【シーン11:二者択一】③

美堺 菜麻:「っ……!」



 その笑顔を見た瞬間、彼女の中にある覚悟を垣間見た気がした。




美堺 菜麻:あれだけぶっきらぼうだった彼女が、こんな、こんな。



美堺 菜麻:豊かな笑顔を浮かべるなんて、初めて見た時は思いもしなかった。



美堺 菜麻:みんなのことを仲間と言って、私のことを怒ってくれて。




美堺 菜麻:何を返せるだろう、私は。




美堺 菜麻:彼女に何が、できるのだろう?



美堺 菜麻:自分の弱さを見せた時からずっと考えていた。


美堺 菜麻:ずっと、ずっと、ずっとずっと。



美堺 菜麻:「…………せめて」


美堺 菜麻:「せめて苦しまないように」



美堺 菜麻:手に持った抑制剤を仕舞い、彼女に手を貸す。



美堺 菜麻:恩を仇で返そうとしている私に、私自身に。



美堺 菜麻:彼女を見捨てようとしている私に、泣きそうになっている私に。


 怒りだしそうなほど虫唾が走った。






宵野間 灯:「……はい」




宵野間 灯:そっか。




宵野間 灯:「ありがとうございます」


宵野間 灯:これは私の選択だ。それを受け入れてくれたことは嬉しかったし、役に立てると思えば誇らしかった。



宵野間 灯:ただ、少しだけ──、



宵野間 灯:「(死んじゃうって思ったら、怖いなぁ)」


宵野間 灯:震えて逃げ出しそうになる足に鞭を入れ、立ち上がった。



宵野間 灯:「それじゃあ、行きましょう」




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※選択の結果は……「抑制剤を使用しない」

 本当にそれで良いんですね?とGMは確認しながら、こうなったか…とパソコンの前で目を細めていた。

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印南 標:「美堺リーダー!」



GM:背後から声。振り向けば、印南が駆けてくる。



印南 標:「すみません、どうしてか───二人を見失ってしまって……」



GM:その視線が、宵野間の方を向き



印南 標:「……ッ」


GM:一瞬の間の後、状況を理解したのか、目を見開く。


印南 標:「……み、美堺リーダー…?」


印南 標:震える声で、美堺の方を見た。



美堺 菜麻:「…………」


美堺 菜麻:「……」



美堺 菜麻:……色々な感情が、胸に渦巻く。


美堺 菜麻:元はと言えば全て、全て彼女のせいだ。


美堺 菜麻:もし彼女さえいなければ。



美堺 菜麻:自意識と傾倒に囚われて、クッソみたいな妄想に憑りつかれていなければ。



美堺 菜麻:「…………」



美堺 菜麻:「……いや、うん」



美堺 菜麻:今はいい。



美堺 菜麻:どうでもいい。


美堺 菜麻:「……行こう、印南ちゃん」




美堺 菜麻:宵野間に手を貸しながら先へと進む。


美堺 菜麻:「私も、アナタも」


美堺 菜麻:「ケジメを付けに行きますよ」


美堺 菜麻:もう印南を見ることは無い。


美堺 菜麻:見据えるのは先。



美堺 菜麻:私に選択を強いる、私が目を背けてきた者達の姿。



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GM:体調の悪化、身の内に溢れる力が抑えられなくなりつつあるのを感じながら。

 宵野間は妙な感覚を覚えるだろう。

 身体の奥が痺れていくような、異物感。


GM:しかし、それの正体は分からないだろう。

 そして、それが取り除かれることも無い。



GM:それが、美堺菜麻が選択した結果だった。


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GM:美堺達が進んでいった先。

 吾妻 秋穂が立っていた。



GM:奇妙な培養機械を背に、ブロークンスマイルと共に並んでいる。薬剤の量産装置であろう。



GM:ブロークンスマイルの首には、首輪がつけられている。



 首輪には鎖がついていて、その先は吾妻 秋穂が握っている。



吾妻 秋穂:「へぇ」



吾妻 秋穂:「やっぱり薄情だね。美堺さん」


GM:宵野間の様子を見て、美堺の選択を知って、吾妻 秋穂は微笑んだ。



美堺 菜麻:「……ッッッヒヒッ」



美堺 菜麻:「仰る通り私は、こういう人間だから」


美堺 菜麻:「でも薄情っていうのは心外ですかね」



美堺 菜麻:「これでも色々、色々考えて、考えて。無い知恵絞って奥歯噛み締めての選択なんだから」


美堺 菜麻:「……ねぇ、もう一つ聞きたい事あるんだけど?」





吾妻 秋穂:「それは考えているフリだよ」



吾妻 秋穂:「私はいっぱいいっぱい考えたから、すっごく悩んだから」


吾妻 秋穂:「だからみんな許してって」



吾妻 秋穂:「そう言い訳するためのポーズ」


吾妻 秋穂:「自分でも分かってるくせに」


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※「この女ァ…」ニヤが呻いた。

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吾妻 秋穂:「……で、ええと。なんだっけ。聞きたいこと?いいよ。なんでも答えてあげる」



吾妻 秋穂:「私は貴女の親友オルターエゴだから」





美堺 菜麻:「…………許してもらおうなんて思ってないですよ」


美堺 菜麻:ぼそりと呟いて。


美堺 菜麻:「どうして私なんですか?」



美堺 菜麻:「どうして私に選択を迫ったんですか?」


美堺 菜麻:「私以外でもよかったんじゃないですか?」



吾妻 秋穂:「うーん」



吾妻 秋穂:「さっきの以外は私じゃなくて、お姉ちゃんが選択を迫ってたんだけど……」



ブロークンスマイル:「それは単純に、君が対策チームのリーダー……今回の件で、UGNの代表として私の前に立ったから」



吾妻 秋穂:「だって」


吾妻 秋穂:「で、さっきのは~……」




吾妻 秋穂:「私ね、お姉ちゃんを探してたの」



吾妻 秋穂:「お姉ちゃんがチルドレンとしてUGNに連れていかれてから、記憶の処理を受けた後も、何度もお姉ちゃんとは夢で会ってた」



吾妻 秋穂:「私はずっと、お姉ちゃんを探してたの」



吾妻 秋穂:「そんな時に会ったのが、美堺さんだった」




吾妻 秋穂:「なんだったかな。駅でハンカチを拾ってくれたんだったかな。バスで席を譲ってくれたんだったかな。お食事屋さんで、おしょうゆ取ってくれたんだったっけ」



吾妻 秋穂:「そういう、なんでもないこと。なんでもないことだったけど、十分なきっかけになったこと」



吾妻 秋穂:「やっと見つけた、って思ったの」





吾妻 秋穂:「でも、見捨てるんだもん。友達だったのに」



吾妻 秋穂:「だからさっきのは、単純な興味。貴女が大事なバディも、ちゃんと見捨てられるかどうか」



吾妻 秋穂:「だから、嬉しいよ?特別扱いしないでくれてさ」




美堺 菜麻:「……ッッッヒヒッ、私はね、吾妻ちゃん」



美堺 菜麻:「兄弟とか、家族とか、グレーゾーンとか」


美堺 菜麻:「そういう面倒事が嫌になって逃げ続けてきた女だから」



美堺 菜麻:「手を離す時は離すよ」



美堺 菜麻:「結局、自分が一番大事な女だから」



美堺 菜麻:「見当違いだったね」


美堺 菜麻:「……でも、それでも」




美堺 菜麻:「言い訳しながらでも、こうして立っていこうと思ってるよ」



美堺 菜麻:「この子が光って言ってくれたから」

 宵野間の肩を抱き寄せる。


宵野間 灯:「美堺さん……」



美堺 菜麻:「心に影落としながらでも、見捨ててきたものに何言われようと」



美堺 菜麻:「身勝手に、自分勝手に。アナタに挑もうと思ってるよ」




宵野間 灯:「美堺さんは、薄情なんかじゃありません」


宵野間 灯:「誰かのために悲しめて、苦しめて、温かい人です。だからこそ、私は背中を預けられる」


印南 標:「……」



宵野間 灯:「それにあなたを見捨てたというなら、私たち全員がそうです。選択を委ねたのも、それに従ったのも、私たち全員がそうだから」



宵野間 灯:「だから、美堺さん。ジャームの言うことなんて真に受けないでください」



宵野間 灯:「帰りましょう。必ず、3人で」

 見境と印南に向かって笑いかける。


印南 標:「……うん」


印南 標:「彼女の言う通りだ。選んだのはリーダーでも、その責任は僕達全員が背負う」



印南 標:「僕たちは、UGNで、仲間なんだから」




美堺 菜麻:「……っ」

 顔を背ける。その言葉に、自分は何を返せばいいのかわからなかった。







吾妻 秋穂:「次は貴女達が見捨てられるだろうにね。良く言えたものだよ。すごいね」

 宵野間と印南に冷たい視線を向け。


吾妻 秋穂:「いいよ?貴女は私のお姉ちゃんじゃなくて、お友達だから。私も美堺さんの……美堺さん達の生き方を肯定してあげる」




吾妻 秋穂:「お姉ちゃんは、ちゃんと別に見つけられたから」


吾妻 秋穂:じゃらり、とブロークンスマイルの首輪の鎖を引く。




吾妻 秋穂:「でもこのお姉ちゃん、私のこと殺すんだもん」


GM:吾妻秋穂の死因はブロークンスマイルの襲撃である。それを理解しながら姉だと呼ぶ吾妻は、ジャームらしく完全に狂っていた。




吾妻 秋穂:「怖いよね。だから今はね、こうして、躾してるの」





吾妻 秋穂:「面白いねぇ、美堺さん。今はこうやってお互い、首輪付き……グレーゾーンを侍らせて相対してる」



吾妻 秋穂:「ねぇ。どっちのバディが強いかなぁ?」




美堺 菜麻:「……そんなの」


美堺 菜麻:宵野間の頭をくしゃくしゃっと撫でて。








美堺 菜麻:「私達に決まってるじゃないですかっ!!」


美堺 菜麻:精いっぱいの強がりを見せた。






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※次回最終戦闘開始……というところで10日目のセッション終了。

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ダブルクロス3rdリプレイ【The alternative】 ロマネスコ @romanesco

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