【シーン11:二者択一】②

GM:郊外の水道設備へとキミ達は急いだ。


GM:その途中、美堺の端末で情報が共有される。


GM:対魔忍の暴走症状は比較的軽度であるようだ。

 というのも都市一体に広がる水道に流された活性剤は、量産されたとはいえ、かなり濃度が低くなっているらしい。


GM:これであれば、抑制剤を量産することさえできれば、それによって後から十分に治療できるだろう、とのこと。



GM:薬品の量産設備がどういうものかは現地に行くまでは不明だが、ブロークンスマイルが守っているのは間違いない。ジャームらとの戦闘は避けられないだろう。


GM:ブロークンスマイルはまだまだ活性剤を散布したいに違いない。量産設備が破壊されているということもないに違いない。



GM:現状、都市部ではパニックが起きている。

 しかし、これに対し田岡が様々なメディアにおいて、注意喚起を促すメッセージを発信している。



───どういうわけか、田岡の動画による情報発信は手慣れたもので、視聴者達もそれをよく受け入れているようだ。


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※田岡のバックボーンに起因する。オーヴァードとしての力を利用したいわゆる炎上系動画配信者だったのだ、彼女は。

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GM:これによって被害の拡大は幾らか抑えられることだろう。




クリーピング・ラット:「クケケケケケケーーーーッ!!」


GM:しかし、水道施設に到着したキミ達の前には、無数の四足歩行のジャームが立ち塞がる!



二郷 友典:「クソッ、またうじゃうじゃと……!」


印南 標:「誰か一人に残ってもらって、囮を頼むのがよさそうですね…!」


二郷 友典:「……なら、俺か印南だろうが……」


宵野間 灯:「美堺さん……!」


美堺 菜麻:「……二郷ちゃん、ここお願いします」


美堺 菜麻:「印南ちゃんとアノは私と一緒に先に進みます」


美堺 菜麻:「二郷ちゃんも全部ぶっ殺して片付き次第合流して下さい」


二郷 友典:「よし!任されたァッ!」

 両掌から炎を噴きださせて、戦闘態勢


二郷 友典:「ぜってぇ追いついてやる!」




二郷 友典:「……」


二郷 友典:「宵野間ァ!」


二郷 友典:視線は向けず、背を向けたまま叫ぶ。



宵野間 灯:「……っ!」


宵野間 灯:一瞬、立ち止まって振り返る。



二郷 友典:「おめぇが嫌がるのは分かってるが、敢えて言っとくぞ」



二郷 友典:「美堺リーダーを死なせんなよ。おめぇが頼りだ」


宵野間 灯:「二郷さん……」




宵野間 灯:「帰ったらまた、ご飯行きましょう!」


二郷 友典:「!」



宵野間 灯:それだけ言って走り去る。


二郷 友典:ニッ、と口の端で笑って、ジャームの群れの中へと飛び込んでいく。



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GM:水道施設内部は人気がない。

 どうやら既にワーディングも張られているようだ。

 内部にも四足歩行のジャームは多数存在し、キミ達はそれを撃破しながら進んでいく。



GM:そして敵を葬りながら、幾らか走り続けていると……



印南 標:「……おかしい」


GM:印南が足を止め、周囲を見回しながら話しかけてくる。



宵野間 灯:「?」


美堺 菜麻:「何だか同じ場所を行ったり来たりしているみたいですね」


GM:幾ら廊下を曲がれど、階段を降りれど、目的地へと近づいているという感覚がない。



印南 標:「まるで、迷路みたい……」



美堺 菜麻:「一筋縄ではいかないと思っていましたが、これはまた難儀ですね……」



印南 標:「……これは、エフェクトによるものかもしれません」


印南 標:「聞いた話ではありますが、オルクスのオーヴァードが自身の領域内の施設を迷宮化できる、と」


印南 標:「ブロークンスマイル……吾妻さんのシンドロームはオルクスではないはずなので」



印南 標:「……敵側に、オルクスのオーヴァードがいるのだと思われます」




宵野間 灯:「私が、出口を探します」


宵野間 灯:イージーエフェクト《まだらの紐》で出口を探します。探し方はわかりません。


宵野間浸蝕率:126


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※分からないんだ……と動揺しながらもせっかく取得してもらっているイージーエフェクトである。なんとかかんとかできることにした。

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GM:宵野間のイージーエフェクトが発動された。

 知覚を持たせた影はあらゆるところに潜り込み、情報を収集する。



美堺 菜麻:「(敵側にオルクスがいる……まさか、吾妻 秋穂……)」



GM:迷路は入り組んでいるが、二次元的なアクセス……裏道によってやがて目的のものを見つけるだろう。

 つまり、ブロークンスマイルの姿である。

 そこから逆算する形で、キミ達は正しい進路を進めそうだ。



宵野間 灯:「……」(影の濃い場所でしゃがみ込んで目を瞑っている)



美堺 菜麻:後ろからそれを眺めている。



宵野間 灯:ぱちり。目を開き。


宵野間 灯:「見つけました。こっちです」



美堺 菜麻:宵野間が指し示した方角。

 それは自分達が走ってきた真逆の方向。



美堺 菜麻:「……そうか、進んでも辿り着けないなら戻ればいいのか」



美堺 菜麻:少し考えればわかることも、急いでいる今の頭ではなかなか思い付かない。

 それが相手の狙いで時間稼ぎの手段なのだろう。



美堺 菜麻:「アノ、ナイス」


美堺 菜麻:それを見つけてくれた相棒の肩を二度叩いて、印南を引き連れ来た道を戻ることにした。


宵野間 灯:「これくらい当然です」




GM:キミ達は宵野間の見つけた正しいルートを進んでいく。

 階段を降りていき、施設地下へと。



GM:空気が冷えていき、しんと静まり返った空間に、キミ達の足音が響く。



GM:四足歩行のジャーム達も、だんだんと現れなくなっていた。







GM:───ふと


GM:気付くと



GM:そこにはキミ達……美堺と宵野間だけになっていた。



GM:周囲を見回したとして、印南の姿はないだろう。



美堺 菜麻:「……印南ちゃんが消えたってことは」


美堺 菜麻:「ここが目的地ってことになるのかな?」



GM:その呟きにポツリ、返事が返ってくるだろう。





吾妻 秋穂:「いや……もうちょっと下かな」


GM:遠くの闇の奥から、その声は響いてきている。



宵野間 灯:「っ!」


美堺 菜麻:「……吾妻、ちゃん」



吾妻 秋穂:「は~い、貴方のお友達の吾妻ちゃんですよぉ~」



GM:声の主は吾妻 秋穂。喜悦の混じった声音は、神経を逆撫でする棘に満ちている。


美堺 菜麻:「そのお友達のこと吹っ飛ばすのは私どうかと思いますけど?」


吾妻 秋穂:「ふふっ、この前のことだね。ごめんね、美堺さん」


吾妻 秋穂:「でも……貴方も私を見殺しにしたんだし、おあいこじゃない?」


美堺 菜麻:「うっ……そこを突かれると正直私も痛いのですが……」



美堺 菜麻:「それはそれ。これはこれです」


美堺 菜麻:「アナタがそちら側にいるのなら私はアナタをどうにかしないといけません」


美堺 菜麻:「願わくばまたこちら側に戻ってきてほしいのですが……?」



吾妻 秋穂:「……」



GM:しばらくの沈黙の後、闇の中からはクスクスという笑い声が返ってくる。




吾妻 秋穂:「それも、いいかもしれないんだけど」



吾妻 秋穂:「ごめんね?お姉ちゃんが、どうしてもこの国の人みんなをジャームにしちゃいたいんだって」



吾妻 秋穂:「私、それを手伝わないと」



美堺 菜麻:「……それが、アナタが私達と対峙する理由ですか?」


吾妻 秋穂:「んーーー」


吾妻 秋穂:「それじゃあ美堺さんは嫌かな?物足りない?」



美堺 菜麻:「……いや」


美堺 菜麻:「ぶん殴るには十分ですよ」


吾妻 秋穂:「ふふっ、ありがとっ」



吾妻 秋穂:「でも……実はもう一個あるよ。戦わなきゃいけない理由」




GM:闇の奥で、邪悪な笑みがチラついた気がしただろう。



GM:瞬間、一切気配なく。何かが宵野間の首に突き刺さる。



宵野間 灯:「え───」





吾妻 秋穂:「私も、気になるんだよね」




吾妻 秋穂:「美堺さんが、どっちを選ぶのか」




美堺 菜麻:「アノッ……!」


宵野間 灯:「みさ、かい……さ……」



GM:宵野間の背後に立っているのは、ブロークンスマイル。



 その手には、空の注射器(インジェクター)。

 中身は宵野間へと投与された後だ。



GM:宵野間は即座に50%、侵蝕率を増加させてください。


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※ざわつくPL。当然である。強制的に上げて良い侵蝕率としては大きすぎる。が、これがこのシナリオ最大の関門と言えるものだ。以前の田岡の窮地と同様、Eロイスによる状況成立であることをGMは説明した。

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宵野間浸蝕率:176



宵野間 灯:「逃、げて……」





吾妻 秋穂:「選んで。美堺さん。貴方が守るモノと失うモノを」




GM:投与を終えたブロークンスマイルと、吾妻 秋穂は即座に離れていくだろう。



GM:投与されたのはレネゲイドウィルス活性剤の原液である。

 これは急激に宵野間の体内のレネゲイドウィルスを活性化させ、彼女を完全なジャーム化へと追い込む。



GM:しかし、美堺の手の中には、これを治療することのできる、抑制剤がある。


GM:これを投与すれば、宵野間の急激な侵蝕率上昇を戻すことができるだろう。




宵野間 灯:「わ、たしは……だ、じょぶ、ですから……」


宵野間 灯:蹲り、苦しそうに胸を抑えながら、絞り出すような声を出す。


美堺 菜麻:「大丈夫なわけないじゃないですかっ!!」

 吾妻 秋穂のことは既に頭から飛んで、苦しみ出した宵野間を支える。



美堺 菜麻:「抑制剤、抑制剤を打てばすぐ」



 どうにかなる、と。

 注射器を握りしめたところで手が止まる。



美堺 菜麻:ここで使えば量産化が遅れる。


 遅れてしまえば外の被害はさらに広がる。



美堺 菜麻:浮かぶのは田岡や二郷の顔。


 目の前にあるのは宵野間の顔。




美堺 菜麻:「……もう、もうっ!!」




美堺 菜麻:どうして私なのか。




美堺 菜麻:「どうして、私なんですかっ!?」




美堺 菜麻:叫んでも答える者は既にいなくて。



美堺 菜麻:いなくて。




美堺 菜麻:いなくて。



美堺 菜麻:私は……私は……っ!!








宵野間 灯:苦しそうに顔を歪めながら笑ってみせる。



宵野間 灯:「これ、でも……元、チルドレンですから……」


宵野間 灯:「UGNの……ために、死ねるなら……本望です……」



宵野間 灯:「……」





宵野間 灯:「ただ、戻ってこられなかったら、その時は……」


宵野間 灯:「お願いします」



美堺 菜麻:「やめてよ……っ! せっかく仲良くなれたのに、そんな言い方……っ!」


美堺 菜麻:「さっきご飯食べに行こうって二郷ちゃんと話してたじゃないですか……」


美堺 菜麻:「今から色んなこと、たくさんのこと知れるってなったのに」



美堺 菜麻:「光を見つけたって言ってたのに」


美堺 菜麻:「……嫌ですよ、私」


美堺 菜麻:「また、グレーゾーンの子を、手にかけるなんて……」



宵野間 灯:「……………」


宵野間 灯:「二郷さんには、ごめんなさいって……」



宵野間 灯:「えっと、それから、それから……」



宵野間 灯:ずっと消えたかった。こんなに苦しいなら、そっちの方が楽になれたから。


宵野間 灯:けどそうできなかったのは、諦めきれなかった。



宵野間 灯:暗かった世界を照らしてくれるような、そんな光を。



宵野間 灯:ようやく見つけられた気がしたのに。





宵野間 灯:いや、だなぁ──。



宵野間 灯:でも、だからこそ、その光が今、見つけられたからこそ、言えるんだ。




宵野間 灯:「私は、大丈夫、です」



宵野間 灯:「信じてますから、美堺さん」




宵野間 灯:涙をこらえて、精一杯の笑顔で。





美堺 菜麻:「っ……!」


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※選択はシンプルである。宵野間を救うか、抑制剤を使わずに世界を救う為の可能性を残すか。

 PCのロストに関わる問題である。GMはPL間でしっかり相談して欲しいと告げた。しかし、それでもこれまでの例にもれず最終決定権があるのは美堺……そのPLであるニヤだ。難問に呻くニヤ。

 宵野間のPLである よ鹿は自身のデータを確認し、最終戦闘の消費次第では抑制剤を使わなくてもバックトラックで戻れる可能性もあると気付き、提言する。しかし、戦闘の内容や出目次第ではロストの可能性も十分にある……。50点の上昇というのはそういうラインだ。

 相棒か、世界か。ニヤはしばらく悩んで…………

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