「言えないというか、証明するものがないというか」

『案ずるな。無理には聞かぬ。ただ、我の仇を取ってくれぬか』

「仇?」

『我らには、青龍を倒せる力が残っておらん。もう直ぐ力尽きるであろう。

だか、我が生みの親を殺されたままでは死にきれん』


親が殺された

私の体に何かが走る


『我ら赤竜は山脈の左を、青龍は右の山を司っている。

だが、青龍は左の山をも奪おうと、我の生みの親を殺した』

私は両手の拳を強く握りしめた。


ドラゴンだから、人間だから、そんなの関係ない。

意味もなく何かを傷つけるなら、私は許せない。


『お前らもここで死ぬのだ』

上空にいる青龍が凍えるような、冷たい口調で言った。


『ぐっ、卑怯者め。恥を知るが良い』

『赤竜ごときが、祝いなどしているからだ』

「卑怯とか、祝いって、どういうことなの?」

私は赤竜に問いかける。


『赤竜には、番つがいになり100年経った暁に、先代竜に祝いを捧げるのが習わしなのだ』

赤竜は目を見開くと続けて話す。

『青龍共は、祝いの捧げ物、竜酒に火竜の毒を盛ったのだ。生みの親、父と母は生き絶え、我ももう動けぬ•••』

そこまで話すと、赤竜は倒れた。

話を静かに聞いていた後方の赤竜もほぼ同時に倒れ、私の周りには3体の赤竜が倒れている。


『くだらぬ習わしに囚われるから足元を掬われるのだ』

青龍は笑う。


「ドラゴンって、アニメではもっと高貴な生き物だと思ってたけど•••」

私は青龍を睨んだ。


「低俗なドラゴンもいるんだね」


『人族ごときが。貴様も赤竜の番と同じように苦しめて殺してやる』



ゾワッ



私の全身が逆立ち、辺りの木々が激しく揺れ出した。


お祝い

私の両親が結婚10周年を迎えた日、小学生だった私は、初めてフランス料理を食べに行った


小学生の私を、お店の人は温かく迎え入れてくれた


両親も楽しそうに、いつも以上に笑顔だった


胸元に葡萄の綺麗なバッジを着けた男の人が、両親に今日はお祝いだから特別なお酒を用意したと話していたのを覚えている


ぐりゃん、くりゅう?

そうだよ、グラン•クリュと言って、

特別な畑で作られたお酒なんだよ


私の問いかけに優しく答えてくれた


両親はグラスに注がれたお酒を、嬉しそうに

そして

もう、見ることはできない優しい笑顔と共に飲んでいた


私も、大人になったら一緒に飲みたかったな



【大魔王の威圧】が発動した



【くだらない下等ドラゴン】

【跡形もなく吹き飛ばしてあげる】


『なんだこの圧迫感と力は』

『一度、山の頂に戻るか』

青龍達は戸惑いの中、相談を始める。


【卑怯者のドラゴンらしいわね】

【逃げることに何も抵抗がないんだから】


『貴様ー!!』


私は世界をも突き刺すような冷たい瞳で青龍達を睨んだ。

狼狽する青龍は、苦し紛れに炎の塊を放つ。


【くだらない炎ね】

私はそう言うと右手を前に出し、全力で魔力を込める。

大地が揺れ、大気が震える。

炎の塊は大気に吸い込まれ、そのまま消失した。


【お前達の山もろとも、吹き飛べ】



グラン•クリュ



激しい閃光が放たれる


『がっ、ぐ』

青龍は閃光に飲まれ、声が出せない


そしてそのまま消滅した


私の前には、閃光によって一切の雲が無くなり、右側の山が吹き飛んでいる光景が広がっている。

山は、元々雲を突き抜ける程の標高だったが、今はどう見ても100メートルもない。


ふぅ〜


ひとつ息を吐くと、後ろに倒れている赤竜を確認した。


まだ辛うじていきている。


まずは毒を取り除く


グラン•リムーヴ


そして

シン•アントワネットの名の元に、癒しの精霊達を、我、マリー•アントワネットに力を与えよ。


グラン•エリアヒール


赤竜達を包み込む光が消えると、3体とも体を起こした。


『人の子よ、感謝する』

「間一髪だったね」

私は顔を限界まで上に向け、赤竜の顔を見ながら話した。


赤竜達はお互いの顔を見ると、何やら合図をした。

次の瞬間、みるみる体が小さくなり、そして人間の姿になった。

3人?とも綺麗なドレス姿で、何よりお胸に目がいってしまう。


大きい

別に私が小さい訳じゃないし

成長期だし

でも、大きくなる秘訣を知りたい


「私は、赤竜長女、ラーラ」

「私は、赤竜次女、ナーラ」

「私は、赤竜三女、サーラ」


私は目線をお胸から3人の顔に向け自己紹介した。

「マリー•アントワネットです」


「この度のこと、赤竜を代表してお礼を申し上げます。

今後、赤竜一族は、マリー様の眷属となり、生涯を尽くすことを誓います」

ラーラはそう言って、頭を下げる。


「いや、もうそんな。私なんて」


ドンっ

ドドンっ

ドドンっ


私が困っていると大きな音と共に、何かが降って来た。

降ってきた物を確認すると、2メートル位あるキラキラと青く光る宝石のようなものが5つあった。


「これは、青龍の魔石です」

「これが魔石なのか〜」

「人族ではドラゴン討伐の証と共に、高値で売れると聞きました」

何か心情複雑な説明をしてもらったような。


「私が貰ってもいいんですか?」

「もちろんです。マリー様が討伐されたのですから」

私はアイテム収納に魔石を5つとも格納した。


「よければ、山の頂にある、父と母の魔石、必要とあれば竜の皮膚も貰って下さい」

「いや〜、それはどうかと•••」

「朽ち果てるだけならば、せめてマリー様にお役立ていただければと」


「お父さんとお母さんの遺体は山の頂にあるんですか?」 

「はい」


私は少し考えてから言った。


「私を頂まで連れて行ってくれませんか?」




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