第10話 初めての野営と、また無一文

メレディスさん達と別れ、私は更に数時間走り続けた。

辺りは既に暗くなっていた。

ステータス画面に表示されている時間は20時21分。

竜の山脈までは、あと2時間(私が走って)の距離まで来ている。


よし

今日はここまでにしよう


私は街道を逸れ、開けた場所を探す。

この世界は、街道、森しかないのかな?と思うほど同じ景色が続く。

森の中では、『携帯ハウス』スキルで家を出そうにも木が邪魔で出せない。

かと言って、一時的な家のために木を切るのも気が引ける。


森を5分程進んだ所で、小さな草原のような場所に出た。

ここまで遮るものがないと逆に心配だが、『魔除け』スキルを使えば大丈夫だろう。


私は探知スキルを使用しているにも関わらず、辺りをキョロキョロと確認する。

誰もいないと分かっていても、14歳の女の子が1人で野営(気持ち的に野営)するんだから、最後は自分の目で確認するのだ。


私は『携帯ハウス』スキルを発動した。


その瞬間、2階建ての旅館のような家が現れた。

旅館は旅館みたいだけど、これはもしや、私の憧れのヴィラタイプでは•••


恐る恐る引戸を開けると、玄関の奥に広々とした畳の空間が広がり、奥には曇っている窓が見え、同時に水の流れる音が聞こえる。


まさか


私は靴を脱いで窓まで向かい、一気に開け放った。


そこには木(檜と予想)で作られた大きめの浴槽と、温泉(予想)が流れ、良い音を奏でている。


源泉掛け流し温泉(露天風呂)付きのヴィラタイプお宿

スキルでなければ、一泊いくらするのか•••


私はその場で服を脱ぎ、温泉に飛び込んだ。

露天風呂の横にはシャワー室もあるけど、1人だし、マナーの悪さは目を瞑ろう。


う、うぃぃぃぃ


湯加減はちょうど良く、この2日間の疲れが癒やされ、変な声を出す。

あぁ、熱海には行けなかったど、異世界で温泉に浸かれるとは。


私は天井を見ながら幸せを噛み締めていると、電球に目が行った。

そういえば、電気が点いていて明るい。

どかこから電力が来ているのか、「異世界電力?」。


ぼーっと考えながら30分程温泉に浸かると、シャワー室で体と髪を洗い、畳の部屋に戻ってきた。


現状、素っ裸


露天風呂の外は目隠しされているので覗かれることはないと思うが、どうしたものか。

考えていると、玄関横にある棚に目が行き、下駄箱かな?と思いつつも開けてみた。


そこには5着分の色違いの浴衣が入っていた。

これは至れり尽くせり。

私は黄色の浴衣を手に取り着てみた。

良い感じだ。

日本人である、あったことを再認識する。


しかし、困ったことはある。

下着だ。


クリーンスキルで綺麗にできるとは言え、上下1セットの下着を使い回すのは気分的に嫌だ。


そうだ

『地球物品創生スキル』で下着を出せばいいんだ。


ここには私だけ

大人っぽく黒い下着、いってみよう


目の前に現れた黒い下着に照れながら、私は浴衣を着た状態のまま履いた。


ん?

これができるなら、夢のあれも出せるんじゃ


私は地球物品創生スキルを発動し、頭の中で想像した。


本当に現れた

夢の『SSKⅢ』の化粧水と乳液


いいんですか?

本当に私みたいな中学生が使っていいんですか?


お母さんも何度も「購入ボタン」を押しては、「確認画面」で戻るをしていたこの『SSKⅢ』を。


私は化粧水を手に多めに滴らし、顔に浸けた。

肌に吸い込まれていく、これが大人の化粧水。


ふぃーーー


肌に集中していると、頭の中で『チャリーン』と小さく聞こえた。

そういえばこの音、前にも、いやさっきも聞いた気がする。


私はステータス画面を開いて確認する。


こ、これは


急いでアイテム収納から盗賊討伐の報奨金が入った麻袋を取り出した。


か、軽い

あんなに金貨や銀貨がはいっていたのに1枚もない


私はもう一度ステータス画面を開き、残高0円を見た。

その横に購入履歴のボタンがあったので、覚悟を決めて押した。


▪️犬小屋 150,000G ×4

▪️下着  100,000G

▪️SSKⅢ 300,000G


合計 1,000,000G


このスキル

無料じゃなかった


それにしても高くないか


この世界の相場は分からないけど、1G1円とすると、地球の10倍•••


配送料?

人件費?


また無一文


宿代や炊き立てご飯、味噌代は取られてないから無一文でも行き倒れることはないか


それでも、次から『SSKⅢ』はちょっとづつ使おうと決めた


炊き立てご飯を食べて(もちろんお菜なし)歯を磨き(旅館ノベルティ)、2階に上がると、3つ置かれているベッドの真ん中に飛び込んだ。


私はすぐに眠りについた。



翌朝、日の出と共に出発した私は、予定通り2時間程で竜の山脈に着いた。


目の前には大きな山が聳え立ち、頂上は雲の上にあるらしく、当然ながら全ての姿を確認することはできない。


私は今、顔を上に向け、その圧倒的な山を見上げている。


と、登山

セーラー服で登山?

どう考えても無理だ


どうしよう


私は呆然と立ち尽くした。



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