雪想譚

深茜 了

雪想譚

辺りは、一面の銀世界だった。


見渡す限りが全て白く、大粒の雪が空から降り続けている。


その白の中にまどかは埋もれるようにして倒れていた。


閉じかけている両瞳の睫毛には白い雪の粒がついていて、その白色ばかりの中、彼女の腹部から流れ出た血だけがその一帯を紅く染めていた。


そんな彼女を、あきらは呆然と見降ろしていた。


一体、何がいけなかったのか。

今まで自分なりに、必死にやってきたつもりだった。それなのに、どうしてこんな結果になってしまったのだろう。


「晶君・・・、ごめんね・・・、ごめん・・・」


悪いのは自分なのに、円はかすれた声で晶にそう言った。


それが晶を現実へと呼び戻す。


終わりにしなければ。


自らも薄れゆく意識の中で、そう思った。終わりにしなければ。


円に一歩近づく。彼女はもう瞳を閉じていて、晶を認識しているのかもわからない。


その彼女に、晶は自分の持っていた物を突き刺した。

そしてそれを引き抜くと、辺りを白く染めていたあかの面積がじわりと増えた。


晶は息を吐き出し、こと切れた円の横に膝をついた。


——これで、良かったんだよな?


呟いてみるものの、答えは返ってこない。


更に意識が薄らいできた。自分も、そろそろだ。


そのまま、円のすぐ隣に倒れ込んだ。何故だか安らいだ気持ちで一杯だった。

晶は静かに微笑んだ。


そうして倒れる二人の背中に雪が降り積もり、二人を白く包んでいった。


——これで、良いんだよな?


再び心の中で繰り返す。

雪がやむ気配は無い。


晶は最後に横を向き、円の白い頬にそっと触れる。

そして頬を優しく撫でると、晶はそのままがくりと首を垂れ、白銀の中ゆっくりと目を閉じた。

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雪想譚 深茜 了 @ryo_naoi

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