第9話 女子の嗜みと、女子の味方

みんなに見送られ、私はガーネットの街を後にした。

門の前ではまだ皆んなが手を振ってくれているのが見える。


私は手を振り返すと、一気に走り出した。

そして、数キロ走った所で止まった。

私は探知スキルを使って、周辺に誰もいないことを確認すると、街道を逸れ、森の中に入った。


ご飯もそうだが、もうひとつ私には我慢できないことがある。


昨日、異世界に来てから、もっと言えば死んでから、私はお風呂に入ってない。

いくら14歳の中学生でも、1日半、お風呂に入っていなければベトベトなのである。


とりあえず、本格的なお風呂は夜まで我慢するとして、私はステータス画面を開き、『クリーンスキル』を発動した。


お、おおー

身体中が心地よい水に包まれていく。

実際は私の目に水は見えていないので、そう感じているだけなのかもしれない。

それにしても、温水プールの上に浮いているような、なんとも言えない心地良さだ。


1分程でクリーンスキルは終わり、私は自分の体と髪を触ってみた。

すべすべだ。

良い香りもする。

おまけに一張羅のセーラー服も、靴も綺麗になっている。


そうだ次いでに『防護スキル』も発動しておこう。

これで一張羅は守られるはず。


「よし!!」

私はそう言うと、森からまた街道に戻り、走り出した。


時おり魔物と遭遇するが、何なく倒し、また進む。

今のところ、Cランクまでの魔物としか遭遇していないが、それにしても数が多い。

異世界ではこんなものなのかな?


基礎能力を向上しているためか、全然疲れを感じない。

私は休憩をせずに数時間走り続けた。



日が傾き辺りが暗くなり始めたころ、探知スキルに26の人の反応を確認した。

判別スキルには何も表示されない。

望遠スキルで26人を確認すると、20人は盗賊のような格好をしていて、残りの6人を取り囲んでいる。



盗賊じゃないのかな?



私は100メートル程手前で止まり、木陰に隠れた。


20人側は全員男性で、6人側は全員女性。

20人の内、10人だけが6人と戦っている。

いや、6人の内、2人はその場に倒れているから、実質4人で戦っている。

4人が馬車を背にしているからなのか、残りの10人はニヤついてるだけで戦いに参加していない。


魔眼スキルを使うと、盗賊風の男20人は真っ黒だった。


私は一直線に走り出し、女性達の前に位置した。

男達も女達もいきなり現れた私に驚きの表情を浮かべていた。


「き、貴様。どこから現れた!!」

ボス風の男が言う。


どこからと言われても、普通に走って来たのだけど。


「あなた達に聞きたいんだけど、どうして女の子を虐めてるの?」

「ガキには関係ない」


ふむ

私は少し後ろを向いて、女性軍を見た。


女性達の内、倒れている1人を含めて5人は鎧を着て、剣を所持している。

もう1人は綺麗なワンピースを着ている女性がお腹から血を流して倒れていた。


「あなた達は、悪い人じゃないよね?」


倒れていない4人の女性は戸惑いつつ、お互いで目配せをした。


「無論、善人だ」

4人の女性の内、私の直ぐ左後方にいる女性が答えた。


「なら、私はあなた達の味方になるよ」


私はそう言うと前に飛び出し、盗賊風(1)の鳩尾にパンチをした。

続けて、横に飛び盗賊風(2)の鳩尾にキック。

盗賊風(1〜2)は声を上げる間も無く、泡を吹いてその場に倒れる。


「このガキー!!」

盗賊風(3〜10)が剣やナイフを持ち、私に切り掛かってくる。


私は攻撃を交わしつつ、パンチとキックを繰り出すと、盗賊風(3〜10)もその場に倒れた。


無駄に多いな


私は両手を前に突き出すと、10本の指に力を込めた。


アタミ(極小)


10本の指先から炎と光に包まれた魔法が放たれ、盗賊風(11〜20)に直撃した。


「ぐわーー」

炎と光に包まれた男達は、断末魔の叫びを上げた。


あ、あれ?

(極小)でもまずかったのかな。

死んでないよね?


私は体が黒く焦げている10人と、泡を吹いて倒れている10人に対し、拘束スキルを使用した。


それから倒れている女性2人の元に向かった。

2人ともまだ息をしている。


「あ、あの、あなたは?」

先程、善人宣言をした女性が私に話しかけてくる。


「ちょっと、待ってて」

私は彼女を静止すると、詠唱を始めた。


シン•アントワネットの名の元に、癒しの精霊達を、我、マリー•アントワネットに力を与えよ。


グラン•エリアヒール


私の体から光が放たれ、倒れている2人を包み込んだ。

光が消えると、ほぼ2人同時に目を開けた。


「メレディス様ー」

「イグニスー」

4人が2人に駆け寄る。


「私は、助かったのですか?」

「これは一体?」

戸惑う2人に、駆け寄った4人がこれまでの経緯を話している。


その間に

この20人はどうしたものか。

竜の山脈までまだ距離があるので先を急ぎたい。

6人に任していいのかな?

けど、それはそれで心配。


私が考えていると、後ろから話しかけられた。


「この度は、私達の命を救っていただき、ありがとうございました」

メレディス様と言われていた女性が瞳に涙を浮かべながら言ってきた。


お腹の広範囲に血が付いている。

きっと怖かっただろうな。


「助けられてよかったです。私も嬉しいです」

私の言葉に、メレディス様?は目を開いて驚いたような表情をした。


「あなたは、とても綺麗な心を持った方なんですね。私はメレディスと申します。

お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「マリー•アントワネットです」

「マリー•アントワネット•••様、名前まで美しいのですね」


正直、複雑です


メレディスさんの横に5人の女性達が並んだ。

「私はカルラと申します。

ここにいる5人でメレディス様の護衛を務めております。

この度の御助勢、心より感謝いたします」

カルラさんがそう言うと、5人が跪こうとした。


私は5人より先に跪き

「何とぞ、お気になさらず」

と言った。


「あ、いや、ですが」

「いいのです」

可笑しな言葉遣いになってしまったが、無事跪きは回避できた。


「あの、私は用事があり先を急ぐんですが、この男達をどうしたらいいか悩んでいて」

私の言葉にカルラさん達はその場で軽く話し合い、答えてくれた。


「この先にハミングという街がありますので、援軍を呼びに行こうと思います」

「ということは、何人かはこの男達とここで待機するということですね?」

「はい。ハミングへは私を含めた2人で行こうと思っています」


話を聞いた私は、男達まで近づくとステータス画面を開き、取っておきのスキルを発動した。


『地球物品創生スキル』

これは、地球にある物品を創生できるスキル。

ただし、食べ物や生き物は対象外。


私は地球物品創生スキルで犬小屋を創生。

犬小屋といっても小型犬用ではなく、ドーベルマンが入るような大型犬用。

本当は牢屋を創生したかったんだけど、うまく想像できなかった。

お世話になったことないし。


「4つで足りるかな」

私の前に4つの犬小屋が並んだ。

後は盗賊風を閉じ込めるだけ、なんだけど。


うぇぇぇ


黒焦げと口から泡を吹いてる男達

触りたくない

牢屋収納なら自動で閉じ込められるのに


「マリー様、これは一体。どこから現れたのですか?」

カルラさんが不思議そうに訪ねてくる。


「牢屋代わりに私のスキルで出したんですけど、どうやって運ぼうかと」

「それでしたら、私達にお任せ下さい」

カルラさんが残りの4人に声を掛け、次々と男達を犬小屋に入れて行く。


「マリー様。完了しました」

「ありがとうございます。本当に、本当に助かりました」

「??•••、いいえ、助けられたのは私達ですので•••」


違う意味で助けられたのは間違いなく私です。


「あっ、そうだ。これを渡しときます」

私は南京錠の鍵を渡した。

「これは、この牢屋の鍵ですね。確かに受け取りました。それとマリー様、相談がございます」

「何ですか?」

「本来であれば、この輩を倒したのはマリー様ですので、回収した剣等はお渡しすべきなのですが、メレディス様を襲った輩の正体を調べたく、一度、預からせていただけないでしょうか?」


戦利品の扱いということか


「大丈夫です。預けるというか、私はいりませんので」

「しかし、それでは」

「本当に気にしないで下さい」


触りたくないんです



「私はそろそろ行きますね」

私はそう言って6人を見つめると、いつもより強い魔力を込めてバリアスキルを使った。


「こ、この光は?」

「私のバリアスキル•••、加護みたいなもので、大抵の攻撃は弾いてくれるはずです。数日は効果が維持されると思います」

「マリー様は色々な力をお持ちなんですね。何から何まで、本当にありがとうございます」

カルラさんが深々と頭を下げる。


「全然大したことではありませんので。それじゃ、私は行きますね」

「待って下さいませ」

メレディスさんが慌てて声を掛けてくる。


「何か、お礼をさせて下さい。この場では大したことはできませんので、一度、城までお越しいただけないでしょうか?」

「本当にお構いなく。女の敵を倒しただけですから」

私はまだ引き下がろうとするメレディスさんをやんわり退け、「それでは」と言い残し、走り出した。



お城だなんて

すごい良いとこのお嬢様なんだろうな


そんなことを思いながら、私は先を急いだ。




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