「そろそろ終電だよ?帰ろうか」

トイレから戻り、席に着き、そう言ったが、

目の前にはグラス並々のハイボールが2つ。

「まだ、大丈夫!最後にもう1杯だけ飲んで帰ろ?」

「大丈夫なのか?そんなに飲んで。」

「•••大丈夫、久しぶりに、じんと二人で飲めたんだもん•••」

その後は言葉にせず、グラスを傾けた。

「仕方ない、これ飲んだらいくよ?家まで送るから。」

「ありがと。」


さっきまでの、笑顔は途絶え終始顔を伏せているあゆ、


「あのさ•••」


顔を上げると、なぜか瞼に涙が溜まっていた。

いきなりな事に、飲み過ぎの心配と共に

その表情に惹かれてしまっていた。


「•••愛する事に努力をしていると思った時、本当の愛じゃないって気がついちゃったの、

私気がついたの、本当に心から愛せたのか誰か

••」


そういって髪をかき分けると、同じリングのピアス。

その時に、心臓の音が一気に加速した。


「てっきりもう、忘れてるのかと思ったよ。」

絞り出した声は動揺を隠せなかった。

「忘れるわけないじゃない、大切なものだもん•••

今日、会った時にすぐ気がついたよ

昔からの二人だけの合図、今でも覚えてくれてて、ありがと。」

今にも溢れ落ちそうな涙を必死に堪えながら

笑っていた。


「覚えてるなんて思いもしなかった、よかった

まだ、オレを•••」

言葉に詰まりながら、必死に確かめようとしたが

「どうだろう?それは、分からない。二人を縛る物が何もなければきっと•••

ただ今日は何も聞きたくないよ、それ以上は求めてないから•••」


お互いの目線は、ズレる事なくお互いを、見つめていた。

言葉では伝えきれない何かを伝えるために。




「ごめんね、遅くまで、もう帰ろう。」

「そうしよ。」


そう言ってお店を出た後、家まで送る途中

一度だけ抱きしめた。

目に見える物で縛られる事と、心と心で縛られる事、どちらが強いかを確かめるかのように•••


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

はぐらかした裏に何を想う 星クロ @hoshi96

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ