第11話 それじゃあ……それじゃあ、もう一度、地獄の日々を、味わうってことじゃないか……

 2食ぶんの飯をかきこみ、食べすぎた腹をさすりながら、俺は登校した。そこで俺は、普段とは違う階へと、足を延ばしていた。

 2年生が使うフロアだ。

 どうしても、先輩が無事だったのかを、確認しておきたかったからだ。


爽夜さわや先輩って……2-Cだったっけ?)


 うろちょろと、教室の中を覗こうとする、俺に気がつき、廊下にいた1人の生徒が、声をかけてくれる。




「だれ、探しているの?」

「あの……爽夜さわや先輩って、きてますか?」




 その人は、俺の代わりに、教室に首を突っこむと、クラス内を見回しながら、言葉をつづけた。




「ああっと……今日は休みみたいだね。爽夜さわやってどったの?」




 その台詞に、じゃれあっていた数名が、こちらに気がつき、答えるように返事をする。




「知らね~。風邪じゃん?」

「えっ、私、行方不明って聞いたけど」




 どきんとした。

 徐々に心臓が脈を強く打ちはじめ、ついには、早鐘のようなリズムへと変わる。




「す、すみません! 先輩の……家ってどこですか?」




 入口付近で、読書をしていた生徒が、ほかのメンツに代わって応えた。




「寮だよ。2年の」




(秋月寮……)




「あり……がとう、ございます」

「あっ、ちょっと……」




 俺は夢中で駆けだしていた。

 気のせいだと信じたかった。


(きっと、先輩たちの言うように、風邪を引いただけなんだ)


 そうだ。

 寮にはちゃんと、帰っているに違いない。

 自分の学生寮から、東に500m。1年の寮よりも、色んな設備の整った、少しだけ豪華な建物――それが秋月寮だ。

 チャイムを鳴らし、管理人に確認を取れば、案の定と言うべきか、爽夜さわや先輩は、昨日から帰っていないという。




五十公野いずみのさんでしょう? ええ、帰宅していないわ。ちょっと、心配なんだけれど……」




(嘘だ……これは何かの間違いだ)


 たぶん、ちょっとした家出をしているんだろう。

 俺は当たり前のように、学園なんかさぼって、その日は夜まで、寮の前で先輩の帰りを待った。

 だが、翌朝になっても、先輩が姿を見せる気配は、一向になかった。

 涙ぐみながら、地べたに体育座りをしている、俺を見て、通行人がぎょっとしたように、速足で通りすぎていく。


(助けられなかった……)


 昨日の事件は、突発的なものではなかったのだ。

 計画的な犯行。

 だれでもいいわけじゃなかった。

 考えてもみれば、あんな大胆に、人を連れ去るような集団だ。ろくな人間じゃない。

 きっと、組織的なグループなのだろう。

 事件の当日、少しだけ現場から離れたくらいじゃ、どうにもならなかったのだ。

 爽夜さわや先輩という、特定の個人を狙った事件。

 もっと前に遡って対策をしなければ、先輩を助けることはできない。


(でも……それは)


 当然、別の人間に憑依する、確率の隙間イラトベラーでは、対策の仕様がない。10分ちょっとの行動で、変えられる未来だなんて、高が知れている。

 俺自身が、過去に戻らなければならない。

 それも最大の猶予を持って――。


(それじゃあ……それじゃあ、もう一度、地獄の日々を、味わうってことじゃないか……)


 あと20日だ。

 それで、ようやく地獄の日々とも、おさらばできるところまで、近づいたのだ。

 それを棒に振って、俺は、過去に戻らなければならないのか?


爽夜さわや先輩を助けるためには、それをしなければならないというのか……)


 涙が出てきた。

 胃液が逆流したのか、口の中が異様にすっぱい。

 ヨダレと鼻水がどうしようもなく、こぼれていく。

 一度は、命を賭けてでも守ろうとしたが、それは、自分にどんな暴力が訪れるのか、具体的にはわからなかったからこそ、できたにすぎない。一回ぽっきりの蛮勇なのだ。

 今、こうして目の前に出されれば、俺は逃げたくてたまらなくなっている。


(考えなおすな……あの日々を想像なんかしちゃダメだ)


 そんなことをしては、とたんに覚悟が薄れてしまう。




「いいぜ、わかったよ……」




 やってやる。

 やってやろうじゃないか……。




「……確率の隙間イラトベラー!」




 地獄の門よ、俺の前に道を開くがいい。

 今度こそ、本当に先輩を救ってやる。

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【全11話】転生失敗!? 世界呪のロボット ~チートでもイケメンでもないんだが?~ 御咲花 すゆ花 @suyuka_misahana

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