はぐらかした裏に何を想う

星クロ

建前

都会の片隅の高架下

やまない雨に嫌気が差しながら

タバコを吸いはじめた。

薬指の指輪はこんな日も自分を縛り付け続ける。

「少し早く着きすぎたか•••」

携帯に連絡が来てないか確認するも、返事はまだこない。


遅くにもこの街は、人は途絶えない。

自分もその中の人の一人なのかと思うと、

息が詰まりそうだった。


「じん!」


心地よい声で名前を呼ばれ、振り返る。

派手すぎない服装、控えめな化粧

この街では少し不釣り合いなのかもしれない。

月日が流れていても、全く変わらない容姿や声、その姿に安堵した。


「変わらないね。あゆ。」


「じんも変わらないよー

後ろ姿でわかったもん、いつもその茶色の革ジャン着てくるもんね。それに、そのリングのピアス素敵!」


「オレのお気に入りだからね、

それより着いたなら連絡くれればよかったのに。」


「驚かせようと思ったの。」


笑いながら話すあゆを見ているだけで、心が穏やかになっていく。

自然と笑顔が溢れ、声色もなぜか高くなっていく。

何事にも変え難いこの時間

二人でいる空間だけ、雨すらも止んでると錯覚するほど、この世の何者も邪魔する事はできないと思った。


「行こうか?」

「うん!今日はどこのお店??」

「知り合いのバーでいい?今日は軽く飲んで帰ろう。」

「•••わかった!そうしよっ!」


一つの傘に体を寄せ合い

言わずとも手を繋ぎ、歩き出した。


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