第8話 結界スキルと、お姉様



「隕石って?」

私はアイラに尋ねる。



「私達はそう呼んでいます。ただ、詳しい人の話では、ドラゴンの息吹だと」


確かミアもそんなことを言っていたような気がする。



「今までもこんなことがあったの?」


「いいえ。以前にこのようなことはなく、ここ1ヶ月程の話です」



私はMAPスキルを使って、エネルギーの塊が来た方角を調べた。

この街に落ちるということは、かなり高い場所から放たれていると思われる。


エネルギーの塊が来た方角を遡っていくと、遠く離れた場所に二つの大きな山が連なった山脈が確認できた。

他に高い場所は確認できない。

ここから放たれてる?


「アイラ。大分距離はあるんだけど、向こうの方角に山脈があるのを知ってる?」

私は指差しながら言った。


「知ってます。誰も行ったことはありませんが、竜の山脈と呼ばれています」

「ビンゴだね」

「びんご?」

「ううん、何でもない」


それよりあのエネルギーの塊、街まで数百メートルのとこまで迫ってる。

予想よりかなり速いスピードだ。


私は教会の部屋から飛び出し、外に出た。

そこには目視でも炎の塊が迫っているのが確認できた。

街の人達は悲鳴を上げながら逃げている。


この街全体にバリアスキルはできるのか?

それとも屋敷を吹き飛ばした時のように障壁をするのがいいのか?


ステータス画面を開き、更に良さそうなものを確認する。


結界スキル


バリアスキルより範囲も広く、障壁よりも効果が高そうだ。


私は急いで街全体に結界スキルを発動した。

優しい光が街を包み込んだ。

これで大丈夫なはず。


ダメな時に備えて『熱海』

じゃなくて、『アタミ』もいつでも放てるよう準備しておこう。


「マリーさん」

「聖女様」

教会からアイラ達が出てきて、心配そうに私を見つめている。


「大丈夫だよ」

私は親指を立てた。

この世界で、中指を立てる、みたいな意味がないことを祈る。


炎の塊が近づき、更に街全体が震える。


「今までの大きさじゃない。これは大き過ぎる」

ベッドから抜け出して来たであろうアイリスさんが炎の塊を見ながら呟く。



ドッ

パーーーーン


大きな音と共に、炎の塊は消滅した。

どうやら、結界が勝ったようだ。


「マリーさん」

「聖女様」

「マリーお姉ちゃん」

「女神様」


色々な呼び方と同時に、みんなが私に向かって走ってくる。

女性陣はみんな私に抱きついてきて、男性陣は私の周りで拍手をしたり、拝んだりしている。


私に抱きついてきた人の中に、ミアの姿があった。


「マリーお姉ちゃん。全然帰って来ないんだもん」

ミアは頬を膨らまして、両手を腰に充てている。


「ミア、ごめんね」

私はミアまで目線を落とし、頭を撫でながら言った。


「カッコいいから許しちゃう」

「本当?」

「うん。やっぱり私のお姉ちゃんは1番カッコいい」


あーー

かわいい

連れて帰りたい

私、今ホームレスだけど


「マリーさん」

今度はアイラが抱きつきながら話してくる。


「私も、マリーお姉様って、呼んでもよろしいですか」



ズキューン

また私の心に何かが打ち込まれた。



「う、うん」

「ありがとうございます。マリーお姉様」



ズキューン



「私は、聖女様とお呼びしてもよろしいでしょうか」

アイリスさんがどさくさに紛れて言ってくる。


「却下です」

「あら、残念ですわ」


そんなやり取りをしていると、私を囲んでいる人達の間をすり抜けてレキシーさんが来た。


「マリー、やっぱりあなたすごいのね」

私は照れながら全然ですよ、と言った。


「そんなマリーに頼みがあるの」

「なんですか?」

「ここじゃ落ち着かないから」

周りを見渡しながらレキシーさんが言った。

確かに。


「話しは冒険者ギルドで。よれしければ、アイリス様と、アイラも一緒に来て」

私はミアに行ってくるね、と言うと4人で冒険者ギルドに向かった。

ミアはまた頬を膨らましていた。


冒険者ギルドに入ると、冒険者達が私に向かって拳を差し出したり、拍手をしたり、様々な形で迎えいれてくれた。


私はお辞儀をしながら進んだ。

にしても、日差しが強い。

天井ないけど、ここで落ち着いて話せるのかな?


「レキシーさん。落ち着いて話したいなら、建物直しちゃいましょうか?」

私は天井を見ながら言った。


「大丈夫。直してもらっても、これからの対応次第でまた直ぐに壊れちゃうかもしれないし」

ドラゴンの息吹のことかな。


私達は1階フロアの左隅にある席に座った。

冒険者達は少し離れた酒場のある位置でこちらを見ている。


「マリー、それで相談なんだけど」

私の正面に座っているレキシーさんが話し始めた。


「私はこれから、そこにいる冒険者達を連れてドラゴン退治に行こうと思うの。

そこでマリー、あなたにも力を貸してほしい」

「うん、いいよ」

「分かってる、マリーはここに来たばかりだし、力を貸す義理がないことは。

けど、それでも力を貸して欲しいの」

「うん、だからいいよって」

「この冒険者ギルドのギルドマスター、レキシーの一生のお願いと思って」


しばらくの沈黙の後


「いいのーー!?」

「ギルドマスターなのーー!?」


私とレキシーさんは同時に声を発した。


「レキシーさん、すごく若いのにギルドマスターだなんて凄い!!」

「若いと言っても、28歳だけどね。

って、それよりも本当にいいの?頼んどいてあれだけどドラゴンなのよ?」


28歳。

私の想定より、5歳は上だ。

この世界はみんな若く見えるのか?


「うん。ドラゴン退治は全然OK。それより、アイラは何歳なの?」

私はアイラを見る。


「わ、私ですか?13歳です」


想定通り

私より年下

お姉様セーフ


「うんうん」

「どうしたんですか、お姉様?」

「なんでもないの」

私はニヤつきながら言った。


「年齢の話しはいいから、本当に協力してもらえるの?」

「うん、ドラゴンは退治しようと思ってたし。ただし、行くのは私一人だけね」

「一人でって、マリーが強いのは知ってるけど、相手はドラゴンなのよ」

私達が話していると、ラドさんが私に近づいてきた。


「マリー、お前からしたら俺達は役に立たないかもしれないが、それでも一人で行かすなんてできん!!」

「違うよ。ラドさん達には、この街を守ってて欲しいんだよ」

ラドさんが立ったまま私を見てくる。


「今、衛兵が一人もいない状況だし、またミアのような被害がでないようにこの街を守っていて欲しいの」


「私の結界はまだ数日は持つと思うから、街の中だけに集中して、ミアやアイラ、街の人全員を守って」

「マリー」

レキシーさんが儚げな声で呟いた。


「これは、私にはできない。街のことを分かってる皆さんにしかできないことなの」

私はラドさんやその後ろにいる冒険者達に向かって言った。


「ふうー、お前には敵わないな」

ラドさんは笑うと後ろを向いた。


「お前ら、マリーが帰ってくるまで、この街を守るぞー!!」

ラドさんが大声で言うと、他の冒険者達から「おおーー」という力強い声が返って来た。


「マリー、申し訳ないけど、よろしくお願いします」

レキシーさんが頭を下げる。


「もう頭は下げないで。この1日でいっぱい頭を下げられたから」

レキシーさんは笑って頭を上げた。


「出発は早い方がいいよね?」

「できたら、早い方が有難いわ」

「じゃ、直ぐに出発するよ」

「なら、直ぐに馬車を用意するわ」


馬車•••

う〜ん


「ドラゴンのいるところって向こうにある山脈だよね?馬車だとどれくらいかかるのかな?」

「急げば10日位かしら」

「あっ、なら馬車はいらないかな。そんなに長いとお馬さんも可哀想だし」

レキシーさんは首を傾げた。


「馬車以外で、どうやって行くつもりなの?」

「走って」

「は、走ってって•••、いや突っ込むのは止めるわ。きっと無駄になりそうだから」

「じゃ、ご飯食べたら出発するね」


今の私には、ご飯は何よりも優先順位が高い。

この世界にきて1日ちょっと、私はまだ1食しか食べていないんだから。

お米、お米、味噌汁


「レキシーさん、野菜って、何か余ってたりしませんか?」

「野菜?一応、大根と玉葱ならあるけど」


おおー

大根

玉葱

一緒だ

異世界共通??

今更だけど、言葉も文字も分かるし。

補正がかかってるのかな?


私は冒険者ギルドに併設されている酒場のキッチンで大根と玉葱を茹でて、ご飯創生スキルで取り出した味噌を加えた。


完成した味噌汁に、炊き立てご飯を出せば完成。お菜は我慢。


「いただきます」

私は皆んなが見守る中、一人食事を始めた。


あーー

味噌汁

やっぱり最高


「お、おい、マリー。鍋にあるこのスープ、ちょっと貰ってもいいか?」

「うん、いいよ」

私は返事をした後、キッチン内にあるお皿を何枚か持ってきて、炊き立てご飯を出した。


「このお米と一緒に食べてね」

スープをお皿に入れ、席に着いたラドさんに私は言った。


ラドさんは恐る恐る味噌汁を飲むと、一気に目を見開いた。

そして続けて炊き立てご飯を口に運ぶ。


「な、なんだこれはーーー」

「うまい、美味すぎるーー」


ラドさんのこの言葉を発端に、その場の全員に味噌汁(追加で作った)と炊き立てご飯を振る舞ったのは言うまでもない。



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