少子化対策シミュレーション

#365日ショートショート 136

「大臣、驚くべき結果が出ました」

　少子化対策省の大臣執務室に、部下が血相を変えて駆け込んできた。

「まさか例の実験かね」

「その通りです。少子化対策の有効性をはかる実証実験の結果です。しかし、実際に国民を使って実験するわけにはいきませんので、AIを用いて長期的なシミュレーションを行いました」

「そうであったな。確か、様々な条件付けで対照実験を行ったと」

「その結果がこちらです」

　部下は報告書を差し出した。驚くべきことに、条件Sのケースでは出生率に1.5倍の差が出ていた。

「これはすごい。条件Sの詳細を教えてくれ」

「対照実験ですから、あるひとつの要因を除き、前提は同じにしてあります。男女の数、年齢層、結婚願望から恋愛歴まで。この条件Sで異なっていたのは、土地です」

「ほう、土地とは」

「まず数値が低い方ですが、こちらが高層ビルが立ち並ぶコンクリートジャングルです。大型商業施設や飲食店が数えきれないほど立ち並び、イベントやライブなどの催しもほぼ毎日どこかで開催されています」

「それでは、この驚くべき1.5倍の出生率を叩き出した方は……」

「ええ、田舎です。電車は通っておらず、バスは一時間に一度バス停を通過します。マイカーがなければ生活は成り立たず、休日に遊びに行くとしてもスーパーか個人書店が関の山です。車で2時間走らせれば、イオンがあります」