第19話 それはきっと好きなんだろうって
脱出して生じた安堵もつかの間のもので……夏未は追跡してきた。
埒が明かないので、改めて話し合うことになった……お風呂で。
「ちょっと駄犬、貴方、下っ端のくせに私の星見君に引っ付き過ぎよ」
「別に昔からやってたことだし、普通だし。というか私のおにーちゃんにくっつきすぎなのは、そっちじゃないの?」
どうして湯船内なのか。
着衣したままだとまずいということで夏未もバスタオル姿になったけど、これも大概まずい。
右に冬華さん、左に夏未を挟む異様な光景となっていた。
「あの、俺そろそろのぼせそうなんだけどあがっていいかな」
「何言っているの?」
「私おにーちゃんが言っていること、わかんないな」
さいですか。
◇
「ひえー、流石にあぶなかった」
脱水症状になるスレスレのところでようやく解放された。
今は涼んでいるわけだ。冬華さんの部屋で、どうしてか。
「まったく……油断の隙もないわね」
同じく冬華さんが涼んでいる。
「……いろいろと拗れたけど、その、助けてくれてありがとう」
「ん、当然よ。溺死されると困るもの」
俺はと言えばソファーを借りて寝転がっている。
「夏未がなぁ……」
正直なことを言えば、夏未があのような感情を抱いていたことは寝耳に水だった。
兄妹仲はいい方だという自負があったけれど、その先に行っていたとは。
「気づいていなかったのね……結果として私にとっても好都合だったけれど」
「……幼馴染以上の距離感だからな」
たぶんこれも言い訳だ。
「俺からしたらいつまでも妹だったわけだよ」
「じゃあ異性として見られないわけ?」
「そうなるな」
「………………よっしゃ」
「何か言った?」
「いいえ? 聞き間違いじゃないかしら」
俺はすっと、起き上がる。
「ちょ、ちょっと……大丈夫なの?」
「もう平気だ。あんま世話になるのは悪い」
「なによ、彼氏なんだから甘えてもいいのに」
「あー、それ、それなんだけど……」
俺が“彼氏”というフレーズにツッコミを入れると、冬華さんはビクリと震える。
「な、何よ! まさかこのついでに私を振ろうっていうの!?」
ひどくビビっているようだ。
「いや、さ。ちょっと……いやかなりよくわかんないことが多いのは事実だけど、好きと言ってくれるのは嬉しいよ? 騙してる感じもないし」
「ふ、ふん、気持ちを言葉に表すのは当然よ」
そのくせヘタレなのは言わない方がいいだろう。
「冬華さん、とても可愛いし、結構努力家だよね」
極上……というものを完全に理解しているわけではないけど、理想の自分に対して邁進しているのには違いなく――俺が最初に抱いていた偏見みたいなそういった悪い印象はとっくの前に消え去っている。
止まらずに進み続ける姿は、努力家といって間違いないだろう。
「~~~~!?」
変な鳴き声をあげてプルプルと震える冬華さん。
この人は自分からの口説きは難なくこなすが、こういうカウンターにめっぽう弱いらしい。
「だからこそ、俺は彼氏って宣伝されても……否定はしないんだと思う」
「っ! そ、それって……」
「……たぶん、俺も冬華さんの彼女であれて嬉しい、と思っているんだ」
釈然としない所があるのは事実だ。
だけど、少なくとも、冬華さんの人間性はそれなりに見てきたつもりだ。
だからこそ、この答えが自然と出たのだろう。
すると突然、冬華さんは大粒の涙を流し始めた。
「えっ!? ちょ……冬華さん!? 泣かないで!?」
「な、泣いてなんてないわよ~!」
「めっちゃ涙! 涙出てるから……」
感極まって泣き出すとは、思っていなかった。
「あの、その……ごめん?」
「謝るんじゃないわよぉ! このばか! おばか! あんぽんたん!」
めちゃくちゃ怒られてしまった。
「最初からそう言いなさいよっ! もうっ、もうっ……」
力なく俺の胸を叩きながら……俺にしなだれかかる。
彼女が落ち着くまで、俺は受け止め続けた。
すこしすると安心したのか……小さな寝息を立て始める。
――俺が忘れていること、たぶん、それが彼女の中で俺に向ける好意の理由なのだろう。
――受け入れた俺は、それを気付くことはできるのだろうか?
――だけど今は、ちょっと奇妙な形ではあるけれどこの関係を噛みしめようと思ったのだった。
俺が美少女高飛車お嬢様にフリマアプリで買われて溺愛される話 @nekuranomiko
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